第4話:敵の姿は
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
森の状況は把握できた。
あとは、敵のことについてだ。
クルムは、モリヒト、ルイホウ、クリシャ、アレト、ノーマン、と視線をめぐらせる。
「現在、ディバリスの森周辺は、帝国軍の皆さまに検問を張ってもらい、飛空艇で哨戒していただいています。そちらで、犯人発見の報はありません」
「はい。帝国軍の哨戒部隊からは、人を発見した報告はありませんな。一部の違法な傭兵や密猟者などが侵入しようとしたのを捕らえた程度です」
ノーマンの補足を受けて、クルムは頷いた。
「また、現在も瘤の噴出は続いていることから、犯人は、まだディバリスの森の内部に潜伏していると考えられています」
「犯人についての目星は?」
「森守側では、目視でそれらしき姿を見つけています」
「なんと?! そんな報告は今までにありませんでしたが・・・・・・」
ノーマンが驚き、クルムへと不信の視線を向けてくるが、
「発見の報が入ったのは、数時間前のことです」
クルムは動揺を見せることなく頷いて見せる。
実際のところ、目撃情報自体は、数日前からあったが、ギリーグがそれを帝国側には隠していたのだ。
背後から、ギリーグの鋭い視線を感じるが、事態鎮静の妨げとなる無駄なプライドの発露、とクルムはそれを気にしない。
とはいえ、帝国軍と関係が悪くなるのは避けたいから、発見は先ほどのことだということにする。
嘘も方便だと、内心でため息を吐きながら、クルムは説明を続ける。
「森守の巫女たちが地脈の走査をしている際、異常を感知した場所があり、防人に確認に言ってもらいました」
防人、というのは、森守の中でも実際に森を守るために動く、実働部隊の総称だ。
ギリーグは、その部隊の代表者である。
普段は、森の中で狩りをしたり、森守の集落に近づく危険な魔獣の排除などに当たっている。
当のギリーグは、背後で不貞腐れたように憮然とした顔をしつつも、クリシャへと警戒の目を向けている。
その理由に心当たりはあるが、今はそれより、状況の共有が優先だ。
「現在発見されている犯人は、男女の二人組と思われます」
「その二人の人相などは?」
質問が出たが、クルムは首を振る。
「女の方は、フードで顔を隠していて、確認できていません」
「男の方は?」
「確認できています」
言いながら、先ほど作ったばかりの似顔絵を出す。
木炭で白い布に書きなぐっただけの代物だ。
描かれているのは、どこか野蛮な風貌だ。
不細工な顔立ちではなく、むしろ整っている。
精悍、といってもいいが、やはり野蛮、という方がしっくりくる。
「長身で筋肉質。武装は投げナイフと格闘。ただ、腰の後ろに大振りの鉈のようなものを確認しているそうです」
「戦闘になったのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
ちら、とクルムは後ろを見るが、ギリーグは何も言わず、視線をそむけた。
その反応にため息を吐きそうになりながら、クルムは告げる。
「女の方を発見したのち、捕縛しようとしたところで奇襲を受けました。・・・・・・おかげで、報告が届くのが一日遅れました」
「む」
「森守の方が、森の中は慣れてる。・・・・・・のに、奇襲を受けた・・・・・・」
「油断しただけだ」
ギリーグが背後から言うが、クルムは無視した。
「それだけ、相手は強いということです。防人が森の中で奇襲を受けるなど、正直考えられません」
厄介な相手だ、とクルムは唸る。
数で上回るこちらを、地の利が相手にある状態で上回る。
間違いなく強者であり、
「はっきりと言って、森守側の戦力で犠牲なくこの犯人を捕らえることは不可能です」
後ろのギリーグは何か言いたいことがありそうだが、クルムは取り合わないことにした。
** ++ **
「状況は分かったっす」
アレトは頷く。
正直、思っていた以上に厄介な状況だと思う。
単純な地脈災害なら、いくらだって解決できる状況にあった。
森守にも巫女はいるし、ルイホウだって同行している。
信用していいかどうかはともかく、クリシャだってなんだかんだ規格外だ。
犯人と思しき男の似顔絵を見る。
こいつが、状況を難しくしている。
おそらくは、ミュグラ教団の所属員だろう。
だが、初見だ。
今までに確認されたミュグラ教団員なら、似顔絵が手配書として出回っているし、アレトはすべて記憶している。
だが、この顔は見たことがない。
「・・・・・・・・・・・・」
慣れていない森の中で、森に慣れた森守を奇襲できるか。
アレトには不可能だ。
いや、魔皇近衛の中に、それができるものはおそらくいない。
騎士なので奇襲は畑違いとはいえ、その困難さが想像できないわけではない。
「戦闘に、なったんすよね?」
アレトはクルムに確認する。
「はい。四人一組で捜索させていましたが、一人目は奇襲で気絶。もう一人は、反撃する暇すらなく一撃。残った二人にしても、反撃をしたがものともせずに攻撃され、のされた、と」
「死者は?」
「いません」
「マジな使い手っすね・・・・・・」
敵対すれば殺しに来る相手を、殺さずに済ませる。
実力差があるからできることだ。
正面からやり合った場合、果たして自分で鎮圧できるか。
「・・・・・・きついっすね」
話を聞くだけでははっきりしないとはいえ、おそらくはかなりの困難を極める。
相手は一人ではなく、二人組であることも含めて、おそらく相当に困難だ。
「状況は把握したっす」
アレトとしては、ため息を吐きたい状況だ。
自分の指揮下に帝国軍を入れたが、これから部隊を指揮して、場合によっては確実に損害が出る相手へ、帝国軍をぶつけなければならない。
気が重い。
「少佐。今の状況はまとめて、即座に帝都の方へ送ってほしいっす。陛下には、何より正確な情報を上げてください。・・・・・・状況は、思ったよりひっ迫しているっすね」
「了解しました」
** ++ **
クルムは、状況の共有が一段落ついた気配を感じて、小さく息を吐いた。
背後で、ギリーグが立ち上がる気配がする。
何をする気かは分かっている。
「ギリーグ、少しまってください」
「クルム」
「貴方が何を確認したいかは分かっているつもりです」
ふう、と一つ息を吐いて、クルムはテーブルの向こう側を見る。
そこには、地図を覗き込みながら、ルイホウと話している少女、クリシャの姿がある。
「・・・・・・クリシャ様、でよろしいですか?」
「ん? 別に様なんていらないよ?」
「お聞きしたいことがあります。よろしいですか?」
クルムの問いに、クリシャは肩をすくめて苦笑した。
「固いなあ・・・・・・。まあいいや。何だい?」
気楽な調子のクリシャに、多少毒気を抜かれる思いながら、クルムはクリシャを見据える。
テントに入った時に、クリシャは帽子を脱いだ。
そこからこぼれた、綺麗な白の長髪と、赤と蒼と金の三色が入り混じった髪。
「犯人についてです」
「ミュグラ教団員なんだろう? でも、ボクも知らない顔だよ?」
きょとん、とした顔は、何を聞かれるのか、本当に分かっていない顔だろう。
だが、聞いておかなければならない。
「その似顔絵は、炭で描いたものなので白黒ですが、犯人には、ある特徴がありました」
「おや? もしかして混ざり髪だったかい?」
自分の色の混ざった髪をいじりながら、クリシャは笑って聞き返してきた。
確かに、犯人は混ざり髪だ。
ただし、
「はい。犯人の男は、白の髪に、青、緑、黒の三色の髪の混じった、混ざり髪です」
クルムの告げた犯人の特徴に、クリシャの動きが止まった。
その後、クリシャはクルムに睨むような一瞥をくれる。
「・・・・・・・・・・・・本当かい?」
「・・・・・・本当です。接敵した者たちが、確認しています」
接敵の時間は短かったが、その色ははっきりと見たという。
クリシャからのにらみに、クルムは背筋が凍る思いだ。
魔力を伴った、すさまじい圧がある。
「・・・・・・なるほど、後ろの坊やが、ボクを警戒するわけだ」
はあ、とクリシャがため息を吐くと、その圧力は雲散霧消した。
「人気者だな」
「言われるまでもない」
モリヒトにからかわれるように言われ、クリシャは肩をすくめる。
「まず、その人物については知らない。これははっきりとしておくよ」
「本当か?」
「うん。指名手配されるような主要メンバーについては知ってるけど、そいつは知らない。・・・・・・ボクみたいな多色の混ざり髪なんて目立つから、知らないはずがない。おそらくは、最近加わったんだと思う」
「貴様の血縁者、という可能性は?」
ギリーグの問いに、ふん、とクリシャは鼻を鳴らす。
「あり得ないよ。ボクにはもう親はいないし、兄弟姉妹も生き残っていない。ついでにいえば、子供もいない。・・・・・・あと、大前提として、混ざり髪の発露に血筋は全く関係がない」
「それに、青、緑、黒なんだろう? 色合いが違うじゃないか」」
クリシャの言い分は分かるし、モリヒトの言う通りでもある。
「・・・・・・ただし、ボクとは無関係、とは言い切れない」
クリシャは、そう、付け加えた。
「どういうことでしょうか?」
クルムが問いかければ、クリシャは真剣な顔で、答えた。
「ミュグラ教団では、人工的に混ざり髪を造る研究がされていたからね」
「人工的に?」
「そう。妊婦に外部から地脈の魔力を流し込んだり、生まれたばかりの赤ん坊にいろいろやったり、ね」
「人の所業か。それが」
ギリーグが吐き捨てるように言う。
クルムも同意だ。
クリシャも頷いた。
「ボクの知る限り、成功例はいないと思っていたんだけどね、もしかしたら」
「だが、それとクリシャに何の関係が?」
「そりゃ、あいつらが知る一番の混ざり髪はボクだから。・・・・・・ボクの血とか髪とか、そういうのを利用した可能性はあるかもね。混ざっている色はともかく、ベースが白髪だって言うなら、そういう可能性があるっていうこと」
「・・・・・・・・・・・・よくわからんのだが」
モリヒトが手を挙げた。
「うん。なんだい?」
「血か髪があったところで、クリシャと似たようなものって作れるのか?」
「・・・・・・ない、とは言い切れない、としか言えないかなあ・・・・・・」
クリシャの方も、自信はなさそうだ。
何はともあれ、
「貴女とは、無関係なのですね」
「そのはずだよ」
「その相手に、何の情もないなら、構いません」
クルムがギリーグに目をやれば、ギリーグはふん、と鼻を鳴らしながらも頷いた。
それに対し、クリシャもむすっとした顔をした。
「むかつきはする。ボクは、この髪が自慢でね!」
さら、と自分の長髪を横に流して、
「マネしたんならぶっ飛ばしてやる!」
意気軒高なら、よいとしよう、とクルムは思った。
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別作品も連載中です。
『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』
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