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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第3話:状況説明

 ディバリスの森は、山の麓の全域に広がる、深い森だ。

 森、とは言うが、その規模は、樹海、と表現する方が正しい。

 実際、森守と言われる彼らですら、本当に深い領域には、そうそう立ち入らないという。

「まず、山へ入るための登山道の入り口が、ここっす」

 地図の真ん中に書かれた道が、大体それらしい。

 地図の真ん中を横切るように、はっきりと書かれているのは、それだけ大きいからか、それとも整備されているからか。

「そして、原因となっているのは、この道から北側にある、この部分」

 地図に丸く黒く塗りつぶされた範囲がある。

「この範囲のどこかに、瘤がある、という見立てっす」

「・・・・・・見つかってはいないのですか? はい」

「というか、見つかりはするけれど、自然に静まってしまうか、森守の巫女たちで鎮めてしまえているそうっす。でも、なぜか再発すると」

 アレトは頷いた。

 ルイホウは、難しい顔をして黙り込んだ。

「ルイホウの見立てではどうなんだい?」

 クリシャがルイホウに水を向けると、ルイホウは一つ頷いた。

「現地を見てみないことには、どうにも判断が付きません。はい」

 それから、ルイホウは森守の男女の方へと目を向けた。

「この地について詳しい方の見解は、どうなっているのでしょうか? はい」

 それに対し、男の方が答える。

 先ほど、ギリーグと名乗った男は、少々尊大、ともいえる態度だ。

「我々は、その範囲外、その上流にある部分に瘤、あるいは原因があると見ている」

「予測範囲の捜索は、していないのか?」

「・・・・・・やっている。が、見つかっていない」

 モリヒトの問いに、ギリーグは苦々しい顔をモリヒトへと向けた。

 その顔には、状況の困難さに対するもの以上に、モリヒト本人へと向けられた敵意のようなものを感じていた。

 そのことに首を傾げつつも、モリヒトは地図へと目を落とす。

「あ、あの・・・・・・」

 壁際に控えていた、森守、クルムと名乗った少女が声をあげた。

「む、なんだ? クルム」

 ギリーグはクルムへと目を向ける。

 一瞬、クルムはその視線を受け、一つ頷くと、ルイホウを見て、

「森守の巫女たちの見解では、原因となっているものは移動している、と見ています」

「移動、ですか? はい」

「はい。我々は、何者かが、地脈へと『毒』を流し込み、それが範囲内で瘤として噴出。『毒』を流し込んだ者は、その場を移動し、別地点で『毒』を流し込む、ということを繰り返している、と見ています」

 小さい声ながら、クルムははっきりと言った。

 『毒』、とそう聞いて、ルイホウの顔がさらに険しくなる。

「・・・・・・やはり、現場を見てみないことには分かりかねます。はい」

「ふん。この森を最もよく知るのは、我々森守だ。いかに専門といえ、外の巫女に分かるものとは思えんな」

 ギリーグが吐き捨てるように言った。

 モリヒトはその様子を見て、こいつはこっちになんか敵対心持ってんだな、と察する。

 どうでもいいので気にしないが。

「アレト。帝国軍の状況はどうなってんだ? 聞く限り、問題は地脈じゃなくて、『毒』を流している犯人の方だろう? 人探しなら、帝国軍の方が得意じゃないのか?」

「ここが帝国の街の中なら、帝国軍の方が優れてるっす。でも、ここはディバリスの森っす。森守の一族の方が、ここでの人探しは得意っすよ」

「それもそうか」

 アレトの言葉を聞いて、ギリーグはどことなく得意げになり、逆にノーマンの方はちょっと顔が険しくなった。

「クリシャは、どう思う・・・・・・」

「待て。こちらからも質問させろ」

 モリヒトがクリシャに質問しようとしたところで、ギリーグから横やりが入った。

「ん? 何だい?」

「貴様だ。・・・・・・何者だ?」

 鋭い視線が睨み据えるのは、クリシャのことだ。

「おやおや。この可憐な美少女クリシャちゃんのどこかに怪しいところがあるのかな?」

「怪しいところだらけじゃねえか。微妙女クリシャちゃん」

 ギリーグの視線に対し、おどけて応えるクリシャに、モリヒトはははは、と笑って言う。

「誰が微妙か」

「微妙に女か疑わしいって意味で微妙女な?」

「詳細説明いらないよ! 何さ。その解説」

「おい! マジメに答えろ!!」

 ギリーグが吠えた。

 おっと、とモリヒトが首をすくめ、クリシャの方は、やれやれ、と肩をすくめる。

「なんで貴様のような小娘がいる?」

「おやおや。ひどい言い草だ」

 はあ、とため息を吐いたクリシャは、ギリーグを見据え、

「礼儀知らずの小童に応える義理はないよ」

「なんだとっ?!」

 ギリーグは激昂して詰め寄るが、クリシャはそれを適当にあしらっている。

「事実を言ったまでじゃないか」

「我々は森守だぞ!!」

「そうだね。だから?」

「くっ! よそ者を森に入れるだけでも腹立たしいというのに、なぜ貴様のようなものを・・・・・・!!」

「ギリーグさん。そこまでです」

 手を上げようとしたギリーグを、思いもしない鋭い声が制止した。

 その声の主であるクルムは、ギリーグを見て、

「その方々は、黒様の客人であり、また、我々の救援に来てくださった方々でもあります。失礼のないようにしてください」

「クルム! 貴様、誰に向かって・・・・・・」

「森守の巫女の一人として、これ以上無関係なことに場を騒がせるつもりなら、貴方の退出を要求します」

「む・・・・・・」

 先ほどまでの気弱な様子とはまるで違う、はっきりとした鋭い態度だ。

 気圧されたか、ギリーグはしばらく口ごもり、

「・・・・・・わかった」

 大人しく、元居た場所へと戻り、壁際へと寄ると、そこに置いてあった椅子に腰を下ろして、腕を組んで黙り込んだ。

 代わりに、クルムが前へと進み出る。

「失礼しました。ここからはこのクルムが、森守側の状況について説明します」


** ++ **


 ルイホウとしては、クルムから話を聞いた方が分かりやすいだろうと思っていた。

 森守側の巫女だ。

 地脈関連についての知見もあるだろうし、おそらく必要な情報を持っている。

「クルムの名前は、クルムと言います」

 先ほどは、そう名乗っていた。

 自分を名前で呼ぶ。

 これは、森守の巫女となったもののルールだと聞いている。

「地脈の状況について、教えてください。はい」

「まず。瘤が各所に噴出しています。多くは自然に消えるほどの小さなものですが、頻度は日ごとに増しています」

「・・・・・・森の外は? はい」

 地脈汚染は、上流から下流に向かう。

 森の中で異常が発生しているなら、オルクト国内でも発生していておかしくなさそうなものだが、

「国内の土地については、今のところ異常はないっす」

「それについては、クルム達森守の巫女衆が対処をしています。・・・・・・むしろ、その対処に人手を割かれてしまっているために、捜索の手が回っていないのが現状です」

「原因の特定を急いだほうがよくないか?」

 モリヒトの言うことはもっともだ、とルイホウも頷く。

 だがそれに対し、クルムは顔をしかめた。

「・・・・・・クルム達も、それは考えています。・・・・・・ですが」

 ふう、とクルムはため息を吐いた。

「ディバリスの森で何かが発生した場合、外へと影響を漏らさないことを最初にするのは、森守の巫女の方針となっています」

 ルイホウは、その言葉を聞いて、理由を推測する。

「下流への影響を小さくするため、ですね? はい」

「はい。黒様・・・・・・。黒の真龍様のひざ元であるディバリスの森は、他に比べて地脈の勢いが強いのです。そのため、ここで異常が発生すると、他の地よりも広く影響が広がることなります」

「だから、まず影響の封じ込めから始め、影響を取り除いてから、元に戻す、ということですね。はい」

 それは分かる。

 ただ、今回は、原因がいつもとは違った。

「クルム達は、当初これがただの地脈異常による瘤だと考えていました。おかしいとなったのは、瘤が連続で発生したためです」

 だから最初に封じ込めをしたが、結果として、ディバリスの森内部の地脈に、高濃度の『毒』を溜める結果となってしまった。

「現在では、ほぼ間断なく瘤が発生する事態となっています。まだ大規模なものは発生していませんが、いつ発生してもおかしくありません」

 クルムは、そう締めくくった。

「早急な対応が必要ですね。はい」

 ルイホウは地図をにらみつける。だが、この地図には足りないものがある。

「地脈図はないのですか? はい」

 森の中の地脈経路が描かれていないことだ。

 ルイホウの言葉を聞いて、クルムの後ろでギリーグが険しい顔をしたが、

「後ほどお見せします」

 クルムは、即答した。

 ギリーグが驚きと怒りの混じった顔をしている。

 地元の地脈図など、完全に機密情報だ。

 それを見せる、ということは、それだけ状況はひっ迫している。

 すくなくとも、目の前にいるこのクルム、という少女は、そう思っている、ということだ。

 明らかに、自分と同格の使い手であるし、黒の真龍が直接呼んだモリヒトの出迎えに出てきた少女だ。

 見た目こそ自分より年下に見えるが、その立ち位置は、おそらく相当高い。

「ありがとうございます。はい」

 ルイホウは、己も巫女衆に名を連ねる者である。

 クルムは澄ました顔をしているが、内心忸怩たるものを抱えているであろうことは、想像に難くない。

「まずは、事態の鎮静化を最優先とします。はい」

「クルムは、ルイホウ様のご協力に感謝します」

 クルムは、ルイホウへと頭を下げて見せるのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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