出発
それから話し合いを終えるとすぐに、ケントとエルナは急いで市場で必要な物資を購入し、村に行くまでの荷造りを急いで済ませる。
そして二人が旅支度を整えた頃には、時刻はすっかり昼前となっていた。
「それじゃ、行ってくるわね?」
ケントとエルナの二人は家の門を開けると、見送りに来た四人の仲間に振り向いてそう告げる。
「少しの間だけど、それでも二人と会えなくなるのは寂しいなあ……」
「そんな顔するなって。また皆と一緒に戦えるように、一日でも早く強くなって帰ってくるからさ」
ケントはしょんぼりとした顔を浮かべるマヤの肩にポンと手を置いて、優しく声を掛ける。それから、リューテとソニアのいる方へと振り向いた。
「もしゼピュロスに寄ることがあったら、父に伝えておいてくれ。私は元気でやっているとな」
「分かった。帰る時にゼピュロスに立ち寄るつもりだから、その時にでも伝えておくよ」
「あっ、それならワタシにも何か美味しいお土産を買ってきてください! 出来ればお肉がいいです!」
「お前なあ、観光に行くんじゃないんだぞ? まあ、手頃な燻製肉とかで良ければ買ってくるけどさ」
ソニアの言葉に苦笑しつつも、ケントは了承する。
そして一方で、エルナもニュクスと言葉を交わしていた。
「頑張ってね、ニュクス? 離れていても、あなたの修業が上手くいくように応援してるわ」
「ええ。あなたも頑張ってください。ああ、それと……」
そこで、ニュクスはエルナに顔を近付けると、小声でひそひそと耳打ちする。
「私たちがいないからって、抜け駆けは禁止ですよ?」
「そ、そんなことするわけないじゃない! 何言ってるのよニュクスったら!」
「……? どうした、エルナ? 何の話をしてるんだ?」
「な、何でもないわ! さあ、そろそろ出発しましょう?」
見送りの言葉も済んだところで、二人は改めてニュクスたちと向かい合う。
「それじゃあ、行ってくる! 強くなって、また皆と一緒に依頼を受ける日を楽しみにしてるからな!」
そして、二人は家の外へと足を踏み出し、エルナの生まれ故郷を目指して歩き出していった。
「ごめんね、ケント」
「ん、何がだ?」
王都を出てからしばらく歩いたところで、不意にエルナがケントに詫びる。
「事前に相談もしないで、いきなり誘ったこと。本当は昨日からずっと考えていたことなんだけど、結局言いそびれちゃって」
「別にいいって。俺も強くなるために何をすればいいか悩んでたから、むしろ助かったくらいだ」
他の仲間は自身の強みを伸ばす方向性で鍛えることになったが、ケントは魔力を持たず身体能力も普通であり、とりわけ秀でている部分はない。それ故に強くなるためにどのような方法をとればいいか決めあぐねていた。しかし、剣の達人であるエルナの父親ならば自身の修業の方向性を示してもらえるのではないかと、彼はそのように考えた。
「それよりも、こうして二人で一緒にいると、何だか昔を思い出さないか?」
「ええ、そうね。懐かしいわ。あの森であなたと出会ってから、もう半年も経ってるのよね」
エルナは空を仰いで、かつてのケントとの出会いを思い返す。
「本当、先の事って分からないものね。あの頃は、まさか自分にこんな沢山の仲間が出来るなんて思ってなかったもの」
「そうだな。俺も最初は武器すらまともに握れてなかったのが、今じゃCランクの冒険者だからな。あの森で目を覚ました時からは考えられないくらい、色々なことがあったって思うよ」
二人が初めて会った時は、今のような未来は互いに想像もしていなかった。しかし仲間が増えていくにつれて出来ることも多くなり、段々と世界が広がっていったことで、駆け出しだった頃と比べて彼らを取り巻く日常は目まぐるしく変わっていった。
「ねえ、ケント。私ね、あなたと出会う前は、冒険者をやっていけないんじゃないかって不安になってたの」
「そういや言ってたな。昔、悪い冒険者に因縁を付けられて、頑張ったのに依頼の報酬を全然貰えなかったことがあったって」
「ええ。強くなって困っている人を助けて、そして気の合う仲間を見つけて苦しいことも楽しいことも一緒に分かち合っていくって。そんな未来を夢見てたから、現実を知って凄く落ち込んだわ」
冒険者の仕事は文字通り命懸けであり、それだけに腕っぷしだけが取り柄の野蛮な輩も少なからずいる。そのような人間の悪意に触れたことは、純粋な性格のエルナにとってショックの大きい出来事だった。
「だけどあなたと一緒に冒険者の仕事をするようになって、ようやく仕事が楽しいって思えるようになったの。そして今は、沢山の仲間に囲まれている。これも全部、あなたのおかげよ? 本当に感謝してるわ」
「それを言うなら、俺だってお前には感謝してるさ。記憶も力も無かった俺に最初に親切にしてくれたのは、他の誰でもないお前だからな」
エルナは何も持っておらず心細さを感じていたケントを精神的に支え、ケントもまた懸命に冒険者としてのスキルを身に付けていく中で、理想と現実の違いから自信を喪失していたエルナに勇気を与えた。
冒険者としては未熟だった二人がここまで成長出来たのは、互いの存在があったからこそだった。
「本当にありがとうな、エルナ。あの時目を覚まして最初に会った人間が、お前で良かったよ」
「ケント……」
ケントはエルナに、ありのままの感謝の言葉を伝える。それを聞いたエルナは嬉しさを感じながらも照れ臭くなり、頬を朱に染めて俯いた。
「俺はこれからも皆と楽しい思い出を作っていきたい。だからそのためにも頑張って修業して、一緒に強くなろうな?」
「ええ、もちろんよ!」
たとえ越えなければならない壁が多くあろうとも、彼らは決して屈することはない。辛い時苦しい時、それでも心の底から信じ合える仲間がいるという事実が、彼らを奮い立たせる原動力となっていた。
「さあ、そうと決まったら急がなきゃ。このままだと村に着く前に真っ暗になっちゃうわ」
「ああ、そうだな」
冒険者として困難に立ち向かえるように、大切な仲間と笑い合える日々がこれからも続くように。二人は決意を確かめ合ったところで、今晩宿泊するための村へと歩を進めた。
それから歩き続けること数時間。ケントとエルナは何事もなく中継地点の村に到着した。とはいえ日はもうほとんど地平線へと沈んでおり、辺りは段々と暗くなっている最中だった。
「ひとまず着いたけど、予定より少し遅くなっちゃったな」
「そうね。まだ宿が空いていればいいのだけど」
ケントたちは村の入り口を抜けると、すぐに宿を探して、その中へと入っていく。
幸い部屋はまだ空いており、二人はそれぞれ自分の部屋を借りてそこで休むこととなった。
「それじゃ、ケント。また明日ね。朝早く出るから、寝坊だけはしないようにね?」
「分かってるって。それじゃ、おやすみ」
別れ際にそのようなやり取りを交わしてから、二人は案内された部屋へと向かう。
そして明日に備えてすぐに就寝したところで、彼らの一日は終了した。
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