1章 08.強くなりたい
また、夢だ。
見たことない夢。
でも、これは前に見た夢とは違うような気がする。
おじいちゃんのことが一度も出ていない。
おじいちゃん以外の記憶が夢となって現れている。
夢がすごいスピードで切り替わる。
姉さんにキツく当たって、姉さんを困らせたり、アイリスのお気に入りの人形を壊したり、こんな感じの夢ばかりだった。
本当に、俺とはまた別の俺は姉さんたちのことをどうでもよかったんだと思っていたらしい。
でも、今の俺にとって、姉さんたちは大切な家族だ。
でも、何か俺は忘れてないか。
そう、俺はこんなとこで夢なんて見ている暇なんてないはずだ。
姉さんを助けに行かなくては。
でも、どうやったら、夢から覚める?
この夢は俺がどうあがいても、覚めることはない。
外部から直接的に衝撃を与えてもらわなければ。
前の時もそうだった。
俺が、怒って倒れた時も。
あの時は、ロシェルが起こしてくれたから、目を覚ますことが出来た。
「これから、またよろしくお願いしますね、マスター。」
ふと、聞き覚えのある声が聞こえた。
声はエミリーで間違いない。
でも、俺の事をマスターと呼ぶのは、カレンだけだ。
「出てこいよ。いるんだろ。」
「はい、マスター。」
その瞬間、エミリーが現れた。
この時、違和感を覚えた。
誰だこいつと。
「大丈夫ですか。マスター?」
「あぁ、大丈夫だ。それより、早く目覚めて、姉さんを」
「もう、いいじゃないですか。マスターには私がいるじゃないですか。マスターには私だけいればいいんですよ。」
エミリーの声に遮られ、エミリーの言った言葉が違和感を確信へと変わった。
「お前、誰だ。」
「私はマスターのエミリーですよ。」
「エミリーはマスターのなんて言わないんだよ。それに、姉さんの事を蔑ろにするはずが。」
そう、エミリーは姉さんを蔑ろになんかするはずがないんだ。
「マスター。気づいてるはずです。自分は怯えていると。フレイなんかに勝てるわけがないということが。マスターは弱いんです。カレンと同じように殺されるんです。」
エミリーの言う通りだ。
俺は怖い。
でも、姉さんを失う方がもっと怖い。
だから、「お前は誰なんだ。俺の大切だと思っている姿をして、声をして、呼び方をして、お前は誰なんだよ。」
「ふふふ。私は、マスターの左目ですよ。」
「左目?俺の左目はなくなったはずだ。」
「マスターの左目には、カレンの眼球が入ってますよ。」
「何でだ?」
「カレンがそう望んだんです。」
「カレンが?何でそんな事を。
「カレンはマスターの力になりたかったんですよ。悪魔の目を移植したら、強くなれますが、それは、左目が協力してくれたらの話ですよ。つまり、私がマスターに協力したらってことですよ。カレンはマスターと相性が良いって言っていたけどさ、私はマスターが憎いんですよ。」
「何で、俺を憎む。」
「何でって。わかってるはずですよ?カレンはマスターを愛して、信じて、マスターに全てを捧げていたのに、マスターはカレンが切られた時、何も思わなかった。さっきまでマスターは姉の事ばかり考えていたんです。カレンのことなんて頭の隅にもいなかった。」
「それは…。」
言い返す言葉もない。
「どうしたら、あなたに憎まれなくてすみますか?」
「強くなりなさい。誰にも負けないぐらいに。誰も失わないように。そして、マスターの事を大事だと思っている人がいるなら、マスターも大事に思いなさい。困っているなら、助けなさい。」
強くなる。大事にする。助ける。
これが、今の俺に足りない事。
「わかりました。絶対、もう二度と負けないように、失わないように、強くなって、俺の事を大事だと思ってくれる人がいるなら、俺はその人たちを大事にし、助けます。」
「うん。これから、マスターには幾度となく壁が立ちはだかるでしょう。でも、あなたには家族が仲間がいる。その事を忘れないように。」
「はい!」
「行って来なさい。」
「はい!」
俺は、見送られながら、意識が戻っていく。
最後の『あなた』の表情は、微笑み、泣いてた。
俺は現実に戻ったのだが、 何だろうか。
この安心する気持ちは。
『あなた』の影響でしょうか。
俺は『あなた』に言われたように強くなります。見ててください。
俺は目を覚ます。
ここは、まだダンジョン内。
俺は、頭の下が柔らかく、暖かい事に気付く。
「起きましたか?主人様。うなされてましたが大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。今はもう大丈夫。」
「そうですか。それならよかったです。」
「エミリー。今は俺が意識を失ってから何日たった?」
「6日経ちました。明日から、また学園ですよ。今日は休んでください。」
「だめだ。今日は家族に会いにいく。言わなければいけない事があるから。」
「そうですか。それなら、これを。」
「眼帯?」
「主人様の左目を隠してください。主人様の左目は魔眼を移植しましたから。」
「魔眼。カレンの目か。わかった。」
「申し訳ないです主人様。」
「大丈夫だよ。エミリーが魔眼を移植しなければ、俺はもうだめだったかもしれないから。」
「それならよかったです。主人様、ステータスの更新をしましょう。」
「更新?どうするんだ。」
「主人様の血を吸わせてください。」
エミリーは針を差し出してきた。
「わかったよ。これでいいんだろ。」
俺は指に針を刺す。
あまり痛みを感じなかった。
「はい。それでは失礼します。あーん。」
エミリーが俺の指を咥えて血を吸った瞬間、エミリーが淡く光った。
「更新完了です。主人様。これが主人様の新しいステータスです。」
エミリーは魔導書に戻る。
俺は俺のステータスが書かれているページを見る。
テンノウジ ユウマ レベル7
力 14 防御 10 敏捷 29 器用 12 魔力7
《特殊アビリティ》
《スキル》魔眼昇華 全アビリティ上昇。全アビリティ上昇時の許容範囲12%
《魔法》イグニスサンダー 雷炎による詠唱不要魔法。
「まだ、アビリティがへぼいけど、今まで魔力がなかったのに、魔力量が増えた。しかもスキルも魔法も発現した。これも、カレンの魔眼のおかげなのかな。」
「そうでしょう。けど、スキルの魔眼昇華は魔眼を移植しただけでは、発現しないんです。ですからよっぽど、主人様とカレンは相性が良かったんでしょう。」
「そうなのか。あと、スキルの魔眼昇華は全アビリティ上昇時の許容範囲12%って書いてあるけど、12%から上昇していくのかな。」
「上昇していくでしょう。それに魔眼は5段階に封印が施されています。その封印が解けた時、魔眼の本当の力が解放されるんです。」
「ふーん。その封印はどうやって解けるんだろう?」
「それは分かりません。魔眼には魔眼の封印が施されていますから。」
「そうか。それじゃあ、家族に会いに行こう!」
「はい、主人様。」
俺はお前の事を忘れないよ、カレン。