第64話 塔の上の王様にゃ
来人達と分かれてデュークは忍の技で商人風の年寄りに変装して首都リーンへの侵入を果たしていた。
リーンの町はいつもと変わらないにぎわいを見せていた。
「町の中はいつもと変わらないようだな。」
その時、通りを二人の衛兵が近づいてきた。
「ご苦労様です。」
頭を下げたデュークの直ぐ側を衛兵は通り過ぎて行った。
「あの衛兵の1人は魔人の様だな。」
町の中にもちらほらと人に化けた魔人や魔物の姿があった。
「この様子なら諜報部の建物は奴等で一杯だろうな。」
デュークはリーンの町中にもしもの時の為に隠れ家をいくつも用意していた。
デュークは一軒の建物の路地裏に入ると人気が無いことを確認し、壁の一部を操作した。
音もなく、何も無かった壁にポッカリと入口が開いた。
デュークはそこに身体を滑り込ませた。
入口を入ると地下へ続く通路があり、突き当たりに部屋があり、諜報部にいたメンバーが揃っていた。
「皆、無事なようだな。」
「あいつらに捕まるようなヘマはしませんよ、頭。」
ローマシアの諜報部隊はデュークを頭領とする忍の一族で構成されていた。
「それであれからこっちの様子を聞かせてくれ。」
「諜報部の建物は我々に化けた魔人と魔物に占拠されております。他の部隊や衛兵も少しずつ入れ替わっているようですが、町の住人は、気付いてはいないようです。」
「そのようだな、魔物と入れ替わった者は、どうなっている?」
「前線に送られているようです。」
「本物の王と王妃の行方の調査は、どうなっている。」
「メイドの噂ですが城の西の塔に誰か監禁されており、毎日、食事が運ばれているとの噂です。王と王妃なのかは分かりません。」
「まあ、実際、忍び込んで確認するしかなかろう。」
「それでは、我々が行きましょう。」
「いや、俺が行く。」
その夜、デュークは城の通用口の見える位置に身を潜めていた。
目の前を巡回してきた衛兵が通りかかった時、デュークは衛兵の影に飛び込んだ。
デュークの姿は影の中に沈み消えた。
忍術である。
衛兵が通用口から城の中へと入るとデュークは影から抜け出した。
城内の勤務ではなかったか西の塔の位置は把握している。
デュークは人気の無い通路を音もたてずに走り西の塔入口が見える場所までたどり着いた。
「さて、問題は、ここからだな。」
西の塔は周囲を高い壁に囲まれた中庭の中央にあった。
西の塔の入口は中庭に面している一ヶ所しかなかった。
見上げると塔の屋根には明かりとり用の天窓があった。
入口には金属製の頑丈な扉が設置されているが見張りはいない。
デュークは壁に沿ってゆっくりと入口に近づいていく。
扉に手を掛けると鍵が掛かっていなかった。
入口から中の様子を伺うと内部には上へと続く螺旋階段が設置されていた。
そして、かすかに人の話し声が聞こえて来た。
デュークは塔の中には入らず、外壁をよじ登りはじめた。
ロープを使うことなく、まるで蜘蛛の様にするすると壁を登って行くと屋根の上に這い上がった。
天窓から覗き込むとそこには縛られて椅子に座らせられた王と王妃の姿があった。
そしてその前にはミーナの姿をしたドーラの姿があった。
「ねぇ、お父様、お母様。まだ、教えていただけませんこと。」
「魔人め、娘の姿で私に話しかけるな。娘を何処にやったのだ!」
「お願いです。ミーナに会わせて。」
「龍珠のある場所を教えれば、娘に会わせてあげますわ。」
「くそっ!龍珠など知らん。知っていても誰が言うものか」