『泥濘の双聖者』第三話:「雨が和らぐ時……」
一方で、マイクルからの注意喚起を受けたコーラルであったが、この瞬間、勘案しないといけない要項があるのだ、というように、多少の隙ができるほどに……惑っていた。
というのも、
《撃ちます! え、ぇえええい! ……はれ?》
ガチン、ガチン、……コーラルの機のシミターが構えた“巨大な小銃”……シミターサイズのライフル……が、作動操作をしても、発砲の作動がしなかったのである。
「何をもたついてる?! 普段のおまえならっ」
《えぇとっ、そのぉ、今日の降雨のせいかもしれないけどっ、即応弾の弾丸が湿気っちゃってるのかもっ、》
「要領を得んぞ!?」
《こちらの機の携行火器が作動不良を起こしたみたいでっ!? まず、ジャムを直さないと、撃てないから……あっ、あぅっ?!!》
クリスチーナ・コーラル・メイスティ国連軍伍長。彼女の乗るMk44型シミターが、乗り込んでいる彼女自身の操縦により、敵目標・バロットスパイダー隊への反撃を取ろうとしていたのは確かだった。
だが、ぶっ放すはずのつもりでいたその肝心の手持ち火器が、よりにもよってのその顛末であった…斯くして隙が出来たその彼女の機へと、相手共はセンサーアイの単眼を赤く光らせながら、……バロットスパイダー共は、機体正面のシャシー部位の底部にターレットを介して懸架された、十六ミリ機銃で掃射を浴びせてくる。
《あぅっ……、す、スリミ(カニカマ)のバケモノめぇ!》
コーラルの駆る〈シミター〉は、敵からの集中射をかわそうとし……しまった、交差射撃だ!
牽制射と本命の弾丸のその重奏、重ねがけ……
交錯した弾丸がクロスしたその瞬間、そのまま飛来した銃火の、足元への射線の何発かを浴びて、ふらり、と体勢を崩す。
「あああ!? たいちょーに任せてもらった、シミターくんが!!」
銃撃の影響で、コーラルのシミター機は、その脚部の足首の、前面に伸びた爪脚が損傷していた。
片足の側のさらに片側のその爪がもげたのだ。そして周囲に、その足爪の残骸が散らばる。
まあ、この部位自体は歩行時の補助バランサー以上の効能は……。いわば、損傷してもまあまあ問題の無い部位と言える。
「コーラル、無事か!? 機体コンディションの確認をっ」
《あぁあ、は、はひぃ、な、なんとか……何発か装甲に被弾しましたが、機体の内部架装品を食い破られるまでには至っていません。……あ、足首が多少やられてる……走行能力は多少落ちてるかも……っ……え?》
その彼女:コーラルの機をかばうような位置取りへと、マイクルは己の機を発進/移動させた。
《あっ……》「悪かった。焦らせるつもりはない、お互い、今日も生きて帰るぞ」
彼女は、自らの預かるこの寄せ集めの学徒兵小隊の中でも、マイクルが赴任初期から面倒を見てきた部下であり、勿体ぶらずに表現するなら、彼の信頼できる副官的な存在だった。
断言させてもらう。もし仮になにかしらのリスクがあったとして、その場合にも万が一に見捨てるなどという選択肢は、マイクルの脳には最初から存在しえない。
こいつに迫るそんな脅威があるなら……正面からぶちのめし、ねじ伏せて、残骸すら形をとどめさせず、破壊してやる。
故にして……マイクルという人物の、その自己が取り得る行動というのも、また限りなく誤謬の無いものであった。
「できるな? 人工筋肉のトルクで無理やりでもいいから立て直せ。その間、こちらでそちらへの援護を掛ける、やられた分は取り返して、立て直すぞ!」
《た、たいちょぉ…!! あ、ありが!ずびっ》
(泣いとる場合か)と内心譫言しつつも、マイクルはインカムのマイクに叫びながら、自らのMk36を滑らせるように前進させた。右腕のマニュピレータが握る、メインアームの35mm速射マシンガンが火を噴く。……発砲が轟く度に、安普請の装甲が軋み、駆動系が悲鳴を上げるが、この程度なら如何にシミターとはいえ、保ってくれる。故に、極力気にしないつもりでいる。
ダダダダッ!
……何発かはクリーンヒットとなったらしい。
攻撃に先んじてのマイクルの意図はおおよそ叶ったようである。射撃の内の数発がスパイダー機の赤い単眼センサーを捉え、その光を砕いたのが見えた。
(っしゃあ! これで、目つぶしにならなかったなんてのはいわせねえゼっ)
マイクルは己のファインプレーさを確信した。
……だが、バロットスパイダー自体は、まだ多少は動くようだった。
先ほどまでコーラルの機に向けられていた銃撃の火線を、今度はマイクルの機に向かって再開しようとする……
そのヤツラによる交差射撃の焦点が、にわかに合わせられようとした。
《!! たいちょーが!!》
されど、それを黙ってみていられないのが、コーラルという少女兵士であった。
同時に、それ以外のことはかなぐり捨ててもいた……とっさの判断とは言え、例えば、己の機の回避運動能力を、半ば放棄してしまうほどに。
それとは、シミターの姿勢形態を可変させ、車高を低く落とした、膝立ち、……の姿勢を取らせ、運動性能が一時的に静止して止まるのと引き換えに、機体の地面への設地点を増やす事で、射撃時の照準の、その安定性を最優先して確保したのだ……そして、
《てやーぁっ!!!》
コーラル機は、機体の携行装備として、ボフォース57ミリ速射ライフルを装備している。……高火力の内に入る火器だ。
ここでようやく、その速射砲ライフルのジャム状態をマニュアル操作にて、無事に解決を果たせた。
あとは、右腕部に携帯したそれを、照準は素早く位置させて……コーラルは迷うことなく発砲した!
BOWBOWW、BOW!!!!!
撃ち出されていく57mm弾、その発砲の連続により、コーラルのシミター機は、まるでばね仕掛けの玩具かのように、構造部位とその装甲が、揺動に震える。
マニピュレータを介さないシミター本体の取り付け固定火器には、胴体前端部ターレット部位に懸架される軽量型20mmバルカンと、胴体上部右側面側に、マウザー35mm単装機関砲を標準として搭載していることが多い。
だがその上で、マニュピレータにはもっと高威力の火器を積載させる傾向も、実運用者たる国連軍の前線全般ではよく見られる光景ではあった。
(広義におけるスタンディングアーマーの基本的特徴たるマニュピレータ・上半身・下半身・脚部という機体構造が、巨大なアクティブサスペンションとして活用できるからである……半面、その命中精度は万端としてよろしいか、と言えるものでもなく、そのために、前述のコーラルのように、機体自体を接地させて制止/静止させ、それにより命中精度の向上を果たさせようとする運用法も、折に触れて活用されていた……だが、機体のこなし方を慣れてきたあたりのルーキーや僚機の援護やサポートに回る中堅どころがその戦法を取る場合が多いのだが、さほどの重装甲とは言えないシミター型でその戦闘法を取るのはリスクは決して低くは無く、故にして、引き換えに損害損耗の末路に至る例も多々ある……)
ドコン、ドコン、ドコン、
バスッ、バスッ、バスンッ
バロットスパイダーの一機めは、やけに的確に集弾し着弾していく弾丸に、遮れるモノもかざせる物もない内に、抗えることなく黙らされ、そうして撃破がされた。
《たいちょーの窮地はわたしがまもります! そして、わたしのこのシミターくんの痛みを思い知れ! てやぁあぁぁあぁっ!!!!!!》
その各種火器系統も、次の刹那にはコーラルは解き放っていた……
……射撃火器の三重奏。
それらの内の20mmバルカンと35mmマウザーは、ボフォース57mmに比べれば砲口口径は小さくはなるが、それでも相当の火器の威力ではある。
まともに浴びた敵・バロットスパイダー機たちは、立ちどころにままならないまま、そのまま撃破がされていった。
(あーあーあー……キレるとスゲェゼ、毎度全く……)
マイクルは、“今日も今日とて”……呆れ混じりに舌を巻くしかない。
こうなのであるのだ。コーラル伍長には、怪しいガッツと天性の射撃の適正があるようである。
原型となったスタンディング・ユンボの基礎技術体系やオプションアタッチメント類の装備稼働システム周りをそのまま転用した結果として、それらオプションの接続管制系が多系統あるシミターはじめスタンディングアーマーは、一方で取り扱いに熟知していない搭乗員であると、その能力や特性を、十全に生かし切れていない、という局面も多々あってきた。
だが、、その多重系統の火器類の同時操作を、適性のあるコーラルは、なんとなんら苦もないように操って見せれていた。
何ならマイクルが自機の装備を軽火力主体・手数重視としているのも、その都度の必殺の射撃というのをコーラルが取ってくれるので、ある程度それを当て込んで、その援護とカバーリングというのを、己に取れさせるようにその選択としていた……ということでもあった。
これというのが、彼・マイクルと彼女・コーラルの、コンビのペアの戦い方というわけである。
「コーラル、この辺でズラかるぞ! この次は、おそらく敵の本隊が来る!」
《りょうかいですっ! って、あっ……?》 「……ん?!」
火花を散らしたバロットスパイダーの機体は、昆虫の絶命を思わせるカサカサとした痙攣を最後に、その動きを止めた。
……だが、それを突進で突破してきて現れた、さらに進出してきたバロットスパイダーの2機が、膝立ちの姿勢から立て直すまさにその只中の、コーラル機に肉薄しようとする。
《わ、わぁぁ!?》 「~~撃ち尽くすまで撃つぜ!」
連続する窮地に飽和してしまったコーラルである。……物理的には、彼女の乗るシミター機の過熱寸前の火器系統では満足な抵抗は困難に近いであろう。
そしてその窮地をもたらす敵共に対峙せんとするマイクルは、もはやなりふり構わない。
自機・火器管制系統のフルバーストモードを立ち上げ、銃撃の限りを、コーラル機の至近に迫る一機にへと、ありったけの弾雨を叩き込む!……
斉射が一秒続く。まだ持つのか?……装甲を打破されたそのバロットスパイダーの一機が、ようやくがたがたと崩れ落ちながら炸裂を起こす。
だが、もう一機いる! マイクルは火器の照準をそれへと向けようとして……
「“弾切れ”! ……!!!!」
マイクルの動物的な脊髄反射が迸る。
織り込み済みだったよ、と言わんばかりに、見切った刹那には既に次の操縦の判断を執っていた。
マイクルは操縦桿を引き絞り、機体を強引にスライドさせた。
ダッシュした機体の脚部が大地の泥を蹴立て、ねじ込まれるようにMk36の機を突入させて……そしてその結果、コーラル機の前で、敵・バロットスパイダーに対する緩衝物のように立ちはだからさせることが叶った。
(間に合わすってんだよ!」
ダイナミズムのまま、脳裏のパッションから肉声による雄叫びへと変化していたのも自身では気付かないまま、マイクルは迸りのままに機体を動作させる……
……機体腕部作動肢による、ハードナックル。
要するに機体の素手によるぶん殴りというわけではあるが、
その一撃を、なりふり構わず、迫るバロットスパイダーの正面へと、叩き込んだ!!!
GOHYAMMMM!!!!!!
一撃を喰らったバロットスパイダーの正面は陥没し、そのまま横に二歩、後ろに一歩、よろめいて仰け反った。
「いい度胸の分には、しっかり代金払ってやるよ!!! あの世行きのなぁ!!!!」
流れるような順序のまま、さらに、マイクルには次手の取り得る手段もあらかじめ用意していた……
対装甲用途高周波ブレード:スーパーハチェット。
それの懸架を脚部側面ラッチから取り出し、機体に装備。そして……電源を作動。
CHiiiiiiiiiiiiiiiii………という、高周波デバイスの作動音が、耳障りに発振する。
「しねぇ!!!!!!!」
作動した高周波刃は青白い光を放ちながら……それによる鋭斬と斬撃の音が、戦場に残響となって轟いた。
バリバリバリバリバリ!!!! じゅうううううう……
有肢型兵器……スタンディングモービルの類にしては重装甲であろうそのバロットスパイダーの外装が、まるでホットナイフでバターを溶かすかのように、斬れていく……
やがて、切断された機体内の、要部構造部位に刃は達して……
……ズガカアアアアアァァァン!!!!!!
炸裂と共に、バロットスパイダーは撃破し、そのまま残骸を地に晒した。
「チィッ、脆いな……」
スーパーハチェットは耐久性の問題から基本的には使い捨てとされている。
砕けたその高周波鉈の残骸を機体の手から放り棄てつつ、
マイクルは毒づいた。
「……へっ、ブザマなもんだぜ」《おおー?!》
そうして一連の爆炎が晴れると、他のバロットスパイダーの機は、慌てて斜路の稜線の泥水の向こう側、自陣勢力側へと後退していくのが見えた。
《あ、あはは、助かったみたい……!》 「とぼけてる場合かってよ……、次波に警戒すっぞ。やっぱりこいつらは“露払い役”だろう。敵の本丸にいま出てこられたら、今の俺たちにはキツい」
マイクル・シモンズ・オーブリー曹長。かつては「永久に戦争は起き得なくなった」地球本星で、その中でも災害時等に実働の機会はないわけでは無かった騎兵部隊への配属を、意味と意義あることとして選んだ決意ある兵士として……されど、平和な地球においてではメリハリのない軍歴を続けていた男だった。
そのマイクルがExアースに「姥捨て」同然に派遣されることが決まった時は、己の職能の適正の有無を深刻に、自身で疑ったことすらあった。だが、開戦初期に所属原隊が壊滅し、再編成による配置転換以来、彼はこの「間に合わせの安普請の棺桶」の乗り手として、今日までを生きてきた。
生き延びれてきた分の悪運を、どれだけ捨てずにこれたのか、ということでもあろうか……
(少なくとも、だいぶ短気には、なっちまった……)
はぁ、と口の中で力なくため息を吐く。
内心、もはやロールプレイ同然となったこの粗暴不良軍人のチンピラめいた所作というのが、己自身の真相から表れているものだとは、思いたくはなかったのだ。
ただ、己の中の穏健さと善人さの部位とその領分、領域というのが、切り売りするどころか、まるでディスクグラインダーでガリガリと削り取られていくかのように、消失していき、そしてその失った規模とその速度は尚も加速し続けているという、己の心を内省した時に受けうるこの事実を、中々正視し難いものとして、マイクルは実に消耗していた……
(……ま、こいつを今日も生き延びさせれたぜ……)
それでいいか、とマイクルは独りごちた。
《(……今日も、わたしとたいちょーは生き残ることができそうです……かみさま……)》
クリスティーナ・コーラル・メイスティという少女兵士の内心というのは……だいぶつかみどころがない。
本人自身がだいぶトゲの無い人畜無害な情緒と性格、そして思考回路をしているという事であって、その当のマイクル隊長からしたら、シミター乗りの才覚はあるとすれ、そもそも軍人の兵隊としての適性は限りなくゼロなのではないか? と見做されているということであった。
……23世紀の現代における地球本星の社会の在り方というのでは、かつての反省から、一切の超常的事象や概念、並びにそれへの敬賞というのは、オカルトの類のものとして超国家規模、地球規模での大々的な断罪と廃絶がされ、今となっては民族伝統・伝承の文化形式の保存としてや、フィクションコンテンツの類の中で題材として取り扱うのも難しい時代となっている……
それが由来で、地球からこのエックスアースへと、まるでかつての新大陸へと渡ったピューリタンのように、信仰の自主自由を命題に移民としてやってきた市民が、多く存在している。
はっきりしていることとして、コーラルの家族の家系もそれがルーツのひとつである。
そして、彼女という少女に背負わされた一種の業というのも、それが真相のひとつであった。
曰く、現代のエックスアースで何故、〈結社〉と通称される暴力革命叛乱結社なんていう物が勃興したのかというのは、思想、宗教、民族、娯楽、政治、etc…それらが21世紀半ば以降に地球本星で辿ってきた扱われ方の脈歴と、そしてその係累・子孫が辿りついた先のエックスアースにおいても尚の、各々の人間たちにとっての、欲望と禁欲の在り方、或いは夢と理想と恨みと現実だとかとの衝突の実相の、有り余る赤裸々さが込み入った、そうした由来、あるいは反動現象としてのそれがあるからでもある……
有りうる限りの対立軸を限りなく無くそうとした理想の人類社会を作ろうとした結果、その余波としわ寄せの最終的な解決と処理処分をする必要が産まれた結果として、地球本星においてはたしかにその理想世界の実現は為され、一方でエックスアースは引き換えの為の最終投棄場とされ……その果てにいわばこうして激発する事態を招いた……と括ることもできるかもしれない。
まあそんなことは、高等教育の中の社会学や歴史学の中で触れ合う物だろう、というのが、この度の戦争が開戦する前のニューエデンでは、それが当然のスタンスであった。それが大多数の人物たちにとっての“当然”であり、“当たり前”だったからだ。
さりとて、この世に於いて、そうしたヤヤコシイ関連とのかかわりあいが、己のルーツ、由来というのに、俄に密接としている……というのが、この少女にとっての因業な事であった。
己でそんなストーリーを選択して選んでこの世に生まれてきたわけでもないのにそのようないざこざを自身のバックボーンとして己に背負わされて持つコーラルは、ひとつ、他者と“わかり合いきれない”ということがこの世の一つの真相ではないのかと、まだ幼いころから思い知らされるようなことが、多々あってきた。
されど、それを経た今において……いわば、俗物・俗世的な唯物論者というのに、己が主体的に取りうる為の主義主張として、内心転向したがってもいるのであった。天使みたいな少女なのに!
それはなぜ?
……コーラルには、一つ、いつでもすぐ言葉に出来うるように心の胸懐のうちに温めている思念があり、ひとつに、それは、コーラルは《感謝している》ということだった。
……ほかならぬ、マイクルに。
(あの日、あの時、徴兵されたばかりのわたしがたいちょーの元に配置されたことが、ほかならぬわたしの人生は光あるものだったという事を知ることができた、なによりの証明になったのです。
……大げさな言葉による表現かもしれません。 たいちょーにそのまま伝えたら、怒られてしまいそうですね。
でも! わたしは本気です。えへへ。
わたしと同じように徴兵されたわたしのような年端も行かない人間が、人間という扱いも碌に保証もされないまま、どれだけの数が犠牲として、おびただしい数の戦地の死体となって行ったのでしょう…?
それ以外、いやそれ以上にも、ひどい死に方、扱われ方、破滅の仕方というのは、さながら市井の人間の想像力を越えるほどに、惨さの限りに上限はないのだという事も、わたしは日々、思い知らされるように見聞きしています……わたし自身は、たいちょーに守られながら。
たいちょーは、いつも、身を挺してわたしを助けてくれます……
あの時も、またある時も、いつかのときも、そして……今日この日のこの時も。
そのひとつひとつを、たいちょーは、覚えてましたっけね?
それを伝えて、そして、わたしの気持ちと思いの在り処を、たいちょーに、全てを受け入れてもらえる時が来たなら……
その時には、わたしは天国にいけちゃうかもしれませんね?
だから……
その時を生きて迎えるためにも、かみさま、たいちょーとわたしを、どうか戦士として、人間として、そして……彼にとっての最良の伴侶としてたり得るために、わたしを一人の乙女として、生き残らせてください……)
「はー、」《ほぁあぁ……》
……斯様にして、この二人というのは、噛み合う物がある者同士であるのかもしれない。
『……こちらヴァンガード・リーダー。敵部隊の本営の撃破に成功。これよりAポイントへ後退し、補給班、及び回収艇の派遣による収容を求める』
「は????」《えぇっ???》
そんな折に、通信で聞こえてきた内容に、マイクルとコーラルは、シミター機の頭部センサーポッド同士を思わず見合わせ合った。
音沙汰の取れなくなっていた、と思っていた自軍の攻撃本隊が、
自らたちのすったもんだをやっていたその間の内に、
なんと、敵部隊の駆逐掃討に成功したのだ、というのがその内容だったのである。
『追伸:あいつは、今日もイキの良い踊りっぷりだった。あのカニ野郎どもにもまだ当分、踊り食いはされないようでなによりだ。ハッハッハ……』
「……陽動……囮……釣り餌……俺たちを、撒き餌代わりに使いやがった……?」
《たいちょー?》
「…… は ~ め ~ て ~くれたな~~~!!!???? あのクソが!!!!!」
《あーあ、……あはは》
もしかしたらば……この日の瞬間というのが、ある意味で最良のタイミングであったかもしれない。
けども、それはもう過ぎてしまった。まるで、奇跡の神様が、魔法はもう解けたあとだよ、と、意地悪に微笑むばかりになってしまって。
なので、この二人が……互いが互い同士にその瞬間伝えようとしていた、
互いへの、感謝とそのお礼の言葉。
……というファニーな物事は、少なくともマイクルの脳内からは、怒りの余りネジが飛ぶかの如く、この時は彼方へとロストしてしまったのである。
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