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ANGEL BREAKERS  作者: 綿砂雪
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第二話 対天使人類防衛軍

第六部隊長室を出た後、レンとスティアは防衛軍第六部隊塔を歩きながら話していた。


「ひとまず今日は防衛軍の施設紹介と業務内容を説明するが……何から聞きたい?」


「私が決めていいの?」


「過去に新人の面倒を見たことは数回あるが、本当に何も知らない執行官の教育を任されたのは初めてなんだ。正直、俺も何から話せばいいか分からない」


「そっか……うーん」


スティアは考える。知らない事、知るべき事が多過ぎるのだ。彼女も何から手を付ければ良いか分かっていない。

なので最初に思い付いたことを尋ねた。


「……じゃあさ、防衛軍って何なのか聞かせて欲しい」


「構わないが……これこそ何から話せば良いか分からないな。まぁ防衛軍の概要から話すとしよう。その前に座るか」


廊下の中の一箇所、二台の自販機と隣接してベンチが置いてある。二人はベンチに座って話し始めた。


「正式名称は対天使人類防衛軍。知っての通り、天使と戦い、人類を守るための組織だ。防衛軍内でも役割が色々あるが、その中でも俺たちは執行官。現場で天使と戦う仕事になる」


「それって危ない?」


「もちろんだ。戦いで死傷者が出ることは珍しくない。毎年少なくとも数十人は死者が出る」


「…………」


明らかに表情を強張らせるスティア。自身が置かれている環境の危険度を実感していた。


「……え、じゃあ私もいつか死んじゃう?」


「可能性は大いにあるが、(しばら)くは無いから安心しろ。俺がお前の教育を担当している内は守ってやる」


「ホントに?」


「ああ、それが俺の仕事らしいからな」


「じゃあいいや。気にしない」


なんとも切り替えの早い少女であった。


「話を戻すが、防衛軍は第一部隊から第六部隊まで、全部で六部隊に分けられている。部隊ごとに担当都市を分けて効率を上げるためだ」


「担当都市……ってどういうこと?」


「これに関しては、まずこの国について説明する必要があるな。俺たちがいる国、最終防衛国家ロズリカは第一区から第六区の六つの都市に分けられる。防衛軍は一つの都市につき一つの部隊を編成して担当させている」


「えーっと、私たちは第六部隊だよね。じゃあ担当するのは……第六区?」


「正解だ。ロズリカは都市によって役割や特徴が大きく分かれるからな。担当する部隊の仕事も都市によって少し差が出たりするが、今は考えなくていい。それより執行官の仕事について話そう……と言ってもシンプルなものだがな」


「シンプルなんだ」


「なにせ俺たちの仕事は天使討伐。訓練が多い。あとで連れて行くが、この基地には訓練場がある。トレーニング機器が山ほどあるトレーニング室、体術や狙撃術を磨く訓練室、模擬戦が出来るシュミレート室……部屋は色々あるな。執行官の一日の多くは訓練場で消費される」


「えぇ……キツそう」


「当然キツい。俺も入隊したばかりの頃は付いて行くのに苦労した。だがその内慣れる、と言うより慣れなければ戦場ではやっていけない」


負傷、装備不足、戦力不足。戦場で満足には戦えない事は珍しくない。そのストレスに耐えられなければ、命懸けの戦場で生き残るのは不可能だ。


「訓練のスケジュールは防衛軍が組んでくれる。基本的にはスケジュールに従って訓練するが、もちろん自主的に訓練するのも可能だ。シュミレート室は例外だが、訓練場の管理所に利用届けを出せば大半の設備は使える」


「レンは自分から訓練場使ってるの?」


「ああ。これは俺に限った話ではない。暇な時間にトレーニング室に行く執行官は多いぞ。特に早朝はな。お前も暇があればやってみるといい」


「……(しばら)くはいいや」


流石にそこまでやる気力は無かった。


「執行官は他に何かしないの?訓練だけ?」


「もちろん他にもある。これも訓練みたいなものになるが、教習所で座学や戦術について学ぶ。要するに勉強会だ」


「勉、強……!?」


相変わらず無表情だが、スティアがショックを受けていることはレンでも理解できた。


「嫌いなのか?」


「ううん。そういう訳じゃないけど……なんか嫌だ」


「そうなのか……」


読めない少女だが好き嫌いはあったらしい。


「なんで勉強するの?やっても強くなれないよ」


「確かに身体的成長はない。だが戦闘において知識は重要だ。知識があれば戦い方の幅が広がる。対応力や応用力も上がる。知識の有無は実力に直結するぞ」


「うげ……頑張るしかないんだね」


「あとは自己管理のためにレポートを出したり、天使討伐の後に報告書を出したりするが、これはその時に教えよう。執行官の大まかな業務内容はこんなところだ。他に聞きたい事はあるか?」


「…………じゃあさ」


少し考えてから、スティアは意外な事を言った。


「ご飯って何処で食べるの?」



***




現在時刻は午前九時。執行官を含め、防衛軍の各部署で働く者たちは既に朝食を済ませて働いている時間だ。

なので防衛軍基地の食堂はいつもこの時間は人がいない。今日は例外だが。


「…………」


食堂の長机の一角。凄まじい速度でスティアは料理をかきこんでいく。カレーライス、食パン、オニオンスープ、チキンフライ、ハンバーグ、コーンサラダ。一度にかなりの量を頼んでいたが、食べ始めてから五分ほどで大部分を胃に収めていた。


「………………」


スティアの対面に座るレンが何とも言えない表情をしていた。

驚きと困惑。突然『朝ごはんが食べたい』と言うので連れて来たが、着くとすぐに大食いを始めた。

スティア曰く、今日はまだ朝食を摂っていなかったらしい。それなら空腹になるのも理解できたが、それにしてもこれが十七歳の少女が朝から食べる量なのか。

レンが驚いている内にスティアは完食してしまった。


「……ごちそうさま。ここのご飯美味しいね」


「いや早すぎるだろ。どんな胃袋をしていたらそうなる」


「いつもはこんなに食べないよ。今はお腹が空いてたから」


(そういう次元の問題か?)


やはりレンにはこの少女が理解できなかった。色々な人物と関わってきたが、彼女は全く未知のタイプだ。


「お前、好き嫌いとかあるのか?」


「……強いて言うなら、美味しいものが好き。あと疲れることはイヤ」


「食事が趣味か」


「趣味ってほどじゃない。ただ、今まで似たような物を食べてたから。新しい食べ物があるとちょっと嬉しい。美味しかったらもっと嬉しい」


「……そうか」


歳に似合わず全体的に希薄な少女だと思っていたが、なんとなく理由が分かった。

スティアは単純に経験と知識が足りていないだけだ。興味がないのではなく、興味を持てる対象を知らない。

そしてその要因は───。


(……後でマキアに聞きに行くか)


「レンはどうなの?好きな事ないの?」


「俺は特に無い。趣味について考える余裕があまり無かったからな」


「ふーん、つまんない人生だね」


「それ以上に優先したい事があっただけだ。とは言え、淡泊な人生ではなかったさ。むしろ山と谷しかなかった」


過去に仲間からスティアと同じようなことを言われた。自覚は無いが、客観的には彼もかなり希薄な人間に見られるのだ。

趣味や興味のあるものを持つ者は防衛軍にも大勢いる。良好な精神状態を維持する上ではそれも重要な要素だ。戦場でストレスを溜めやすい執行官という職種なら尚更である。


「暇がある時に仲間に色々教えてもらっているが、特に進展は無かった。代わりに訓練をしている方が落ち着くと気付けた」


「……もしかしてレンってストレスを感じれない体なの?」


まるで化け物を見るような目でスティアが言った。


「そんなわけ無いだろう。ストレスは感じる。ただ俺は少し耐性があっただけだ」


「『あった』じゃなくて『上げさせられた』の間違いじゃない?それ」


横から女の声が聞こえた。開かれたガラス扉から入ってきたのは二人。

話しかけて来たのはピンクの長髪をリボンで首元で束ねている女。もう片方は白金色の髪をローツインテールにしてる小柄な女だ。


「貴方、入隊当初から一年くらい第一部隊でクラウス隊長から直々に指導受けてたじゃない。それで感覚が狂ったのよ」


「確かにそれはあるかもな。あの人の指導は本当に辛かった」


「シドウさんが重要な人材になると見越しての指導だったから……仕方ない……と思う」


弱々しい口調で白金髪の女はスティアを見る。


「……それより、この子は……誰なの?初めて見るけど……他の部隊から異動してきた人?」


「いや、新入りの執行官だ。第六部隊所属になる。せっかくだスティア、ここで挨拶しておけ」


「ん。スティア・ヴェンデース。新入りです、よろしく」


「あら、可愛い子ね。アンジュ・ナトレイルよ。貴方と同じ第六部隊所属執行官、狙撃手をやってるわ。これからよろしくね」


「えっと……エルマ・ミリスフィア、です……同じく第六部隊所属です……一応、狙撃手……というか弓使ってるんですけど……えと、取り敢えず……よろしくお願いします」


「二人はどうしてここに?俺はスティアを食堂に連れて来てここにいるが」


「さっき外の自販機で飲み物買ってたのよ。そしたら貴方が知らない子と一緒にいるのが見えたから気になったんだけど……もしかして、ここにある食器、全部その子が食べた跡なの?」


「そうだが」


「……結構食べる子なのね」


「この量を朝から食べる人は……防衛軍にもいない……と思う」


流石に二人も困惑していた。レンは自分の反応が一般的なものだったのだと確信して安堵した。


「先に伝えるが、スティアは俺が教育することになった。今日は基地と業務内容の紹介くらいだが。あとで訓練場にも寄るよ」


「貴方が指導ねぇ……あまりスパルタしたら駄目よ?」


「流石に入隊したばかりの執行官にそこまでしないさ。成長は段階を踏んで確実に積み重ねていく必要がある。地道にやっていくさ」


だがレンは現場でスティアを指導するよう言われている。現状、スティアは最も死の危険に近い立場と言ってもいい。本来より少しハードな訓練を強いることにはなるだろう。


「スティアさん……えと、シドウさんは凄く頼りになる人だから……安心して、良いと……思う」


「そうなの?じゃあ凄く頼りにする」


「お前はもう少し考えることを覚えてくれ」


「良いじゃない。元気な子が来てくれて私は嬉しいわ。今度またお話しましょう。そろそろ訓練場に戻らないといけないから」


「そうか、頑張れよ」


「うん……シドウさんも、教育頑張って」


二人が食堂から去っていく。スティアは先程の会話を見て思った事があった。


「レン、皆と仲良いの?」


「そうだな……多分、良いんじゃないか?少なくとも俺は信頼関係を築けるよう努めてきたつもりだ。執行官の間では信頼は大事だからな」


「大事なの?」


「ああ。戦場では重要な要素だ。俺たちは常に数十人、多い時には百人以上の執行官と共に戦う。命懸けの場である以上、信頼と相互理解は欠かせない。お前も時間があったら第六部隊の執行官たちと関係を作っておくといい。俺も手伝おう」


「ん、分かった。友達作り頑張る」


間違ってはいないが急に言葉が平和になった。やはり中身はまだまだ無垢な少女のようだ。

レンは少し不安になると同時に、悲しく思った。

何故、こんな少女が戦場に立たなければならないのかと。

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