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ANGEL BREAKERS  作者: 綿砂雪
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第一話 新人と新兵器

百年前、この世界に突如として超常の怪物が現れるようになった。

ソレらの外見的特徴は一致していた。背中に翼を生やし、体表に光輪を浮かべていた。

まさに天使のような外見。だがソレらの習性はその対極を行く。

ソレらは人智を超えた化け物だった。如何なる法則にも当てはまらない力を操り、さらにこの世のあらゆる生命体に対して無差別に攻撃する習性を持っていた。

その外見や凶暴性、超常の力を持つことから、ソレらは『天使』と呼ばれるようになった。


天使は不規則に世界各地に現れては虐殺を繰り返す。人類は応戦したが、科学では天使には太刀打ち出来なかった。一方的に虐殺され続けた結果、現在の世界人口は百年前の1%未満まで落ちている。

このままでは人類が滅びるのは言うまでもない。故に人類は研究の末に天使に対抗し得る手段と組織を作り上げた──。



***



最終防衛国家ロズリカ。この国の第一区の中枢に建立(こんりゅう)する最も大きな建物がある。

対天使人類防衛軍───略して防衛軍。天使と戦う人間である『執行官』をメインに構成された人類最大最後の希望である組織。ここはその防衛軍の基地だ。


午前八時頃。防衛軍基地の第六部隊塔の最上階、第六部隊長室に続く廊下を、一人の黒髪の青年が歩いていた。

白シャツの上に羽織った黒のコート、黒の長ズボン。これが彼の標準服。

名をシドウ・レン。第六部隊に所属する執行官だ。


第六部隊長室の前まで来ると扉が自動で開く。そのままレンは室内に入った。

隊長室の奥に置かれた大きな事務机の上にはパソコンや資料などに加えて、コーヒーポッドまで置かれている。壁際には棚が並べられており、そこにも大量の資料が収納されている。

いつも通りの第六部隊長室の光景だが、一つ欠けているものがあった。


「……ルーヴェス隊長?」


室内には誰もいなかった。いつもこの部屋にいるはずの人物がいない。

ここに来たのは彼女に呼ばれたからなのだが、別の用事で部屋を空けているのだろうか。考えていると、再び部屋の扉が開いた。


「待たせたな、レン」


現れたのは一人の女。赤髪の長髪を後頭部で束ねている。

ルーヴェス・アインドルト、第六部隊をまとめる第六部隊の隊長。現場に出ることは少ないが、レンと同じ執行官でもある。


「来たばかりなので構いませんよ。今日はどういった要件で?」


「大した話じゃない。お前に預けたい奴がいるんだ」


ルーヴェスが扉の向こうに「入っていいぞ」と声をかけると扉が開いた。

現れたのは一人の少女。白一色の髪を三つ編みにして束ねている。

袖先にフリルが付いた白のブラウスに、黒のショートスカート。表情は無表情に染まっていた。


「コイツはスティア・ヴェンデース、歳は十七。新しくここに配属されることになった執行官だ」


純真無垢、それがレンが抱いた第一印象だった。この少女を表現する上でそれ以上に適した言葉は見つからない。


「スティアです。よろしく」


スティアと呼ばれた少女はレンに右手を差し出した。握手をしたいのだろう。


「第六部隊所属執行官のシドウ・レンだ。こちらこそ、よろしく」


レンはスティアの手を握った。スティアは何度か手を軽く上下させるが、その間も表情は動かなかった。何を考えているのか読めない少女だ。


「それで隊長、俺にこの子を預けるというのは、どういう意味ですか?」


互いに手を離すと、改めてレンはルーヴェスに尋ねた。


「お前にはこの子の教育を担当してもらう」


「教育……では、彼女は新人ということですか?」


「そうだ。スティアは今日から第六部隊に加わる新入りの執行官だ。そして防衛軍の()()()の第一号でもある」


「…………は?」


一瞬、思考が停止した。言われた事を受け入れるのに時間がかかった。


機巧天使(アンチエンジェルス)──天使を殺すために作られた天使だ。とは言え、スティアは立派な人間だからな。正しくは天使特攻の力を身に宿した人間と言うべきだろう。魔装(エグゼクター)に次ぐ新たな兵器という事だな」


「…………」


説明を聞いた後ですら、レンは言葉が出なかった。

目の前の少女が防衛軍の新兵器。今まで執行官として数え切れない程の予想外の事態に遭遇してきたが、ここまで驚いたのは久しぶりだ。

試しにスティアを見てみるが、彼女は相変わらず無表情。新兵器という扱いについては何も思っていなさそうだ。


「……ルーヴェス隊長、具体的にどういった教育をすれば良いのですか?」


「特別なことはしなくて良い。スティアはまだ何も分かってない新入りだ。執行官として必要な能力を現場で実践させながら叩き込め」


その発言の意味するところは。


「つまり、未熟者を戦場に立たせろと?」


「そうだ。言いたい事は分かるが、今の時代、人類に明日が訪れるかすら危ういような状況だ。悠長に時間は掛けてられないからな。早い内から現場で働かせることで急成長を狙っているのだろう。もちろん新兵器としての可能性を試す意味合いもあるだろうが」


理に適った話ではあるが、レンとしては難儀な事であった。

要するに先人が経験の浅い者に教育しろ、という話だ。どこの社会にもある至極一般的な方法。しかしそこに命の危険が伴うとなれば、話は変わってくるだろう。


防衛軍では執行官の死について誰かが責任を追及されることはない。天使に殺された者が悪い。それが執行官の常識であり、そのつもりで彼らも戦場に立っている。

だからこそ未熟な執行官にはまず段階を踏ませる。身体能力や戦闘技術の訓練、そしてシュミレートによる擬似的な実戦訓練。戦場でも簡単には死なないレベルまで育ってから、ようやく戦場に立てるのだ。


新兵器とは言えスティアは新入り、執行官としては未熟者だ。戦場では比較的死にやすい立ち位置の人間である。

だが同時にスティアは防衛軍の新兵器でもある。彼女の存在価値は防衛軍にとって計り知れないものだろう。簡単に死なせることは許されないはずだ。

それでも初めから死地に連れて行けと言うことは、


(俺が守れって事か)


ルーヴェス、そして防衛軍の上層部は暗にそう言っているのだ。なぜ自分が教育担当に選ばれたのかレンは納得した。


「今日は基地の案内と業務内容の紹介くらいでいい。初日から詰めすぎても上手くいかないだろうからな。ひとまず今日のお前の予定は全部スティアの教育に回せ。スケジュール調整はこっちでしておく」


「……了解です」


「良し。それじゃあ、そろそろ……」


ルーヴェスは今まで会話から外されていたスティアに目を向け、気付いた。


「…………Zzz」


寝てる。この状況で、しかも立ちながら、スティアは悠々と眠っている。


「ルーヴェス隊長、この子は本当に防衛軍の新兵器なんですよね?」


「ああ……間違いない。間違いなく、新兵器だが……これは」


儚げな外見以上の度胸に二人は言葉を失った。

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