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違和感

「リオルド殿下の様子がおかしい?」


低く抑えた声で、男は問い返した。


「は、はい……その……目を覚まされてから、様子が……」

使用人は言葉を濁し、落ち着かない様子で視線を彷徨わせる。


男——グレン・アークフォードは、わずかに眉をひそめた。


「熱病の影響ではないのか」

「それが……医師も首を傾げておりまして……」


——妙だな。


グレンは短く息を吐き、踵を返した。


「案内しろ」


足を進めながら、グレンは内心で小さく舌打ちした。


——またか。


ただ寝台で大人しくしていればいいものを。


外に出ることもほとんどない皇子の護衛など、退屈でしかない。

どうせ今回も、頭が痛いだの、悪い夢を見ただの——

適当な理由を並べ立てているのだろう。


「執事長。グレン様をお連れしました」


使用人が扉を開ける。

室内には、寝台に横たわる皇子と、執事長、そして医師の姿があった。


「ああ……っ、グレン様……!」


次の瞬間——


執事長が、目と鼻から滝のように涙を流しながら駆け寄ってきた。


「リオルド様がぁあああああ!!」

「な、……」

あまりの勢いに、思わず言葉を失う。


——よく泣く男ではあったが。


今日は、さすがに度が過ぎている。


ぶつかる勢いで迫ってくる執事長を、グレンはわずかに身を引いて避けた。

そのまま足を止めることなく、寝台へと歩み寄る。


「何事だ、ヴィンセント」


声をかければ、医師は少し困ったように眉を下げ、こちらを振り返った。

「……少々、問題が起きましてな」


「問題なぞ、常に起きている」


何を今さら、という話だ。


ちらりと寝台へ目を向ける。


——その瞬間。


視線が、ぶつかった。


「殿下……本日は——」


言いかけた言葉が、止まる。


「お前も、誰だ」

——低い声だった。


普段の皇子とは、比べ物にならない。

どこか、底のある声。


「……おい」


思わず、眉をひそめる。


「今の声は、何だ」

確かに声質は皇子のものだ。


だが——


誰が、それを“皇子の声”だと断言できる。


こんなにも、迷いのない話し方を。


あの男がしたことなど、一度でもあったか。


いつもは申し訳なさそうに、

おどおどと視線を彷徨わせていたはずの男が——


「んだよ……やんのか」

——本当に、同一人物か?


思わず、腰に差した剣へと手が伸びる。


——ぞわり、と。


「おい……それ抜くなら——覚悟、決めろよ?」


空気が、震えた。

殺気だった。


それも——他でもない。


目の前の“皇子”から放たれたもの。


室内が、凍りつく。


「……っ」

何だ、今のは。


「グレン様。どうか、ことを荒立てないでくだされ」

ヴィンセントが疲れたように額を押さえる。


「殿下は現在、記憶を失っておられます」


——記憶喪失?

……ふざけるな。

そんな都合のいい話があるか。


「グレン、だったか」


寝台の上で、皇子がゆっくりと体を起こす。


「お前——」


一瞬の間。


まっすぐにこちらを見据えて、


「強そうだな」


——ニヤリと、笑った。

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