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6 ついにお役御免となりました

「マーメイ公爵家令嬢サハルアリシャ様ご来室です」



 国神王陛下のおられる謁見の間に、声が響く。「許す」という陛下のお声と共に、重い扉が開かれた。


 玉座の下、上座側には文の長であり、私の父でもあるマーメイ公爵と、武の長レイニー侯爵が控えていた。

 これはますますアレね。第一王子の婚約についてだわ。


 深い緑色をした絨毯の上をゆっくりと歩き、陛下の前で最上級の礼(カーツィー)をする。



「おお、サハルアリシャ。良く来てくれた。随分と久しぶりかもしれないな。もっと近く、顔を見せてくれ」

「恐れながら陛下。謁見の間にございましては」

「我が許す。我が裾まで」

「はい」



 通常謁見の間では、(きざはし)の上の玉座を見上げる形で対面を行う。陛下の裾まで、とは、まさに玉座のある段の二段下の場所──通称裾の段──までということだ。因みに玉座までは十段ほどである。


 陛下が正装をお召しになった時に、その段まで裾が降りるということから、そういう表現になったそう。


 第一王子の婚約者として、殿下へ魔力を流す者として、そして第二王子の家庭教師として、陛下とは親しくさせていただいている。けれどもやはり、こうして正式な場ではあくまで公爵家の娘としての分を弁えるべき──そう思っていても、陛下から言われてしまっては、拒否はできない。


 八段の階段をあがると、少しだけ広くなっている裾の段で再び礼を取る。



「うん。楽にして」

「お久しぶりにございます、陛下」

「少し見ない間に、随分綺麗になった。どれ、魔力は? 手を」

「失礼いたします」



 掌を陛下に向ける。陛下の瞳が私の掌に注がれると、ゆらりと指先から光が立ち上った。



「相変わらずの魔力量だ。そなたがグルナジェストに嫁いでくれたら、と思っていたが。──惜しいな」



 陛下のこの言葉で、私の希望が果たされたことが明白となる。



「永い間、あの愚息に良く付き合ってくれた。魔力も──。今更かと思うかもしれないが、そなたと我が息子グルナジェストとの婚約は白紙としよう」

「お言葉、畏まりて陛下より頂戴いたします」

「コーリアドの家庭教師は引き続き頼む。サハルアリシャほど頼める者はいないからな」

「勿体なきお言葉にございます」



 婚約が白紙になったことで、今にも踊りだしそうな気持ちを一切表情に出さず、優雅に礼を取ると、謁見の間を辞する。

 ああ、一刻も早く家に帰って歌って踊りたいけれど、今日はまだコーリアド殿下の指導が残っているのよね。残念。


 王宮の長い渡り廊下を歩く。

 柱と柱の間から見える広い庭は、今までと変わりはないのに、どこか輝いて見える。空を飛ぶ鳥の声も、まるで祝福しているかのように華やかに聞こえてきた。


 ああ、足が軽い。まるで宙に浮いて──いけない。本当に浮いていたわ。浮かれすぎているわね。

 ふわりと足を着けると、再び廊下を歩いていく。



「サハルアリシャ様」

「まぁ、コーリアド殿下。どうしてこちらに」



 廊下を曲がり、第二王子の居室となる門を入ったところで、殿下が駆け寄ってきた。なんて可愛らしい姿なの。もうずっと我慢していたけれど、思わず抱きしめてしまったわ。まだ背も低く──とは言え10歳の少年と考えれば十分な高さでしょうけれど──私の胸元に頭を抱くと、母性本能がキュンキュンとしてしまう。



「父上からはなんと? 兄上との婚約が白紙となっても、僕の家庭教師は続けてくださるんでしょう?」

「コーリアド殿下はそのことを心配していらしたのですね」

「だって、サハルアリシャ様にはもっともっと教えていただきたいことがあるんですよ」



 この、上目遣いで見てくる瞳が愛おしい。

 ちょっとあざとい気もしなくはないけれど、それはそれで自分の武器をうまく使えることは大切だものね。というよりも、可愛いから全て良しだわ。



「陛下は、このままコーリアド殿下の家庭教師を続けるよう、仰せになりました」

「良かった! じゃあ次はサハルアリシャ様を、僕の婚約者にしていただけるように、父上に頼まないと」

「殿下、またそんなことを仰って」



 第二王子であるコーリアド殿下だけれど、王太子になる可能性は限りなく高い。彼の婚約者となれば国神王妃になれる確度は高くなるというもの。とは言え、さすがに10歳の少年相手に、今どうこうとも考えられないし、そもそも子どもを成すことを考えれば、できれば殿下と同年代の方が望ましいとは思う。

 国神王陛下からの命が下れば、否やとは言えないのだけれども。


 でもまぁ、兄王子から弟王子に、なんてポイポイするわけにも、国としてはいかないのではないかしらねぇ。



「さぁコーリアド殿下。稽古の続きをいたしましょう」



 とりあえず今は、第一王子から逃げのびたことを喜ぶことに終始しておこうかしら。

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