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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第2章 終焉の再来
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【2】使い魔

「初めましてというのは不服なのですが」

「仕方ないですね」


シルヴィアが窓側に席を移動し、目の前に座り直した小さな女の子たち。状況をそのまま飲み込むことに数秒間の時間を有して、彼女らに向けて自己紹介を試みる。


「ライトだ」

「そんなことは知っていますよ。天然なんですか?」

「私たちはお前と会った以前から、シルヴィア様に仕えているのですから。当然です」


フンと鼻を鳴らしてくる少女2人に、ライトは戸惑いを覚えつつ相手に自己紹介を促す。年齢的にも自分よりもまだ幼いはずだとそう、どこかで考えていたのだ。


「ソルです」

「ルナです」


ソルは碧翠の空をイメージさせる太陽の少女。ルナは紫の夜をイメージさせる月の少女。2人がぺこりとこちらに対して、礼儀正しく挨拶をしてくる。だが彼女らは自分の思考を読み取っていたらしい。じっとこちらを睨みながら、2人はライトの方にビシッと指を刺してきた。


「「私たち、お前よりも年上ですから」」

「調子に乗って見下さないでもらえますか?」

「私たち一応、100年は生きていますよ?お前よりもずっと人生経験豊富なんですから」


口数が多いのは月の少女。しかし、息ぴったりな彼女らの表現はややヤンキーのようにこちらにガンを飛ばしてくるので可愛らしい顔も台無しになっている。目付きが本気だったからだ。それには苦笑せざるおえない。


「思ってもいないくせに、何考えてるのでしょうか?」


ソルの無言の圧力が痛い。どうしてか、自分に対しての少女たちの風当たりはいつも強いのはなぜなのだろう。髪をふたつに結ぶ少女が思い浮かべてライトは、貼り付けた笑みを浮かべた。


「それで、その使い魔?がなんでこんなところにいるんだよ?その覚えてないって言うのも気になるし。いろいろ説明が欲しいんだけど」


こういう時はあまり相手を逆立てしないようにするのが1番だ。しかしその時、シルヴィアが口を挟んで補足を加えた。


「ソルに対しても、ルナに対しても、あまり見くびらない方がいい。足を掬われて転ぶことになるのは君の方だから。それに今更仮面を貼り付けたところで意味ないわよ、ライト」


大きく頷く2人の少女にライトは、自然と後方を見たくなった。ここに自分の味方は居ないらしいと。


「まず、誰なんだよ!?」


自己紹介があったところでこの少女たちは得体がしれない。シルヴィアに助けを求めるほか、今の自分にできることはない。


「まぁ色々あって実態はつい最近戻ってきたのだけど、君はそれも覚えていないようだから説明が必要。ソルとルアが味方であるのは確かよ」


ルナはやや勢いづいてライトの隣に腰を下ろすと、至近距離からつぶらな瞳がこちらを覗いた。


「現実世界はいいですね。お前のこと、ずっと見ていたのですが成長ないです、あの時と同様に。容姿もあまり冴えないんですよ!髪をあげてみたりするのはどうでしょう?パッとしない印象はあまり良くないのですよ?」


言われるがままにペタペタと髪をいじられるライトを見て苦笑するシルヴィア。ソルは朗らかに、それでいて言葉に躊躇いはなく。


「確かになんか、パッとしないですね」

「言われ放題ね。ソルもルナも君の容姿に物言いたかったんでしょう。だから付き合ってあげて」


彼女らから解放されたライトは確かに髪型が落ち着いた、のかもしれない。少しだけ不満があるのは、まぁ喉元で抑えて。だがソルもルナもライトを押しのけてシルヴィアに勢いよく言い放った。


「付き合ってあげているのはこちらですよ」

「シルヴィア様もそうですけど、私たちは現実と容姿は異なるのですから。そこのところよろしくお願いします」


それに対してあーと視線を泳がせたシルヴィアは、窓外を見て頷いた。


「そうだったわね」


だが、急に近くにストンと落とされていたルナの小さな手が少し怖いと思ってしまったのは気のせいか。ライトはその少女たちが何か違う意味で怖い気がした。


「さて、じゃあちゃんと私たちのことを話さなければなりませんね。アナタのことは……主人に近しい人物ですがまぁ、ライトでいいでしょう」

「ルナがそういうのであれば、私もライトと呼びましょう」


話しやすいように、シルヴィアがこちらに移動してくるので現在の席順は窓側にシルヴィア、その隣がライト。ライトの正面にルナでその隣にソルという形になっている。


「使い魔、と言いましたがほとんどの魔女に使い魔というものは存在します。シルヴィア様以外に魔女を見たことはありますか?」


問いを投げられ、自分の記憶にないことを認識したライトは首を横に振って否定する。それを聞いたソルとルナは自分たちの胸に手を当て自己主張強めに言葉を発した。


「ケッ……知らないのですか。シルヴィア様について何も知らないのですね」

「私たちがお前にとっての使い魔第1号第2号ですか」


温和に返してくれたのがソル。それに対して、ルナはこちらを蔑みながら自嘲の笑みを浮かべてくる。だが、無視だ。それよりもシルヴィアのことを知らないというのは自分にとっての不満要素でもあって、彼女は自分のことについて語ろうとしないのだ。それを顔に出すライトでもないが。


「使い魔とは魔女が使役する絶対的な主従関係で成り立つ魔物、精霊、動物のことを指します。それを最低限の知識として話を進めましょう」


ルナが話すのに対して、ソルはこくんと眠眼を擦っていた。それに気づいたシルヴィアが彼女に話しかけてみる。


「ソル?眠いの?」

「いえ……なんか、なんか」


シルヴィアが質問してみても歯切れの悪い回答しか帰ってこない。しかし、話は続いてゆく。


「私たちは、人間ではありません。人間と人間ではない異界の何か。その境界線というのはとても曖昧なものですが、まぁ人間は脆く異界人は強い。そういう違いだけで構いませんね」


そこでソルがルナの裾を引っ張って付け足す。眠そうな彼女でも、説明に加わろうとするのだ。


「シルヴィア様は魔女。主従関係の中で主にあたる方。私たちは魔物。従者にあたるものであり主の補佐と主の守護を任されたもの」


そこまで言ったソルは首を横に振って、眠気を覚ました。顔はそっくりだ。瞳の色と服の色合いが異なるだけで容姿はまるっきり同じ。


「魔物とは実在するのか?」


率直な疑問にルナが即答する。


「いえ、精霊も。魔物も。動物以外はこの世界に存在しないものとされています。だからライトも見たことないでしょう?」


シルヴィアがそこで自分のピアスを見せてきた。片方の耳にしか付けられていなピアス。揺れる石は碧翠と紫だ。


「魔物も精霊も、私たち魔女にしか見えない存在。だから一般人の君は普通にしていれば見えないということ。ただし、君は一般人ではない。少しの悪魔の血が混ざり合う魔女との契約者」


魔女と契約するメリットは、最短に妖術を保持することができる。魔女の圧倒的な力には劣るとも、契約をすることによって一般人が簡単に妖術を使用することができるようになるのだ。デメリットは相手の視界や思考がたまに流れ込んでくることだが、それはさほど苦でもないもの。


「私たちは魔物という部類に当たりますが、それでもシルヴィア様に仕えると決めた時に悪気を抜かれているので誤っても裏切ることはありません。それがシルヴィア様が今見せたピアスですよ」


シルヴィアがそれにトンと指で触れるとその石が光り出す。それと同時にソル、ルナの手首にも光の手錠が作り出されていった。


「これが契約した証拠です。さて、話は戻ります」


シルヴィアの耳に揺れる石など、今まで気にしたことはなかったがそんなものがあるのかと少し感心してみた。


「簡潔にまとめます。私たちの種族は、亜人です。亜人は人ならざるもの。しかし表記的には人間に近しい姿をした魔物ですかね」


しかし、ルナもソルも瞳が鋭く縦に伸びて。絶句するほど禍々しいオーラを放った。


「人と違う点など多数ですよ。今私たちが主にここにいる乗客を全て殺せと言われればそれはとても容易いことなのですからね」


ソルとルナが1歩踏み外しそうになっている所をシルヴィアの一声が宥める。


「落ち着きなさい」


「あ、はい。すみません、シルヴィア様」

「ヒートアップしすぎてしまいましたね」


2人が照れながら頭をかくので、ライトはそれに少しの恐怖と少しの驚きを混ぜながら複雑そうに視線を彷徨わせた。恐怖の正体はこれだったのかもしれないと解釈して。


「「私たちのこと、怖いですか?」」


しかし、彼の思考を2人は軽く読み取っていた。それは少し決まり悪そうでいて尚且つ悲壮な雰囲気を放っていて。


「いや、別に」


だがその言葉は、本当に正直にスルリと抜け落ちた。ライト自身彼女らの雰囲気にはゾッとした。それでもそこに恐怖を抱いたかといえばまた何か話が別だ。彼女らのその小さな身体を見ればわかる。


「あら……ライト。君、ソルとルナに好かれたのではないかしら」


シルヴィアが隣でクスリと笑って、視線を持ちかけてきたので彼女らの方に姿勢を戻した。すると頬を染める2人の亜人がこちらに対して嬉々を浮かべている。


「そ、うですか……」

「私たちが誰かを殺すと言うと、皆揃って顔を曇らせて縮こまるのですがね」


ルナはつっけんどだが、それでも嬉しそうに横を向きながら。ソルは真っ直ぐこちらに驚いた表情を貼り付けていて。ライトにとっては少女たちに好意を抱かれても、少し困るだけなのだが。


「……別にお前らのこと、怖いとは思わんがな」


好意を持たれることは悪いことではない。だが、彼は人と付き合うことが苦手だ。それは自分の中にある壁であるだけなのだ。

しかし、そんなことを考えていた青年を置いてその空気感は簡単に一変する。それを変えたのは当人たちだった。


「「でも私たちに、最後はない。終わりはないのです、永遠に。これこそが私たちとお前との最大の違いですね」」


意味がわからなかった。だが空気が糸を張ったようにピンとした緊張感に変化したのだけは理解した。まぁその答えはまたまた、本人たちから返してもらったのだが。


「「私たちは1度死んでいますから」」


2人の声が混じり合いそれは、とてもよくハッキリと聞こえた。シルヴィアはそれを静かに聞き込み窓外を眺めていた。

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