第九夜
目覚めたときに隣にある温もりに安堵した。自分が泣いていることに気づかずに美桜は微笑む。幸福だとそう思って。
「泣いているのですか?」
その言の葉に美桜はどうしてそう問いかけたかった。だけれどその前に頬を滴が伝った。
「どうして?」
どうして泣いているの?其れが疑問だった。黒月は近づき美桜の頬を流れる滴をその指先で撫でた。
あまりにもその行いが優しくて嬉しくて微笑む。其れに黒月は安堵したように微笑んだ。
滴を受け止めた指先を黒月は舐めた。其れを見た美桜の頬は真っ赤になった。
恥ずかしくて。でもあまりに愛しそうにそれを行うから何も言えなくて。
黒月は朱に染まった美桜を微笑ましそうに見つめると告げた。
「よかったもう苦しくはありませんか?」
その言葉に美桜は首を傾げた。黒月は其れを見てまた告げる。
「いいのですよ貴女が分からないならそれで」
「でも本当によかった貴女がもう苦しくなくて」
黒月は微笑みながら思う。貴女が苦しむ必要は何処にもない。
そして貴女をこの世界にまで追ってきた悪しき意志はもういないのだから。
黒月は美桜を抱きしめた。そして安堵した。もうお願いだから苦しまないで。
貴女は私が護るから。誓いは今だ告げることはなくこの心に秘められていた。