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《真昼の脱出劇》


 風花の口から紡がれる話は、俺の閉じた心ですら深く惹きつけ、毎夜続きを心待ちにする程に俺は彼女の話の虜になっていた。


 この世界の事を何も知らない俺にとって、全ての話が有益な物であった。この森の事や世界の事など様々な物が俺の心を鷲掴みにした。


 そうして、あれから数日の日々が過ぎ去った。




 あの日と比べ、俺の足はすっかり良くなり普通に歩ける程回復をした。今なら、例え全速力で走っても大丈夫だろう。


 彼女の話も、足の具合を見越してか前回で終わった為もうこの森に未練など無い。


 ふと、由良の方に目を向ける。彼女はというと、今は忙しそうに鞄に荷物を詰め込んでいる途中だった。


「はぁ...やっぱりこうなるか」


 初めは、俺一人でこの森を出ようとしていた...していた...筈だったのに。なんで!!!


「なんで、こうなるのかなぁ...」


「あれは確か...あっ!あっちか‼︎それでえぇと」


「そんなに、慌てなくとも誰も逃げないわよ。そうよね?」


「はい...」


 こうなった理由は実に簡単だ。俺がこの森の危険性を、充分に理解してしまった事と風花さんに脅さr...お話をされたからだ。いや、マジで怖かったです。本当マジで。


 まぁ、こうなってしまった以上大人しく手を借りる事にしよう。大丈夫...今回は彼女達から言い出した事だ。これは、仕方の無い事だ...。


「不安なの?」


「え?あぁ大丈夫です」


 いかん、いかん。表情に出てしまった。どうにも、こっちに来てからつい顔に出やすくなってしまうんだよな。なんでだろ?


「 ......そう。ならそういう事にしておくわ」


 そう言い残して、風花さんは由来の方へ手伝いに行ってしまった。そんな、彼女達を俺は黙って見つめる。


 作戦決行は、昼の11時。太陽が空高く昇った時に出発する。何故、夜なのでは無く昼なのかと言うと...


「黒狐は、呪いの子であると同時に夜の女王とも呼ばれている。だから、夜ではまず無理。ならば、狙うなら太陽が昇っている時。それも、太陽が高く一番高くなった時がベストなのよ」


 と事細かに説明してくれた。もし、この情報無しであの日馬鹿正直にこの森から出ようとしていたなら俺は今頃黒狐の所で...いや、これ以上は辞めよう。うっ、少し思い出しただけで寒気が。


時計の針は、まだ10時を指している。後、1時間か...。


 なんだか落ち着かない。体は、止まっていられ無くて小刻みに体の何処かを動かしてしまうし、心も言葉に出来ない何かが心を覆い尽くす。もう一度、時計を見る。残り57分。


 その絶妙な時間が、余計に俺の心を激しく揺さぶる。だって、後1時間も無い時間が過ぎたら今度は俺自身があの話と同じ事になるんだ...。


俺が...俺なんかが、果たしてこの森から逃げられるのか?何故か、この森の呪いに引っかからないだけの俺が上位種である黒狐から逃げられるのか?


 考えるのは.....辞めておこう。今それを、考えてしまうのは彼女達に失礼だ。ならば、せめて俺は...。



















 時間は11時。空は、雲一つ無い程に快晴で太陽は天高く昇っている。これ以上無い程に、条件の整った状況の中彼女が声をあげる。


「よし、それじゃ作戦始めましょうか」


 風花さんを、先頭として(風花さん 俺 由良)の順番で一列になって家から出る。


「うっ、眩し」


 そういえば、いつもは夜に外に出るから太陽の光を浴びるのは久しぶりなのか。うぅ...太陽の光がこんなにも眩しかったなんて。


 しばらくの間、腕で目を隠していたのだがその内段々と慣れ始めやっと普通に目を開けられる様になった。


「はぁ...」


 こんな状態で、無事にこの森から出られるのだろうか。


「ため息をすると、不幸になるわよ」


「あぁ、確かにそんな事も言っていましたね」


「ん?あぁ、あの話の中でね」


 一瞬、返事が遅れて帰って来たものの風花さんはいつも通り返事を返す。というか、こっちの世界にも同じ様な言葉があるのか。やっぱり、生きている世界が違くてもそこら辺の考え方は一緒なんだな。


「あの、本当に足の調子大丈夫ですか...無理とかして無いですか?痛い所とかあったら、直ぐに私に言って下さいね?ご主人様」


 心配そうに、俺の事を見つめる由良。この子は、本当に優しい子だ。ちょっと、アレな所もあるけど基本的にはとても良い子で親切である。

 ただ、やっぱりご主人様呼びは慣れないから辞めて欲しい。


「大丈夫だよ、ありがとう」


 そう少女に、告げるとそれが本心だと伝わったのか由良は嬉しそうに笑顔になる。やっぱり、このぐらいの子は笑顔が一番だよな。


「でも、無理はしないで下さいね?」


「うん、分かってるよ」


「約束ですよ?」


「 ...... 」


 約束か...それは、ちょっと出来ないな、なんて言える筈も無く俺は黙りこんでしまった。そんな俺の心境を悟ってか少女も黙ってしまった。


「まぁ...うん、心に留めておくよ」


 ごめん由良。これが、俺の精一杯の返事なんだ。今は、これでなんとか納得してくれ...。


「分かりました。もし...


 最後、小声で何か呟いていたがどうやら納得してくれたらしい。俺って、本当に駄目だな...。



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