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骨を抜かれてしまいました。








深い深い森の奥、僕は其処で産まれました。産まれましたと言っても昔はまともな意識を持っていなかったので、覚えているわけじゃなくて知っているという感覚なんですが。

兎も角僕は産まれました。多くの兄弟にまみれながら、土や草にまみれながら、災難にみまわれながら。

僕が辺りを見回すと、既に殆どの兄弟は死んでいました。寿命だとか卵から出て来るのに失敗したとかではなく僕から少し離れた所にいた人間に殺されていた様で、首を切られていたり首から下を真っ二つにされていたり全身の皮を剥がれていたり木の幹に串刺しにされていたりぶつ切りにされていたり岩に潰されていたり、とにかく殺されていました。


僕はそれを見ても何も感じていませんでした。強がりとか薄情とかではなくて、産まれたばかりの蛇として一生懸命に卵から出ようともがいていたのです。


しかしその頑張りはその場では叶いませんでした。人間が僕の鼻に指を置き何かを呟くと、僕の全身は力をなくしました。その時に、僕は尻尾の先と頭以外の骨を全て抜かれてしまったのです。


小さくか弱く卵から頭しか出ていないぼくは身じろぎ位しか出来ず、人間が他の兄弟をいたぶり笑いながら去って行くのを、雑音を聞きながらじっと見ていました。


何回か太陽が沈んだり登ったりを繰り返した頃、小さな僕の身体には変化が現れました。それは鼻先に止まって来る羽虫を何匹か食べた時の事です。突然僕の身体に活気が漲って来て、それまで身じろぎしか出来なかった僕は身体をメチャクチャに動かし、なんと卵から身体を出す事に成功したのです。


そして僕は空腹を満たすために周りに転がっている兄弟の肉片を口にしました。


僕は一心不乱に肉を食べました。それまでに口にしていたのが小さな羽虫数匹だけだった事もあり、夢中になって近くにあった肉から手当たり次第に食べて行きました。


今にして思えば身体に活気が漲ったのは階位が上がったからで、動ける様になったのは階位が上がった事で身体が『めちゃくちゃに動かせる』ように進化したからだ。


兎に角、空腹を満たす事が出来た小さな僕はそこでようやく問題に気付いたのだ。・・・身体を自由に動かせない、と。


ここでもまた、小さな僕は一心不乱になった。パニックに近い状態だった。動かせるのが当然の筈なのにまともに動かないのは恐怖だった。そう、僕が初めて感じた恐怖は人間に殺される兄弟を見る事じゃなく、その人間が僕にした行為でもなく、自分の身体が動かせない事だった。


小さな僕は長い間もがき続けたけど、不意にもがくのを止めた。お腹が空いてきたからだ。


そして周りに転がる兄弟の肉片を見て、一番近くにある肉に視線を向けた。僅かな距離だが、身体を自由に動かせない小さな僕には大変な距離だ。だから小さな僕は一生懸命にジタバタと暴れた。日が傾く位の時間暴れ続けて、ようやく肉が食べれる位置に来た。暴れ続けて疲れていた小さな僕は目の前の肉を夢中で食べた。空腹は耐え難いものになっていたし、何より産まれてから数日しか経っていない頭では食べる事しか考えられなかった。


だから気が付かなかった。その兄弟が皮を剥がれて地面に串刺しにされているだけだなんて、まだ微かだが息があるなんて、・・・生きたまま、その体を貪っていたなんて。何より小さな僕が肉を貪っていた(・・・・・)なんて。



気が付くと僕の身体に活気が満ちていた。階位が上がったのだ。生きたままの兄弟を食べる事で、兄弟を殺す事で、階位が上がった。


そして小さな僕の身体はちょっぴり大きくなった様で、まだ少しだけお腹が空いていた。だから近くの肉片を見て、そちらに向かって這い進んだ(・・・・・)


この変化には全く驚かなかった。今までの動けない事の方が異常で、這い進む事ができるのが当然の事過ぎて何も感じていなかったのだ。しかし肉片に辿り着いてからの行動には流石に違和感を覚えていた。


肉片を前にした小さな僕はその肉片に喰いつき、あろう事か喰い千切ったのです。僕達蛇は獲物に喰いつく事はしますが、そのまま飲み込みます。丸呑みです。しかし小さな僕は何故か兄弟を喰い千切り、咀嚼し、飲み込みました。明らかに異常です。この異常さは小さな僕も感じていましたがまだ野生の獣の域を出ていなかった小さな僕は戸惑いながらも千切っては咀嚼し、吞み込み、千切っては咀嚼し、吞み込みを繰り返し、空腹を満たしました。


小さな僕は周りに食事が落ちているその場所からあまり動かず細々と生きていましたが、食事がだんだん少なくなり、腐っていく事に不満を感じていました。


ある時小鳥が飛んできて兄弟の腐肉に沸いた虫を啄ばんでいました。久しぶりに見た新鮮な獲物に興奮し思わず襲いかかる小さな僕をその小鳥はあっさりと躱し、少し離れた所にある別の兄弟の腐肉に沸いた虫を啄ばみはじめました。


その後も小さな僕はその小鳥を襲いましたが、捕まえる事は出来ませんでした。


小さな僕は不満を感じながら腐りゆく兄弟の肉片を口にし、空腹を満たしました。


小鳥はその日から毎日の様に虫を啄ばみにくる様になり、そのたびに小さな僕は小鳥を襲いましたが、小鳥を口にする事はありませんでした。


しかしある時何を思ったのか、小さな僕は動かないフリをして虫の沸いている肉片の近くに横たわっていました。当然小鳥は小さな僕を警戒して近付かないのですが、小さな僕が目玉しか動かさないのを見て徐々に徐々に近付き、一匹の虫を咥えて離れました。小さな僕はそれでもじっと動かず横たわっています。小鳥は少しずつですが小さな僕の近くで虫を啄む時間を長くしていきます。


そしてついに、小さな僕が待ち望んでいた瞬間がやって来ました。


小鳥は大胆にも腐肉の隙間に顔を突っ込んで、奥に居る虫を食べようと頑張り始めました。もちろん最初は小さな僕を警戒しながらでしたが次第に顔を突っ込む時間が長くなり、終いには翼の半ばまで腐肉に埋もれていました。


小さな僕は何度かその光景を確認すると音を立てない様慎重に、しかし素早く動き小鳥の背後についた。小鳥も何か感じたのか動きを止めて周囲の気配を探る様子を見せたが、既に背後に回っている小さな僕が再び動きを止めた事で小鳥は異常無しと判断し食事を再開した。


そうして逃げ延びるチャンスを逃した哀れな小鳥を小さな僕は一瞬で真っ二つにした。


小さな僕と小鳥の位置関係的の問題で、小さな僕はまず小鳥の下半身、翼の付け根あたりから下を食い千切り咀嚼した。咀嚼している間に哀れな小鳥は翼をバタバタと動かして抵抗の様な行動をしたが既に遅く、腐肉からコテリと転げ落ちしばらくの間翼を動かしていましたが、飛ぶ力などとうに無くなっている様で地面から身体が浮き上がる事はありませんでした。


咀嚼を終えた小さな僕が顔を向けると最後の抵抗のつもりなのか懸命に鳴き声を上げていました。小さな僕はそんな事には構わずに、大きく口を開けて小鳥の命を絶ちました。


小鳥を食べ尽くした小さな僕は襲い来る眠気に負けウトウトしていました。そして身体に満ちる活気と共に身体からミチミチブチブチゴニョ・・・という音がするのを聞きながら、小さな僕は腐肉に寄り添う様に身を寄せ眠りにつきました。


眼が覚めるとお腹が空いていました。小さな僕は仕方なく隣の腐肉を貪っていると、少し離れた腐肉に集まっている小鳥達を見つけました。そして小さな僕は身体を縮め、力を込めて伸びました。


そう、僕は初めてジャンプをしたのです。


ジャンプをしながら身体を再び縮めた。これは本能みたいなものだったと思います。小鳥達から見たらきっと減速した様に感じたでしょうが、小さな僕は真っ直ぐに、変わらない速度で小鳥達に向かっていました。小鳥達が飛び立とうとした瞬間に小さな僕は身体を思いっきり伸ばしました。小鳥達は身体を縮めた状態の小さな僕との距離が急激に縮まった事にパニックを起こしたのか、飛び立つのが遅れました。


一匹が小さな僕の口に、そしてもう二匹、小さな僕の身体に巻きつかれ捕獲されました。口にある小鳥を咀嚼しながら身体に力を込めると、巻き付かれた小鳥達はポキポキと音を出しながらあっという間に息絶えました。


一挙に三匹の小鳥を仕留め、全て平らげた小さな僕は明らかに膨れたお腹に力を込め内容物を圧縮しました。そうして身体の大きさが大体元の通りになってから、小さな僕は森の中を這い回りはじめました。


森の中には沢山の生き物が蠢いていました。虫や小鳥は当然の事、小動物やそれを狙う大型の鳥や狼等の中型の動物、数が多くはないけれど、少ない訳ではない熊の様な大型の動物。


そして僕と同じ、蛇達。


この森にはかなり沢山の蛇達が居ます。小さな僕よりも小さな蛇、とても大きな蛇、頭が沢山ある蛇・・・実に沢山居ます。


そして、這い回る小さな僕を狙う蛇も居ます。


それは小さな僕が湿地に辿り着いた時のことです。小さな僕は身体を隠したくて、水の溜まっている所を見つけるとそこに近付きました。するとすぐ後ろから水の音が聞こえます。その音は小さな僕が出している音ではありませんでした。小さな僕は身体を縮め、一気に伸ばすと水の上を滑る様に移動できました。そしてお腹の下から聞こえる音とは別の音が、ずっと後ろの方から聞こえました。


小さな僕が後ろを見ると、小さな僕に向かってかなりの速度で近付いて来る大きな蛇が居ます。小さな僕は丸呑みされそうです。だから小さな僕は一生懸命に泥の中に潜り込みました。大きな蛇の眼に恐怖を感じたのです。初めての、生死に関わる恐怖です。


泥に潜った小さな僕を大きな蛇は見つけられない様で、泥の上をズルズルと這い回り、たまに泥を鼻先でほじくり返しているみたいです。しかし結構深くまで潜っていた小さな僕を見付けられず、大きな蛇は動きを緩慢にしました。


この時小さな僕は振動とか重さとかで、大きな蛇の位置を大体把握していました。そして大きな蛇が動きを鈍くしたのを感じ、その首筋に勢いよく突き進み、首を切断しました。


決着が付いた、そう感じていました。しかし大きな蛇の生命力は恐ろしく強く、首だけの状態でまだ生きていました。下からの突き上げる様な噛み付きの勢いで切り離された頭は宙を舞い、小さな僕目掛けて落ちてきました。小さな僕の目と目の間に鼻先から落ちてきた頭は威嚇の姿勢を取っていましたが、それ以上何か出来るわけでもなく小さな僕に食べられるのを待つだけでした。


いざ食べようとすると威嚇の為に閉じたり開いたりする口の動きでコロコロと転げ回り、食べ辛い事この上なくかなり時間をかけてしまいました。


なんとか大きな蛇の頭を食べ尽くした時、身体に活気が満ちました。


小さな僕の身体の中からブチブチ、ミチミチ、ゴニョゴニョ・・・と音が聞こえます。今更ですが、この音が聞こえても小さな僕は気になりません。それが危険ではないと本能的にわかっていたからです。


身体の中から音が聞こえなくなると、小さな僕の身体はそれまでよりずっと大きくなっていました。あくまでなんとなくなので、実際にどれ位大きくなったかは分かりませんが確実に大きくなっていました。それ以外の変化はない様に感じていましたが、奇襲気味な攻撃を受けてしまった時にもう一つの変化を理解しました。


大きくなった小さな僕が、湿地をウロウロと這い回っていると草の根元に穴が空いているのを見つけました。小さな僕の大きさに丁度良さそうなその穴を覗きこみましたが、臭くて堪らなかったので無視する事にしました。


穴を避けて通りあとは尻尾だけというときに、それは突然小さな僕に襲いかかりました。


尻尾が穴の上を通り地面の冷たさが消えた瞬間、小さな僕の尻尾に何かに挟まれる鈍い痛みが走った。ビックリして文字通り飛び上がると、挟まれた尻尾になにかが付いてきた。


それは真っ黒な、ロブスターとカブトガニが合体した様な生き物でした。


その生き物は挟んだままのハサミに力を込めて小さな僕の尻尾を切断しようとしているようですが、その目的は果たす事が出来ません。そう、小さな僕の身体に起きていた変化のせいです。


小さな僕の身体は階位が上がった事で身体が大きくなり、そして鱗がとても硬くなっていたのです。気付けなかった変化を理解した小さな僕はハサミによる攻撃が自身に効かない事を察知し、反撃を開始しました。


挟まれて平気とはいえ目を攻撃される事を恐れた小さな僕は、まず身体を生き物の全身に巻き付けてハサミと殆どの脚の動きを封じました。ゆっくりと力を込めてゆくと生き物の脚がポロポロと落ちてゆき、片方のハサミも落ちました。


残ったハサミが小さな僕の身体によってしっかりと固定されているのを確認すると、ハサミの無い側に噛み付きゆっくりと力を込めていきました。


生き物の身体にヒビが入ってゆき砕け散ると、小さな僕はそこに鼻先を突っ込んで柔らかな身を貪り喰いました。今まで食べてきた中で一番食べ辛くしかしとても充実感のある食事に夢中になって食らいつく小さな僕の身体からは、あの音が聞こえて来ました。


ミチミチ、ゴニョゴニョ、ブチブチッと今までより大きな音がします。


生き物を食べ尽くした小さな僕が一息ついていると、小さな僕の耳に何やら音が聞こえてきました。

その音は身体の中から聞こえて来る音とは別のようで、小さな僕が何事かと首を動かした瞬間に、小さな僕の視界は暗転しました。




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