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4話 思い入れ

新生活3日目。




「お皿洗っておくよ。」


「ありがとうございます♪……なんだか悪いですね。いつも片付けをお願いしてしまって……。」




成り行きの半同棲が始まってからというものの、円香とシャンティはなんだかんだ一緒に食事をする仲になっていた。




「こっちこそいつもご飯作ってもらっちゃってるから、これくらいは……ね?」


「食費は折半してますし、お互い様ですよ♪」




シャンティは満面の笑みで応えた。


シャンティは嘘をつけるような性格じゃなさそうだし、ご飯に歓迎してくれてるのはおそらく本心だろう。




「私もシャンティみたいに料理作れたらな〜……。」


「円香さんに裸エプロン願望が……!?」


「あるわけないでしょ。」


「そうですか……。」




シャンティはガックリと肩を落とした。




「っていうか通常のコスチュームにはなれないの?」


「見た目を選べればどんなに都合が良かったことか……。」




シャンティは奥歯を強く噛み締めた。




「へえ〜。」


「『へえ〜』って、結構深刻な悩みなのに他人事ですか……!?」


「他人事も何も、シャンティのこと全然知らないしなぁ……。」


「……確かに、そういえば私も円香さんのこと全然知りませんね。」


「良い機会だし、シャンティのこと教えてよ?」


「……ですね♪」




円香は片付けを終えてシャンティの向かいに座ると、シャンティは得意げに語りだした。




「私や妹……故郷の星の人はみんなこれを持っていて、




シャンティは胸元をはだけてディスク挿入口を指差した。




「ディスク状の記録媒体を読み込むことができます。」


「シャンティはゲームディスクを使ってるよね。……あれ?確か……、




〜〜


『どーよ!昨日ぶっ飛ばされてからオールで「映画」リピートしたわたしの思い入れ、お義姉様にもたっぷり味わってもらうんだからね……ッ!?』


〜〜




円香は河川敷で妹が『超怪獣(ちょうかいじゅう)』のディスクを使ったときに、『映画』と言っていたことを思い出した。




「妹ちゃんが使ってた『超怪獣』って、ゲームじゃなくて映画だったと思うんだけど……。」


「そこはよくわかりませんが、とにかくディスク状の記録媒体なら使えるみたいです。」




なら、その気になればCDとかも使えるってことか……。




「シャンティはCDとかDVD使わないの?」


「試したことはあるんですが……、あんまりしっくりこなくて。」


「相性みたいなのもあるのか……。」


「ですね。」


「地球に来る前はどんな……っていうか、向こうにもゲームとかDVDとかあるの?」


「私の故郷にも、人を楽しませられるようなディスクがあればよかったんですけど……。」




笑顔で話していたシャンティの表情が僅かに暗くなった。




「ここまでにしておいた方がいい……?」


「いえ!」




シャンティはスッと立ち上がると、引き出しの中を漁って、ちょうどゲームディスクが入りそうなサイズ感の白い薄型のケースを2枚引っ張り出して机に置いた。




「これが故郷のディスクです。」




円香はケース観察すると、遊び心皆無なケースには、地球のものではない文字が一単語程度の長さに並んでいた。




「なんて書いてあるの?」


「地球の言葉に翻訳するなら……、




シャンティは2枚のケースを拾い上げた。




「こっちが『ウェーブ』で、こっちは『ヒート』……でしょうか?」


「それって何に使うの?」


「使ってみますね。」




シャンティは『ウェーブ』のディスクを自身の胸元に挿入した。




「どんな姿になるの……!?」




円香はワクワクして見守っていたが、今までのディスクのときとは違って、待ってもシャンティの身体に変化はなかった。




「……変わらない?」


「変わる訳ないじゃないですか。戦うための手段でしかないものに思い入れなんてありませんからね……。」




シャンティは乾いた笑いをこぼした。




「せっかくですし、少し試してみましょうか?」


「試す……?」


「最低出力でいきますね。」




シャンティは息を吸い込むと、




「ボァ"ア"ア"ア"ア"!!』


「うぅっ……!?」




思わず耳を塞ぎたくなるような、とても声とは形容し難い騒音を出した。




「……。」




シャンティはちょっと悲しそうな顔をして、『ウェーブ』のディスクを取り出してケースにしまった。




「……ね?このディスクはただの武器でしかないんです。」


「な、なるほど。『ボイス』じゃなくて……あれ?『ノイズ』でもないの?」


「私の故郷では声も騒音も、地震みたいな振動も全部、波状のエネルギーなんですよ。」


「それで『武器』ってことか……。」




円香はクラクラする頭で納得した。




「そういえばさっきシャンティ、『思い入れ』って言ったよね?」


「はい。」


「それ、昨日妹ちゃんも言ってたけど、


「そうでしたっけ?」


「ほら、河川敷で戦ったときだよ。」


「う〜ん……、」




〜〜


『どーよ!昨日ぶっ飛ばされてからオールで映画リピートしたわたしの「思い入れ」、お義姉様にもたっぷり味わってもらうんだからね……ッ!?』


〜〜




「言ってましたね。」


「その『思い入れ』が重要だったりするわけ?」


「重要……とは?」


「さっきの『ウェーブ』は思い入れがないから姿が変わらないんでしょ?『おふくろシミュレーター』が強制裸エプロンなのも、もしかして……って思って。」


「そういう意味なら……そうですね。前にこの『おふくろシミュレーター』をプレイしていた方は毎回隠しコマンドを入力していたようですし。」


「うわぁ……。」


「わ、私じゃありませんからね!?」


「はいはい。」


「む〜……!」




むくれるシャンティを見て、円香にもう一つ疑問が浮上した。




「じゃあ昨日、『ホイップルバスタード』が出せなかったのもその『思い入れ』が関わってる……?」




初めて会った日には使えていた『ホイップルバスタード』が昨日は不発だったことが引っかかっていた。




「『思い入れ』についてはまだまだわからないことが多いんですけど、円香さんと初めて会ったときは円香さんから、こう……、ものすごいパワーみたいなのを貰った気がしますね。」


「あのときはシャンティと私、2人分の思い入れで『ホイップルバスタード』が出たってことか……。」


「そうみたいですね♪」


「…………よしっ。」




円香は何かを心に決めた様子で、脇を締めてギュッと両手の拳を握った。




「……円香さん?」


「当面の目標が決まったね♪」


「え、なんですか急に


「つまりまとめるとこうでしょ?」




円香は頭の中を整理するように、人差し指をくるくると遊ばせた。




「シャンティや妹ちゃんが使うディスクは、姿も強さも、使う本人やディスクの持ち主の『思い入れ』次第……ってことだよね?」


「そういうことですね。」


「ということはだよ?」


「はい……、


「その『おふくろシミュレーター』は絶対着衣不可の呪いの装備って訳だ。」


「呪い……。」


「毎回わざわざ面倒な隠しコマンド入れてまで裸エプロンでのプレイにこだわってた前の持ち主の思い入れを越えるなんて、現実的じゃないからね。」


「……非常に不本意ですがそういうことになりますね。」


「だから裸エプロンを脱却するには別の新しいお料理系ディスクが必要……でしょ?一緒に探そうよ!」


「……良いんですか?」


「うん!私、とっても良い場所知ってるから♪」


「円香さん……ッ!」




シャンティの笑顔が今日1番に輝いていた。




「あと帰ったらシュガーについてお勉強ね?」


「え"」


「当たり前でしょ?1人でも『ホイップルバスタード』出せた方が良いし……、




円香の瞳から光が消えた。




「シュガーへの思い入れが野球以下とか万死だからね……?」


「ヒイッ!?」




シャンティは今日1番に震え上がった。

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