第366話バチバチ
逃走がうまくいけばよかったんだけど――
「ちょっと待った。まだ話は終わってないわ」
「……っ!」
ワタヌキは周り込まれてしまった。
僕としては本当に解散と行きたかったが、まぁ、そういうわけにもいかないか。
さてどうしよう? 一触即発の空気に、僕はじっとりと汗をかく。
状況は全然助かっていないね、これ?
喧嘩を止めるべきだと思うが、どうやったら止まるのか。
アシスタントの件を引き受けるのはなしとしてだ。
しかし月読さんに乗っかって拒絶したところで、明確な目的のあるミアさんが引き下がるとは思えない。
こういう時、攻略君ならあっさり解決してしまうんだろうけど、まだ神頼みのターンは早すぎた。
思うにミアさんは別に僕に興味があるわけじゃない。
僕と接触することで、エキスポの怪人『ファイアーボールヘッド』について、なにかしらの糸口を掴むことこそが目的なのは間違いないだろう。
レイナさんに直接聞けばいいのに、それをしないというのは彼女をここに寄越した誰かと同じ勢力と見ているのか? それともライバル心故か?
ただ、一時でも拳を交えたからか、回りくどいけど「らしい」と思ってしまうのは不思議な感覚である。
ならばと僕は、空気を読まずに口を開いた。
「ファイアーボールヘッド氏について最近の情報では……」
「! 情報では?」
バッと露骨に反応したミアさんに手ごたえを感じて、僕は割と新しめの情報を続けた。
「ファイアーボールヘッド氏……女らしいっすよ?」
「「!」」
すまない。アホな小話しか出てこなかった。
最悪ぶん殴られて丸く収まればOKくらいに思っていたわけだが、ミアさんと――なぜか月読さんにも予想外に動揺が走っていた。
「そ、そんなわけないでしょ! 戦ったファイアーボールヘッドはタフな男性だった! 間違いない!」
「その通りよ! 何度か見たことがあるけど、男よ! 動画も見たわ!」
ミアさんと月読さんが、まくしたてるようにほとんど同時に力強く言い切った。
仲……いいですね?
ちょっとした的外れ気味の豆知識だったが、案外彼女達にはまだ届いていなかったか。
しかし僕は静かに首を横に振った。
「ところが最近……あげてる動画が全部女性なんですよ。まぁバーチャルな体なんですけどね? リアルイベントでも女性で目撃されているとか」
「嘘ね! なりすましだわ!」
「そうよ! ありえない!」
「そうよね!? あれが女はないわ!」
「うん。間違いない。私もそう思う!」
早口で情報を交換して、二人は力強く頷く。
僕はなんだか、聞いているとものすごく照れくさくなってきた。
ファイアーボールヘッドくんさん、ひょっとして嫌われてない?
そして妙に息の合った二人は、爽やかに笑い合ってがっちり握手。
仲直り?
そう思ったのも束の間、ミシミシと嫌な音が二人の手のひらから聞こえてきた。
「ところで……ファイアーボールヘッド氏とはどのようなご関係かしら?」
「……何度か命を助けてもらった関係よ? そういう貴女はどんな?」
「……激しくバトルしたライバル関係ね。いつか白黒つけようと思っているわ」
「……もう白黒はついたのではないかしら? 往生際が悪く見えるわ」
「……そっちこそ。その様子じゃ助けられて以降、連絡はないんでしょう? 実質他人よね? それ?」
なんか……妙に迫力があるな。
そんな空気は周囲も敏感に感じ取っていて、戦闘態勢の緊張感に混乱が見てとれる。
「……」
「!」
僕は余計なことは言わずに瞬時に、外野の中でアイコンタクト。
さっきまで険悪だった僕らは間違いなくこの瞬間、通じ合った。
そして草薙君とハバキリ君は、頷いて同意。
コール君とブロック君の二人も頷き、意思統一は成った。
そっと影のように、僕らはその場から気配を消す。
この争いに巻き込まれても益がない。すなわち今度こそ本当に撤退である。




