第314話桃山君と生徒会長
桃山花臣は思いがけずに振られた大役に、緊張しつつも楽しみながら案内をしていた。
「いやーなんだか新鮮でござるよ。こうして誰かを案内するというのは」
「急な申し出だったのに対応してくれてとても嬉しく思っている。何か不都合がなければいいのだが……」
「そんな事ないでござるよ。こちらこそ何か気になることがあれば言って欲しいでござる」
「いや、大丈夫だ……むしろ普段通りでいて欲しい」
雲の上の人のように思える上級生の先輩に花臣は素直に頷く。
生徒が集まる場で話している姿を遠目から見たことはあったが、案外近くで話す生徒会長は普通の人で、低学年の自分が話しかけても普通に返事を返してくれる気さくな人で助かった。
「それは助かるでござるよ。拙者、案内されることはあっても、することは滅多にないでござるからちょっと緊張しているんでござる」
正直に言えばあまり気心の知れない人と、こうして連れ立ってダンジョンの中を歩くだけでも落ち着かない。
その上、生徒会長相手ともなれば、何か致命的な失敗をしないか怖いくらいだった。
まぁ普段、ダンジョン内では指示に従って動くことも多いから、そんな態度が透けて見えればさぞかし頼りなく思える事だろう。
しかし八坂生徒会長は頬を掻き、思っても見なかったことを言って来た。
「君は優れた探索者に見えるんだが……」
「それはないでござるな。良くて三流といったところでござるよ」
思わず即答してしまったが、八坂生徒会長はごく真面目に台詞を続けた。
「そ、そんなことはないと思うぞ? 少なくとも私が知る限りでは君ほど美しく刀を握る人間を見たことがない」
そしてまさかの大絶賛である。
花臣は完全に意表を突かれて、思考がフリーズしてしまうくらいに、生徒会長の言葉は予想外のことだった。
「……」
「な、なんだ? 黙ってしまって?」
だが話しかけてもらって、ハッとした花臣はまだ動揺したまま、しどろもどろな口調で答えた。
「い、いやぁ……まさか生徒会長にそんなことを言ってもらえるとは……なんだかこそばゆいでござる」
「そうか? フフフッ、まぁ誰かの評価なんてわからないものかもしれないな。少なくとも私はあの日観た剣の冴えは本物だったと思っているよ」
それはたぶんオーガ相手に、修羅化を体得していた時のことだろう。
あの時は正直、心身共に限界ギリギリで、なんにも覚えていない。
だがそこまで褒めてもらえるのなら、きっとあの時の自分は剣士としてシッカリと戦えていたのだと思うとちょっぴり誇らしい。
「いやぁ……照れるでござる。でも本当に大したことはないんでござるよ。家でも拙者、兄弟に比べて腕は今一でござったし……ここ最近もパーティメンバーに圧倒されっぱなしなんでござる」
だがいくら褒めてもらえても、事実は事実。
それは受け入れなくては始まらない根本的なことだった。
だというのに何も知らない八坂生徒会長は表情を引きつらせていた。
「それは、なんというか……すごいな。どれだけ強いんだ君の家族も、パーティメンバーも」
驚くのも無理はない。
まぁうちの家族はレベルアップ前だからともかく、サブカルチャー研究部の強さは、正直常軌を逸してると花臣は確信していた。
「それはもうすんごいでござる。でも拙者も武人の端くれ。家族はともかく友人たちに情けない姿ばかりを見せるのも面白くない。……だから少しだけ悪あがきもしてみるつもりなんでござるよ……」
そう、花臣はもう昔ほどに精神的に卑屈になっているつもりはなかった。
「悪あがきか?」
「そうでござる。その第一弾がこの階層なんでござるよ。成功していれば、生徒会長さんにも間違いなくプラスになるはずでござる」
「?」
花臣は自分の口角がつり上がっていることを自覚する。
そう、それはまさしく自分で考えた悪あがきの一つだった。
「実はこのフロアに、テイムモンスターの中でも強力な個体を集めているんでござるよ」
「何のためにそんなことを?」
不思議そうな生徒会長だが、今回生徒会長に紹介するモンスターはその悪あがきから生まれたモンスターなのだ。
「まぁ簡単な話。モンスターにも自己鍛錬の場があっても良かろうよと」
これから彼女を連れて行く場所では、オーガが修行をしている。
レベルを上げた同レベル帯での模擬戦によってテイムモンスターの実力を底上げしようという試みである。




