第304話さぁ頑張ってみようか
「キシャアアア!」
完全に人というよりは蛇の威嚇音が遺跡の中で木霊する。
対して無言で空中に浮かぶダークなひのたま君は、鏡越しでもまんまぬいぐるみでプリティである。
ただその身に纏うオーラは全然かわいくはない。
それは本気のバトルで腕を切り落とす羽目になった僕が一番よくわかっていて、ダークひのたま君がその気になった瞬間、緊張で体が汗ばんだくらいだった。
そんな彼は今は味方である。
頼もしいと思いながらも僕はダークひのたま君を観察していた。
「……さてどうですかね? ラスボスがクリア後に使えるファン要素は、大抵は弱体化してるもんですけど……」
浦島先輩はあーねと頷いた。
「ありがちだねぇ。一度盛大にぶっ飛ばしていたから、そういうこともあるかもしれないけど―――」
「けど?」
「テイマーとしての勘は―――それはないって言ってるね」
見た目からいうと、恐ろしいモンスターがぬいぐるみに襲い掛かっている構図だった。
石化の呪いは真正面に突っ込んでいったダークひのたま君にも襲い掛かっていたようだったが、石化するどころか彼は意にも介さない。
「キシャアアアア!」
「……」
そして次の瞬間、なにか揺れたような気がするほど空間が歪むと、威嚇音がきれいさっぱり消えていた。
何かが起こったことは間違いなく、僕らはそっと様子を窺うとなんとメドゥーサが恐怖の表情のまま完全に石化されていた。
「……おう」
「……これはやばいですね」
物陰から出て確認してみたが、間違いない。
目が合った瞬間、同じ呪いで完全に圧倒したのか。
そして石化したメドゥーサに歩み寄ったダークひのたま君が軽く手を触れ、人魂のようなものを石像から引き抜く。
すると石像はサラサラと砂になって消えてしまった。
「……強いなぁ」
「……なんか私達と戦った時より凶悪になってない?」
「……否定はできないですねぇ」
使う魔法のチョイスがより自由で凶悪になってる。
特に呪い系は、今でも相当に得意技みたいである。
まぁそれはいいだろう。
特技が現役なのは、味方となった今ではとても頼もしかった。
だが攻略君としては、この認識は少々まずいみたいだった。
『ちなみに彼が強すぎるだけだからね? こんなに容易いモンスターでも呪いでもないんだ。それこそ凶悪すぎて神様レベルでも匙を投げるほどなんだけどね。まともに戦えば、君でも大変なことになるくらいヤバイモンスターなんだよ?』
なんか言い訳っぽいな。
『いや本当に。君らレベルでようやく対抗できるレベルだ』
えぇ? 本当にぃ?
僕は気分を切り替えつつ、砂になったメドゥーサの周囲を探すと、そこで目的のドロップ品のラウンドシールドを発見した。
『これだよ! お望み通りの最強の盾だ!』
おおー、ラッキー。
攻略君一推しのすさまじく禍々しい力を発する盾は、これで間違いないみたいである。
「よしよし! よくやった!」
僕は喜びのまま、ひとまずモンスターを討伐したダークひのたま君を撫でて褒める。
するとどこか嬉しそうにダークひのたま君は素直に撫でられていた。
されるがままになっているダークひのたま君はギャップの激しい奴だった。
うん。これなら十分やれる。僕は今後も仲良くやっていけそうだと確信した。
ではメインイベントである。
ただ、僕は手に入れたアイテムを改めて見てつい口に出してしまった。
「なんか……ちっさいな」
『え?』
いやね? 今まで使っていた装備が、鉄巨人用のでっかいシールドだったりするわけじゃない?
今更全身をすっぽり覆えない片手の盾に頼りなさを感じただけだ。
だけど考えてみると、このまま使う必要もないか。
強力なアイテムの効果を別のアイテムに移す、そんな試みを試す予定があるんだから、ドロップアイテムで実験できるのなら好都合。
それに実物を見て僕の中でやってみたいことも閃いた。
僕は上機嫌でダークひのたま君の頭をグリグリ撫でてうんと頷く。
「よし。じゃぁ……」
『そうだね』
『帰ろうか?』
「あと8枚いってみようか?」
『「え?」』
今後の予定を伝えると、攻略君と、そしてダークひのたま君さえどこか驚愕している風に驚きの気配が伝わって来た。
「そんなに意外? だってドロップアイテムだよ? 攻略報酬よりも見劣りしそうじゃない? なら数揃えたらいいかなって」
「……っ!」
立ち尽くすダークひのたま君に、しゃがみこんだ浦島先輩は優しく語り掛ける。
「……怖いねぇ。ワタヌキ君はたまにこういうとこあるんだよ」
「……っ!」
それな! っとジェスチャーで浦島先輩に共感を示したダークひのたま君だけど心外である。
『本当にひやひやするなぁ』
攻略君までそういうこという?
いやドロップアイテムなんだから、周回するでしょう?
まぁドロップ率は攻略君の反応を見るに、100%じゃないみたいだからがんばって欲しいところだった。




