第290話新装備の案を出そう
僕らは適当な話をしつつ移動中。
現在向かっているのは城の外だった。
この城の中には様々なゴーレムが走り回っている。
ゴーレム工房では、用途に合わせてゴーレムの形状をある程度自由に製作可能で、どれも僕らの力作揃いだ。
東雲さんは物珍しさと、好奇心でせっせと城の中で活動するゴーレムを忙しく目で追っていた。
「何か色々いますね……」
「そうなんだよ。モンスターには違いないけど、怖がらなくてもいいよ。形に決まりなんてない。用途に合わせて形を変えられるのは楽しいね。そういうの弄るのが好きだからかもだけど」
「ああ、先生。細工好きですもんね。わざわざ家にパイルバンカーを作りに来るくらいですし」
「えへへへへ……まぁそうなんだよ」
改めて指摘されると、照れくさいけどその通りだった。
「しかしパイルバンカー作ってくれって言いに行くっていうのもすごい話でござるなぁ」
「ねー? 我ながら。ちょおっと無茶をしたとは思っている」
普通はどこかで無理が出て頓挫するものなんだろうけど、ある意味夢を叶えたということに違いない。
だってパイルバンカーだよ? それはこの世に存在するだけで価値がある類の代物だと思う。
今回の装備だってそうなってくれると僕が嬉しい。
だが新しく物を作るというのは大変なことで、技術もだが、そもそも材料がない事には話にならない。
しかし僕には、素材の当てだけはしっかり存在する。
開けた場所にやって来た僕はさっそくその当てを披露することにした。
「じゃあ、ちょっと離れて見ててね」
「はい。わかりました……」
ここの本棚は沢山あるが場所を作ろうと思えばすぐにどいてくれるから便利である。
もちろんわざわざ外に出たのは単純に、そうしないと出せないモノを呼び出すためだった。
空間が毎度のことながら派手に歪んで、巨大ピラミッドが姿を現す。
僕らでさえ未だに大迫力だと思える召喚に、東雲さんはヒョエッと縮み上がる。
そして懐刀であるタマは表情を強張らせてはいたが、身を張って彼女を守っていた。
「くっ……これは! ラン! 私から離れないで!」
「う、うん!……絶対離れない♡」
「……」
楽しそうでなにより。
しかし現れたモノから覗きこまれていることに気が付いて、ハッとした東雲さんは超巨大ゴーレムの全貌を目にして、絶叫した。
「ナンッッッッデスカコレェ!!」
ゴゴゴゴゴゴ……。
「すごいでしょ? 全部オリハルコンで出来てるんだよ?」
「ゼンブオリハルコン!? イミガワカランノデスケド!」
「……そうでござるよねぇ」
「まぁまぁ。ひとまずこれでハンマーの材料にはなると思うんだけど。どう?」
「ど、どうと言われましても……」
テンションが一周したのか今度は怯え始め、恐る恐るゴーレムに触る東雲さん。
流石に可哀そうだと感じたのか、桃山君が助け舟を出した。
「ワタヌキ氏。そんないきなり無茶ぶりをするものではないでござるよ。モノには順序があるんでござるから」
「というと?」
「要望を出すのが先でござる」
「ああ……なるほど?」
「ちゃうちゃう、そういう問題やない! 情報過多で呑み込めんて! 城は百歩譲って受け入れられても、これはさすがに……」
「それはそう」
「最初見た時拙者達もちょっと引いたでござるよね」
「……からかってます?」
当たらずとも遠からず。サプライズは大切である。
素で東雲さんからはツッコミを入れられてしまったけれど、どう紹介したところで驚くことになるんだから、少しは盛り上げたいだけだった。
だがそれもいよいよ適応してきた証だろう。東雲さんはあともう一押しと言ったところと見た。
「でも彼、ゴーレムとはいえ見たところお仲間なんでしょ? 使っちゃっていいんですか?」
東雲さんの意見もわかるが、深層を支配していた天災クラスのゴーレムに対してそれは無用の心配だというものだった。
「ああ、大丈夫大丈夫。こいつ金を食べて、自分の身体を再生できるんだよ。錬金術ならぬ錬オリハルコン術? ってかんじで」
「……わかりませんけど。もう驚かないですよ? ……とにかく材料に問題はない。そういう認識でOKってことですね?」
「そういう事。それで何を作るかなんだけど……東雲さんに頼むなら刀にするのが筋ではあると思うんだけど、僕の愛用品はハンマーでね」
物足りないかもしれないけどと一応前置きをしてみると、東雲さんは高速で首を横に振っていた。
「いえいえいえいえ! それは構いませんよ! やっぱ武器は手に馴染んでなんぼです。あ、オリハルコンで思い出しましたけど、私の作る刀、製法が独特になりすぎて、刀の分類から外れちゃって、もはや先生か私が初代になるっぽいんですよ」
「……なにそれ?」
「刀の銘の話です。ほら、村正とかそう言うやつです。せっかくですから私としては先生への敬意を込めて”ワタヌキ”とするのがいいと思うんですが」
「……ワタヌキ? なんか妖刀ワタヌキとか生まれそうじゃないそれ? やめとこうよ?」
「そうですか?」
「うん。夜な夜な血の飢えて彷徨う系の怪異になりそう。……というか、東雲さんの苗字かっこいいし、そのままつけたら?」
「東雲ですか? うーん……今の所家では東雲ブレードって呼んではいるんですけど」
「いいじゃない。そのまま採用しちゃいなよ。なんなら自分の名前で初代名乗ってもいいし」
「いいんですか!?」
「いい、いい。そもそも自分じゃ知っていてもできない類の知識だ。新ウェポンの代金としてちょうどいいかもしれない」
新製法で刀の形を作ることすら、実際東雲さん達じゃないと達成出来なかったことだろう。
だけど東雲さんはそんな言葉に身体を震わせて、涙目で拳を握り締めていた。
「……! 精進します!……ええっと、でも、これだけ材料があると、どうするか迷いますね。夢が広がりすぎです」
「それな」
そうなのよ。そこが一番の問題なんだ。
いざ何でもいいと言われると、迷ってしまうのが人の性というもんだ。
しかしまぁそこはまずメインを押さえてもらえば僕としては問題ない。
「じゃあまずは、ハンマーかな?」
「そうですねぇ……でもちょっと思ったんですが……怒らないで聞いてもらえます?」
「もちろん。聞きましょう?」
「別にハンマーなんて作らなくても。この子呼び出して殴ってもらった方が強くありません? 結局質量=パワーっていうか?」
「!!!」
「ゴ、ゴメンなさい! 身も蓋もないこと言いました!」
「そ、そうでござるよ。こいつは使える場所は限られるでござるし……」
表情を強張らせた僕に東雲さんは青い顔で頭を下げるけど、僕は雷に打たれたような衝撃を受けていた。
そしてそれは怒っているなんてことは一切なくて、僕はむしろとても感動していると言ってよかった。
「いや……確かにそうだ。もったいない」
「ど、どうしたんでござる?」
「……怒りました? 父さんが言ってたの思い出しました。男はロマンを傷つけられると静かにキレるって」
「いやいや何を言っているんだい? そんなロマンの塊みたいな案を出しておいて。そうだよ……わざわざ弱くする必要がどこにあるって話だよね。ここに最強の質量兵器があるならそのまま使えばいいんだよ……天才か?」
だが僕が閃きをぼんやり固めながら口にすると、東雲さんの顔が徐々に強張って、巨大ゴーレムを二度見した後、大慌てで訂正していた。
「い、いえ! 先生! 本当に余計なこと言いました! 広くないと使えないと意味ないとかダンジョンに不向きにもほどがありますよね!」
「……ちなみにゴーレムの改造も、出来ちゃうんだよなぁ」
「あうあうあう……」
今更止めようなんて考えてももう遅いんじゃない?
そもそも組み変え自由だというのにこの形に固定というのも確かに芸がないんだ。
形に決まりなんてない。
用途に合わせて自由にしてもいいのなら、どんな形でもいいはずだ。
僕は改めて、ブロックで構成されたピラミッドゴーレムに、無限の可能性を見た。
こいつはただ任せておくのはもったいないな。
僕も微力ながら全力で協力しなければならないようだった。




