第282話エルフの幻想
深い森の中。
目撃情報頼りにやってきたそこで僕らは報告通りに耳の長い金髪のモンスターを発見した。
後ろ姿から見て取れるスラリと高い背丈はモデルのようだ。
ただ……目が白目で、歯がギザギザである。
お肌は白いけど……なんか白いって言うよりも血の気がない感じ。
そして指が長めで……爪も恐ろしく長いのがビューティーポイントかなって感じである。
まあ、おおよそエルフの特徴を備えてはいる……ちょっと怖いけど。
ただ、ここに集まったいくらかの生徒の心を代弁すると、おそらくこうだった。
なんか……思ってたのと違うな。
これでは小鬼というか……モンスターである。いやモンスターなんだけれども。
「……アレをエルフって言っちゃっていいんですかね?」
様々な感情を込めての雑な一言に有識者は答えた。
「いや……エルフは指輪物語に端を発し、D&Dを経てロードス島戦記で美しく聡明なエルフ像が固まるまで、モンスターじみた姿だったと聞く……まだ特徴が分かるだけ歩み寄ってくれた方ではないだろうか?」
「……じゃぁ、アレがエルフでいいんですね?」
「いいわけあるかい。たとえモンスターでも正統派美形がよかったわ」
「正直な先輩素敵です」
「だろぅ?」
そして後ろの君達? そんなに深く頷いて同意しちゃう?
やっぱりどうもこの生徒会、みんな外国人の有名人さんを前にして全力で守りに入ってたんじゃないかなーという疑惑が信憑性を増してきたな。
だが、エルフの可能性をすべて諦めるにはあまりにも早すぎるだろう。
「ええ。しかしどうにかなります」
僕がおもむろに頷き、指でOKを作ると。
おぉ……と、どよめきが起こった。
とはいってもこれに関してはそんなに難しいことではない。
僕はまずより深く頷いていた面子の中から、適当な人を選んでスマホにCGで描かれた定番のエルフの画像を送る。
「……なんでこんなすぐにエルフの画像が?」
「……こんなこともあろうかと?」
そして、もうひとつ。
こんなこともあろうかと用意していた物を手渡した。
「何ですこれ?」
「とある階層に存在する豆を挽いて作った粉で作った団子だよ」
「……だ、団子」
「これをエルフ? に食べさせてみるといい。そしてお仲間にできそうだな? と思った瞬間、さっき渡した画像を見る事」
「……え? それだけですか?」
「このエルフ団子を作るのがそんなに簡単だとでも?」
「エ、エルフ団子……」
様々なワードのギャップが、彼の理解を拒んでいるようだ。可哀想に。
でもやってみるときっと驚きの結果が待っているからやってみるといい。
では実戦である。
「じゃあ、あっちの方に真っすぐ歩いていって?」
「え? あ、はい」
彼はとても素直な性格らしく、団子と画像を持ったまままっすぐ進む。
秒数にして30秒後、悲鳴が聞こえた。
「え? ええ! うおおおお!」
その後なんか光る。
ドキドキしながら様子を見守っていると、彼はガサガサと茂みを揺らして戻って来た。
「……」
そして彼の後に続いて出てきたのは、あまりにも美しい耳の尖った女性だった。
そこにいるだけで爽やかに風が吹き抜けるような優雅な佇まい。
瞳は凛々しく涼やかな木漏れ日のような輝きである。
さっきまでのアレと別人? うん、別人。見事な変身だった。
全員が息を呑むのも無理はない。
それはまさに―――エルフ。
そしてどこか画像の雰囲気に似ていることを彼と僕だけが知っていた。
誰もが龍宮院先生がやったように、正確に理想を形にできるわけではないが、しかし補助があればより強固にイメージを形にできる証明である。
エルフは精霊の要素を含むモンスターだ。
つまるところテイムの瞬間に強くイメージさえできれば、多少の融通は利く種族なのである。
だが浦島先輩はヘルメットの中から真剣な声色で言った。
「……ふと思ったんだけど、これってテイムできるよって教えただけだと、そのまんま仲間になるのかな?」
「まぁ、高確率で?」
「……それ可哀想じゃない?」
「いえ、説明できれば想像力しだいで……見た目はどうとでも……」
でも僕もふと考えてしまった。
これどうやって説明するんだろう?
テイムの瞬間美形エルフ画像見てみろよ……トブぞ?と、まだ見ぬ誰かに解説している自分の姿を想像して、経緯をすっ飛ばして信じてもらうのはちょおっとハードルが高いかもしれないなぁと、僕は妙な心配をしていた。




