第184話学生やってます
一学期の期末試験が終わるとほっと一息のムードになるのは、ダンジョン探索者の学校であっても基本は同じである。
【お疲れ様でした。それではテストを終了します】
マークシート形式のテストを終えると、ため息とともに解放された空気が教室の中を包んでいた。
「……あぁ~~~終わったぁ」
大きく伸びをして、心からの感想を口にした僕はほんの何秒かの至福の解放感を味わった。
たぶん出来はまずまず。
悪くはないはずだが、後は採点が終わってからのお楽しみだ。
『ふむ。私を使えばもっと楽になるはずだが、感心するね』
攻略君は言うけれど、そいつはちょっと違うだろう。
むしろそれはあんまり意味がなくない?
そう言ってみたが攻略君的には細かな事にも自分を活用して欲しいようだった。
『そうかな? 私も君の能力の一部なんだから別に不正というわけでもないと思うのだけど?』
確かにそういう見方もできるかもしれない。
しかし全て頼りきりでいい点とるのも不安になるというものなんだよ。
『そんなものかな?』
「そんなものだよ……」
よしじゃあ、今日終わりだから、仮免許っていうの申請してみようかな?
そう思い立った僕は自前のタブレットで担任AIを呼び出した。
「担任AI、学外で使用できるダンジョン用仮免許を申請したいんだけど?」
【はい。申請可能です。申請しますか?】
「はい」
【了解しました。必要事項を記入して。申請ボタンを押してください】
指示に従ってスイスイと進めるが、UIがまだ洗練されてないというか、ちょっとわかりにくい。
しかし一先ず問題なく、僕は申請を終えることができた。
「ふぅ。よし……申請と」
【受理しました。有効期限にご注意ください】
「はい。ありがとう」
これでめんどくさい作業は終了である。
まぁこれで旅行も大丈夫だろう。
イベント参加を売る方で体験するのは初めてだが、ちょっと今からドキドキしてきた。
そんな時、教室で何やら自分と同じように端末を弄っている生徒を見つけて僕は目を止めた。
彼は自分と同じような申請画面を見ながら、ずいぶんと悪戦苦闘しているみたいだった。
さっき同じ苦労をしただけに、妙に気になる。
それにその顔にはとても見覚えがあった。
「……アレは確かハバキリ君?」
あまり接点はないけど、そんな名前だったはず。
気になってしまったものは仕方がないので僕はほんのきまぐれで、彼に話しかけてみることにした。
「大丈夫? 何だか苦戦してるみたいだけど」
こういうのはちょっとドキドキするね。
それは向こうも同じようで、声を掛けるとずいぶん驚いた様子で顔を上げてハバキリ君は僕を見ていた。
「あ、ああ。実はデジタル系のこういうのは少し苦手で……」
なんと。ガチ勢は何でも飛びぬけて優秀なイメージがあったんだけど意外である。
でもなんかこういう弱点は親近感湧くなと不謹慎なことを考えちゃった僕はまたまたらしくないことをやってしまった。
「ああ、何か微妙に使いづらいよねこれ。手伝おうか?」
「…………いいのか?」
「もちろん。こういうの結構得意なんだ」
なにせさっきやったばかりだからうまくいく自信もある。
僕はほんの数秒で手続きを終えると、確認画面でハバキリ君に振った。
「はい。できた。どうぞ?」
「もう? すごいな……助かったよ」
ホッとした様子で申請するハバキリ君は改めて見てもあの主人公ズの中にあってすら全く埋もれない、どちらかと言えば線の細い爽やか系のイケメンであった。
あの長いまつげの瞳が見つめたら、さぞかし女子も心惹かれる事だろう。
ひょっとすると誰かのチャンスを奪ってしまったかな? なんて考えていると攻略君は囁いた。
『非常に攻撃的な反応多数だね』
……知りたくなかった。
しかしもうやってしまったものは仕方がないので、知らないふりをしておいた。
「えっとハバキリ君だよね? 外のダンジョンに挑戦を?」
「ああ。夏にな。君もどこかのダンジョンに?」
「うん。ビッグサイトの近くにダンジョンあるでしょ? そこに潜ってみようかなと」
「そうなのか! ……ならひょっとしたら会うこともあるかもな。実は近くに実家があって、ボクもそこに挑もうかと考えていたんだ」
「へーそうなんだ。奇遇だね」
そんな偶然もあるのか。
トップ層に食い込む実力のハバキリ君なら、確かにソロでダンジョンに潜ることもできそうである。
ただそこでハバキリ君は僕の顔をじっと見ていた。
僕は違和感に気がついたがどうしたものか?
何か言ってみようか悩んでいる間に、ハバキリ君の方が先に覚悟を決めて思っても見なかった提案を口にした。
「あの……それなら……連絡先を交換しないか?」
『極めて攻撃的な反応多数』
だから……そういうの知りたくなかった。
「もちろん。いいよ」
極めて攻撃的な反応はおっかないけど仕方がない。
あの一瞬の緊張を感じ取ってしまったのなら拒めるわけもなかった。
僕はこういう誘いがすごく勇気がいることを知っているのである。




