第182話ホラやっぱりもめるじゃない
担当を決める。
それは線引きがはっきり決まる前に、お気に入りの階層を決めて振り分けてしまおうってことらしい。
確かに生徒会を中心として、下の階層への流入が予想される今、好き勝手できるのは今だけかもしれない。
しかし僕には、それをするには大きな懸念があった。
「そ、それは無理に決めなくても別にいいんじゃないかなぁー……って思いますけど? 広いんですし、僕らも先生を含めてもたった5人です。困った時はみんなでどうにかすればいいのでは?」
「そりゃあ困った時はみんなでやるし相談もありだよ。でも今話をしようって言ってるのは困ってない時のことだって。ほら最近みんなテイムモンスターもしっかりそろってきてるよね? いやぁぶっちゃけ生徒会の提案で思いついちゃったんだけどさ。今ならセーフエリアじゃない普通の階層だって改良し放題なわけじゃない? だったら―――自分好みに染めたいなーなんて思うのは普通の事ではないだろうか?」
さも当然のように浦島先輩は言う。
そして事実、浦島先輩はそのために必要な実力を不思議と揃えていた。
「それはわかりますけど……でもじゃあ、一斉に好みのモンスターがいる担当エリア……言ってみます?」
「? いいけど」
今の話を聞いていた面々は頷き、せーので口をそろえた。
「「「サキュバスの階層!」」」
「猿の階層!」
「天使の階層!」
「ほらー……女子、欲望に忠実過ぎない?」
バッチリ欲望を赤裸々に告白した彼女達に、僕はついつい生温かい視線を向けてしまった。
しかし浦島先輩はいやそれは違うと主張した。
「いや! 男子がどう考えてもネコ被りすぎだって! 健全か!?……いや健全でもないな。天使は君の趣味なんだよね? あのちびっ子天使の」
「風評被害ぃ。完全にジョブの都合ですよ。……でもまぁそれじゃあ。僕らは決定でいいんですか?」
「まぁそうだね……」
そして次に引き下がったのは、手を上げた龍宮院先生だった。
「じゃあ私もサキュバスエリアはなしで。龍宮城はもらっていくよ」
「「「「異議なしです」」」」」
「ぐっ……満場一致もなんか悔しいな」
そうは言うけど、あの龍宮城を管理するのは龍宮院先生以外ありえないと僕も思う。
浦島先輩もニコニコで大いに一押ししていた。
「何言ってるんですか、貴女しかいないと思っていましたよ桃乙姫先生!」
「その名で呼ぶのはやめてくれないかなぁ!? だけど……好きにいじってしまって本当にかまわないんだよね?」
名前を嫌がる割に大いに期待を込めて妙にイケメン顔で言う龍宮院先生に、僕はどうぞどうぞと一押しした。
「もちろんですよ。ああでも、あんまり不健全なのは勘弁してくださいよ? そのうち生徒も来るかもしれないですからね?」
「…………まぁ善処するとも」
「…………信じてますからね? 先生?」
「も、もちろんだとも」
僕はこれは今一信用できない奴かなとは思うけど、そこはたぶん自重してくれるはずだった。
そしてテイムモンスターつながりで階層を選んだのは、桃山氏も同じなのは理解できた。
「拙者は今さっきテイムしちゃった猿が沢山いるんでござるよ。だからあそこを修行場にして、猿山と汗を流せる温泉でも作ったら完ぺきではないかと密かに企んでいたんでござる」
「おぅ……もう地形を弄るのも択に入るんだね……オーガもテイムしてなかったっけ?」
浦島先輩が驚きながら指摘すると桃山君はきゅっと唇を引き結んで白状した。
「そっちは悪魔階層近いから、察して候補から外したんでござる……」
「えぇー? あ、カフェにモンスター用の居住スペースは作ってるよ?」
「いやーでもさすがに。あの大猿とオーガでござるからなぁ。カフェ周辺を怪獣映画にしたくはないでござるよ?」
そして案外美観にもこだわっているのは桃山君らしい選択だった。
確かにカフェでケットシーはともかく、オーガや大猿はジャンルが違う。
それどころか周囲のモンスター達に被害も出そうな話だった。
「……確かに。凶悪そうなのはそっちに任せて、カフェ周辺は頭がよさそうな子を集める方が健全かな」
「いいでござるな。任せるでござる」
「階層が深いから危ないと思うけどダイジョブそう?」
「無論。危険なのはむしろ望むところござる。景観も海のエリアなのでいいでござる。海で泳げないのがネックと言えばネックでござるが」
桃山君はリゾートが頭にあるようだが、用途を考えると僕はいい考えだと思えた。
「いや、いいんじゃない? 安全地帯をスキルで構築すれば、後は放し飼いでいいし、あの海は天然の檻になるよ」
そもそも逃がさない性質の海だ。凶暴なモンスターを飼うにはおあつらえ向きの環境だろうと思う。
では問題ない部分は解決したか。
そして一番揉めそうな部分に話し合いが突入すると、レイナさんの瞳がギラリと輝いていた。
「……ではシノ? どうします? 勝負しますか?」
やる気満々のレイナさんだったけど、思いのほかあっさり浦島先輩は引いて肩をすくめた。
「望む所だかかってこい!……と言いたい気もするけど。うん。レイナに譲るよ」
「ホントですか!?」
大勝利じゃんと驚くレイナさんだったが、浦島先輩のもう一つの候補は聞いてみると甲乙つけがたい選択肢だった。
「うん。私はその代わりケットシーのエリアもらっちゃおうかな? 精霊階層めっちゃ好き。正確に言うと精霊と妖精の混成階層なんだよねぇ」
「た、確かに。あれはキュートですね……」
「でしょう? 精霊も重要だしさ。比較的浅いから、早めに抑えておきたいからね」
「オー! シノ大好きです!」
「ハッハッハッ当然だとも」
チュッチュッと熱烈に浦島先輩の頬にキスをするレイナさんは相変わらずコミュニケーションにアメリカンドリームが詰まっていた。
おやぁ? これは思ったよりもスムーズに、階層の振り分けが済んでしまったな。
僕はほっとしつつも、本格的に探索どころか開拓まで始まったダンジョン探索に戦慄を覚えた。
浦島先輩はうむと頷き、よし会議終りと宣言した。
「よぉし! 頑張んないとね! マイホームたーてよっと! それにそろそろ動画担当をワタヌキ君から引き継ぎぐのもいいね! 精霊系充実させてカメラ君のナンバー増やすよ!」
「ワタシはアンデッドワールド開幕です! アンデッドをかき集めて休息が必要ない労働力とすることも可能ですね! ゆくゆくはカメラを持ち込むだけで一本映画が撮れるくらいの階層に仕上げて見せます!」
「私は不便がないようにしようかな? 全階層からドロップするお酒を集めて職員が来ても楽しめる様に……いやダメだな。あんまり招待したくないわぶっちゃけ」
みんなテイムモンスターが増大してできる事が増えているだけに、やりたいことが具体的である。
うんうんよかったよかったと頷いていると、ふと僕は自分のテイムモンスターが頭をよぎった。
今大半を売店の店員として固定している僕は浦島先輩基準に考えると、どうにも物足りない?
いやしかし天使だし。光ってるし。そんなことないかな?
なんて心の予防線を張っていたら、予防線は一瞬で砕かれた。
『まぁ……天使は見栄えはするんだけど……他のメンバーに比べて圧倒的に数が足りてないね。戦いはなんだかんだ数だよ? レベルも並んでしまったし……』
「……っ!」
なんか攻略君の言葉が刺さるんですけど!?
なんでかわからないけどこの会議は、ほんの少しの焦燥感を僕に植え付けて、終了した。




