モブ令嬢の舞台裏8
お読みくださりありがとうございます!
最終話になります。
「なぁなぁ、父上。しがらみなしでオレとノエル、どっちかだけを家に残すとしたらどっちにする?」
ある日の昼下がり、唐突な質問を繰り出す息子にため息を吐いたウィルヘルムは悩むこともなく答えを口にする。
「ノエル」
「だぁー、やっぱ娘のが可愛いよなぁ」
そうだよなぁと言いながらエリクがちょっとだけ選ばれなかったことに拗ねてみせる。
別に娘だから息子より可愛いという理由でウィルヘルムは選んだわけではない。そこにはちゃんとした理由がある。
「違うけど。母様にはその質問はしないように」
「答えが分かってんのにするわけないじゃん。だって母様は平等だし、父上にも」
そう言ってエリクはにっと笑う。ちょっとした仕返しも兼ねているのだ。
子供たちと全く同じ扱いをされて時に不満を持ってる父のことを知っている。
「それより、なんでノエル?」
「エリクは母様に似てるから」
「はぁ?オレは父上に似てるんだろ」
「外見じゃなくて中身」
首を傾げるエリクはあまり理解していないようで、何を言ってるのだと言った顔でウィルヘルムを見ている。
「まだ分かってないのか」
ウィルヘルムもエリクに対して似たような顔をして、そろそろレイたちの準備が終わる頃だとエリクを連れて移動する。
今日は久しぶりに家族だけで出かけるのだ。
☆☆☆
「お父様、お母様。わたし、あの店が見てみたいわ」
ウィルヘルムたちは時間に余裕があるので町を散策していて、ノエルは子供服の店を見つけて指差した。
「この前行っただろ、ノエル。オレは菓子屋がいい」
「お兄様、お願い!お兄様が褒めてくれるからもっと可愛くなりたいの」
コテンと首を傾げてみせるノエルにしょうがねぇなと服屋に行くのを了承するエリクにウィルヘルムもレイも顔を見合わせて静かに笑っていた。
ノエルは外見こそレイに似てわりと平凡なのだが、小悪魔な部分がありまだ詰めは甘いが狙ってやっているあたりそこはウィルヘルムに似たのだろう。
「わ、ちょっと……」
向かいに店があるため向かおうとしてレイが人混みに流された。
「エリク」
「なに?」
「あれが母様だよ」
「冷静に言ってる場合かっ‼︎助けに行かないとってもう見えねぇ!」
淡々と語る父上に突っ込んで、エリクは母の姿を探すがかなり人に流されたようで見当たらない。
ウィルヘルムのそばでは青ざめた顔でノエルがエリクの服の裾を掴んでいた。父に頼る気はないらしい。
「どうしよう、お母様が……」
「だ、大丈夫だ、ノエル。兄様が絶対に見つけてやるからな。――のあっ」
「すぐ見つかるから安心して。フリッツ義兄さんからも対処法は聞いてるし」
子供たちの頭に乗せられた手は、安心させるように優しく頭を撫でる。若干エリクの方には乱暴なのはご愛嬌。
こんな時でもいつも通りな父親には腹は立ったが、不思議と安心させられたのかエリクもノエルももう怯えた表情はしていない。
「じゃ、行こうか」
「分かったって、どこに?」
「ん?目的地に」
レイならそこで見つかるから大丈夫だと、ウィルヘルムはノエルの手を引いて、エリクからは目を離さずに目的地へと向かう。
たどり着いた先で目にしたのは――。
地面に片膝をついた男に手を取られ狼狽えるレイの姿だった。
ノエルをエリクに任せたウィルヘルムはレイのもとへ飛んで行く。
男は立ち上がるといい笑みを浮かべて名刺をウィルヘルムに差し出した。
後から来たエリクとノエルは謎の男そっちのけでレイの方に向かい、ノエルは涙目でレイに抱きついた。
「母様、良かった無事で」
「母様がいて良かったぁ〜」
「心配かけてごめんね。ノエル、エリク」
エリクとノエルの姿を認めた男はウィルヘルムとレイに向かって言った。
「お子様もぜひお連れください。腕によりをかけてを作りますので」
「ええ。その時はよろしくお願いします」
「心からの感謝を!」
レイの代わりにとウィルヘルムとガッチリ握手を交わした男は大量の荷物を持って急ぎ走り去っていく。
「この短い間になにがあったの?」
「えっと、人混みから外れたと思ったら転んでね」
「大丈夫なわけ?」
先ほどの男の説明やレイからの情報をまとめたウィルヘルムはエリクたちにも分かるように説明をする。
先ほどの男も荷物をいくつか落としたらしい。そこに人混みから外れてレイが転び、そのレイを避けて人が通るために男の荷物も無事だったらしい。
「それだけのことであそこまで感謝するもの?」
「今日はビックゲストが来るんだって。はい、もらった名刺」
「ふーん。レストラン、ボンボヤージ」
エリクが手に持つ名刺を横から見たノエルが呟く。
「もしかして、最近噂になってる予約の取れないレストラン?」
「そうみたいだね」
そこは予約をしても数年待ちという人気のレストランで、貴族がどれだけお金を積んでも早く入ることは出来ないという店だ。
「今度行くんでしょ?」
「決めてはないけど、行きたい?」
「うん。だって、美味しいって評判なんでしょ」
行くのが楽しみだとはしゃぐノエルとエリクはハイタッチをしていて、ウィルヘルムは苦笑する。
まだ行くとは行っていないのだが、エリクは相手の気を収めるためにもおそらく行くはずと分かっている。
用事も済ませた帰り道、先を歩くノエルとレイから距離が開いてウィルヘルムがエリクに言った。
「エリク、あれがお前たちの母様だよ」
「事故って無事に着地するのが?」
「言い方は悪いけどそんな感じ」
「なるほどね。家のこともあるけど父上と母様が結婚できたのはそれが理由か」
なんとなく聞いていた馴れ初めの話に、なぜかエリクには今の話が妙にしっくりきた。
事故の部分がローレンスの密会、着地点はきっと父上との結婚だったのだろうと。
ウィルヘルムはたぶんそうだと思うと言って、レイたちに追いつくために歩調を早める直前にエリクに言葉を残す。
「あ、でも気をつけた方がいいよ。エリクは自分で着地点作らないとレイほど恵まれてはないから」
「ちょ、ちょっとまて!もっと早く教えろよっ!」
いつか絶対にそのポーカーフェイス崩してやるなんて思いながら、エリクはウィルヘルムたちを慌てて追いかけるのだった。
エリクの振り回される感じはレイに似てますね。レイと違って性格的に苦労人みたくなってますけど。
拙い物語を最後までお読み頂きありがとうございました。
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