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28 モブ令嬢、歩み寄る

お読みくださりありがとうございます!


本編はこれで終わりになりますが、9時ごろにあと1話だけ投稿します。

 ――あと二週間もすれば卒業式が控えている休日。


 フィール様とローレンス様が自由のきく今のうちにと、仲の良い人たちを集めての早い卒業パーティーと称したお茶会を開催して下さるらしく、声がかかったので今日はゆっくりは出来ない。

 やっぱり上にいる人たちは忙しいのね。


 ウィルヘルム様が迎えにきてくださるのは良いんだけど、今日はいつもと比べてかなり時間が早い。


 伝えられた時に不思議に思って聞いてみたんだけど、ウィルヘルム様はまともに答えくれなかったんだよね。

 上手に聞き出す術もないから、その時になってみないと理由なんて分からないけど。


 走り出した馬車はお城に向かう道と違っていて、戸惑う私にウィルヘルム様は2人きりで話したいことがあると静かに言います。


 ズキリとする胸の痛みに気がつかないふりをして、私は分かりましたとだけ返してあとはずっとお互いに無言だった。


 辿り着いたのはウィルヘルム様とまともに話をしたあの古い家で、私はあの時と同じようにウィルヘルム様に手を引かれて中に進む。

 安心してしまうはずのその手の温もりが今はどうしようもなく怖い。


 耳を塞ぎたくなる衝動を堪えてウィルヘルム様の言葉を待てば、ウィルヘルム様は警戒しなくてもいいと言います。


「身構えなくていいよ。これからの話は確かだけど」

「そう、ですよね」


 お茶が運ばれてきて、ウィルヘルム様がまずはと口を開きます。


「レイに思い人がいるなら手を貸す約束、いたら教えて欲しい」

「……いない、です」


 首を横に振って私は否定をします。

 それに今更……気がついた気持ちを外に出すことなんて出来るわけもないんだから。


「そっか。それでまだ卒業後も予定決まってないはずだよね」

「はい」


 だって、ウィルヘルム様の婚約者って肩書きがあってセルジオ様が言ってたようにどうにも動かなかったし。

 好きな人がどうこうよりこっちの方が大変なんだよね。


「ちょっとついてきれくれる?」


 言われるがままウィルヘルム様の後ろを追いかけて、1つの扉の前でウィルヘルム様が立ち止まります。


「開けて?」

「え、あ、はい」


 そっとドアノブに手をかけて扉の開くと――。


 そこには純白(まっしろ)なドレスとヴェールが、部屋の中央に飾られていました。

 赤い絨毯によく映える、素敵なドレスが。


 えぇと、これは、どういうこと?


 私の様子がおかしかったのかウィルヘルム様は声を出して笑って、それから急に真面目な顔をします。

 いつもと違う眼差しは真剣さが伝わってきて、自然と私の背筋はピンと伸びます。


「レイに受け取って欲しい」

「えっと……」

「もし、相手を自由に選べるのなら俺はレイを選びたい」


 真っ白なドレス=純白のドレスなわけで、そのドレスは結婚式に新婦が着る穢れなきドレスのはずで……。


 えっと、ウィルヘルム様が私を?

 理解しきるにはちょっと戸惑い気味の私に、ウィルヘルム様は小さく笑ってまだ受け止めてもらえないかと続きの言葉を口にします。


「幸いなことに、レイはローが墓場まで隠しておきたい秘密を知ってるんだよね」

「あ……」


 ウィルヘルム様の言葉を、想いを理解した瞬間、私の体は急速に熱を持って熱くなる。

 きっと顔だけじゃなく耳まで真っ赤になってる気がする。


 涼しい顔してるウィルヘルム様が羨ましいし、恨めしい。こんな時でもあんまり変わらないんだもん。


「理解してくれたみたいだから、もう一度言うよ。レイに受け取ってもらえると嬉しい」


 嬉しさとか受け入れるべきじゃないとか、そんなことで混乱してグルグルと回る頭の中で、ふとこないだのフリッツ兄さんの言葉が浮かんできた。


『たまには本心ぶつけたっていいんだからな。婚約者なんだろ、小言を言う権利がある』


 なんでいま思い出すかなぁ。

 冗談みたいに言ってたけど、たぶんあれはフリッツ兄さん知ってて言ってたんだ。

 いつもそうだから。予言者みたいに肝心なことは言わないくせにヒントだけは置いていく。言ってくれたらいいのに。


 でも、良かった。思い出せて。


 それなら私の精一杯で――。


「ほんの少しでも、好きだって言ってもらえるなら……謹んでお受け致します。ウィル……様」

「ありがとう、レイ」


 震える手はいつの間にかウィルヘルム様に握られて、その温もりと笑顔に不安は消え去っていて、ただ私は目に涙が浮かんでいたと思う。


 それから平常心を取り戻すためのように時間まではここでゆっくりとして、フィール様たちのところに向かいます。


 他愛ない話をするいつも通りの和やかお茶会で、すっかり飲み慣れてきたお茶とお菓子を遠慮しながら頬張って、それに気がついたセルジオ様は小言を言いかけやめて今日だけですからねと呆れた顔をします。


 バレット様は私とウィルヘルム様の様子に気がついたみたいだけど何かまでは分かっていないようすだった、でも良いことがあったなら良かったと豪快に笑います。


 中身まで推測されているフィール様はまるで自分のことのように喜んでくさだって、ちょっとだけ不機嫌なウィルヘルム様にクスクスと笑いながらからかっています。


 原因を作ったあるいはキューピッドというべきローレンス様にもう二度とあんなことはしないようにと願いながら私は心の中でお礼を言いました。


 初めて自分のトラブル体質に感謝をしながら、精一杯ウィルヘルム様に歩み寄れるように頑張ろうと思いました。


 まずはウィル……様ってしっかり呼べるようにしないと。

レイのトラブル体質については、本人は被害後に幸運がくること気づいてないんですよね。

しっかりと分かってるのは母とフリッツです。


9時ごろに投稿する舞台裏で最終話になります。最後までお付き合いいただければ幸いです。

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