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26 モブ令嬢、困惑する

お読みくださりありがとうございます!

「アスクル嬢、内密な話がある。場所は……」


 急にそんなことを言われるとこっちだって驚きますが、従わないわけにも行きません。


 だって言ってきたのはローレンス様なんですから。


 なんで、人気のないところを指定するのよ。

 あの密会ってことなのかな?


 でも私が呼ばれる理由なんてないし、用があるならウィルヘルム様を通して伝えられるはずだと思うんだけど……。


 とにかく呼ばれたからには行かないと。


 指定された時間に遅れないようにしつつ、周囲に十分な警戒をして指定された場所に向かえば、すでにローレンス様はいらっしゃった。


 急がないと、いや、息切らしてやってくるとか令嬢としてどうなの。

 待たせる方が良くないと結論付けて、走ればローレンス様の5メートルほど手前で転びました。


「大丈夫かい?来てくれてありがとう」


 手を差し伸べられて、それの手を借りて立ち上がります。

 もう、なんなの。ローレンス様の前に行くと転ぶ呪いでもかかってるの。


「すみません、ありがとうございます。ウィルヘルム様にも言えないことなんですか?」


 謝罪とお礼を伝えてから、疑問をローレンス様にぶつけます。


 私が直接呼ばれるってことはたぶん、ウィルヘルム様を間に入れたくないってことになるんだよね?

 うーん、そうされる心当たりはないような、あーでも、ウィルヘルム様から私に対しての苦情を聞かされたとかかなぁ。


「そうだね。アスクル嬢にしか頼めない」

「私にしか……」


 そんなものあるはずもないと思いながらローレンス様の言葉を待ちます。


「フィールの欲しいものをそれとなく聞き出して欲しい。それと君といるときのフィールの様子を聞かせて欲しい」

「……………」


 真面目な顔して何言い出すの?

 前半はまぁいいと思うけど、フィール様の誕生日って確か一ヶ月後くらいだから時間のかかるものを贈ろうとしたらそうなるだろうし。

 後半は、どう扱えばいいのか。ちょっと手に負えない。


「誕生日のプレゼントを贈ろうと思っていてね。おそらく婚約者としては今年が最後になるからフィールに特別喜んでもらいたいと思っていてね」

「そういうことでしたか」

「そこでフィールと友達のアスクル嬢に頼みたい」


 確かにフィール様にやたらと声をかけられたりしますけど。

 フィール様との距離ってどのくらいなんでしょう。友達というと恐れ多いというか、言い切るにはまだ少し壁がある気が。主に私の方に。


 フィール様との関係性はひとまず置くとして、そういうの苦手分野なんだよねぇ。

 すぐに顔にでるって評判だからね。けっこうバレるんだよ、私は。

 かと言ってやらないわけにもいかないわけで、保険はかけておくとしましょう。


「出来、るとは言えないですけど、出来るだけやってみます」

「よろしく頼む。分かったらウィルに伝えてくれたらいい」

「分かりました。ウィルヘルム様にですね」


 ここで話は終われるかなぁって思ったけど、ローレンス様は私といるときのフィール様のご様子を聞きたいようでまだ帰れるわけじゃなさそうだ。


 うーん、フィール様の様子ね。

 一緒にお茶を飲んだりはするけど、この前のローレンス様たちとのお茶会のときとほとんど変わりません、って伝えても満足しないよね。


 違いがあったとすれば……。


「ローレンス様の話をよくされます」

「例えば?」

「そうですね。一緒に劇場へ行ったとか、帽子を選んで頂いたとか――」


 とにかくもう、お腹いっぱいになるって表現より胃もたれになるっていう方が正しいくらいに。

 思い出して伝えてる今も軽く胃もたれになりかけてる気がする。


「お、いたいた」

「ウィルヘルム様」

「セルジオに聞いたから探しに来た」


 そう言いながらやって来たウィルヘルム様は、ローレンス様に軽く注意をすると約束があると私を連れ出します。


 話の途中なのにいいのかなと思いながらも、ウィルヘルム様についていきます。

 優先しなければならないのはローレンス様の方だと思うけど、ウィルヘルム様といた方がいいと思うし。あともうフィール様の話も疲れからこの場から逃げたい。


「あ、ありが――」

「馬車に乗ってから。万が一もある」


 馬車に乗り込むまで私は口を噤んで、余計なことを言わないように歩きます。


「フィール様に関してだけはああだから、知ってたら止めたんだけど」

「あの、もしかして……」


 私が見たのはそういう。

 今みたいにフィール様のことを聞き回っていたローレンス様だった?浮気とかではなく?


「そうだね。フィール様に知られないようにするのはいいけど、あれじゃ知られたときにどうなるか」


 呆れたような口調で言うウィルヘルム様は学校の方に視線を向けて笑います。

 きっとローレンス様とフィール様のことを思い浮かべているのでしょう。


「あ、そうだ。ウィルヘルム様、フィール様の欲しいものを探って欲しいと言われたんですけど、私に出来ますかね?」


 自信ないし、それに話題の振り方がわかんないから。急に振ったらおかしいのとバレちゃいけないなら苦手分野だから。


「……話題の振り方さえ間違えなきゃ大丈夫だとは思う」


 あれ、目を逸らされた?

 妙な間も含めてやっぱり無理だって思われてるんだ。


 ローレンス様も無茶振りがすぎるよ。

 でも、探れとは言われたけど知られちゃダメとは言われてないから、うん、まあきっと大丈夫だよね。


「それに関しては――ああ、もう着いたんだ」


 家の前で止まった馬車から降りて、ウィルヘルム様がさっきの続きを口にします。


「俺も手伝うから心配しなくていい」

「ありがとうございます。それは心強いです」

「お、レイも今帰りか?」


 どこかへ出かけていたらしいフリッツ兄さんも帰って来たみたいで、私を送ってくれたことをウィルヘルム様に感謝して私の隣に立ちます。


「お茶でもいかがです?」

「お気持ちは嬉しいのですが、最近忙しいもので仕事が溜まっていて」

「え、それなら――」


 私を送らずに帰れば良かったのに、そんなことを言おうとしてフリッツ兄さんに遮られられます。


「恥かかす気か、レイ。それでもプライベートな時間を用意出来るとは噂に違わぬ有能な方のようで」

「彼女との時間を作りたいので。できれば猫の手も借りたいくらいですが」

「そーでしたか」


 相変わらず真顔で嘘つけるウィルヘルム様もすごいけど猫の手も借りたいなんてどうしたんだろう。フリッツ兄さんも、いや、兄さんはいつもこんな感じだった。


 あまりウィルヘルム様を引き止めるわけにも行かないので、送ってもらったお礼を伝えてからウィルヘルム様の馬車が出発するのを見送ることします。


「また明日学校で、()()

「……へ?」


 今、レイって言った……気がする。


「この前、お前がやらかしたことへの帳尻合わせとか?」

「なっ、んで」


 リードさんか。

 それしか考えられない。もしかしてリードさんの家に遊びに行った帰りなのかな。


「あったりー。お前はウィル様って呼んでやれよ。歩み寄りは大事だぞ〜」

「心読まないでよっ!それに……」

「おい、レイ⁉︎」


 ピースサインしてからかい半分のフリッツ兄さんを置いて私は家の中に入って玄関を閉めた。


 だって、ウィルヘルム様は歩み寄りすぎちゃダメな人。

 名前で呼ばれたことは嬉しいけど、これ以上近づいちゃダメ。私がいるべき場所じゃないんだから……。


最近ちょっと開き直りを覚えたレイ。


ウィルとフリッツは仲が悪い感じではないものの、どこか不穏な空気があったり。いわゆる同族嫌悪に近いです。

今回の2人の会話についてはかなりオブラートに包んでって感じだと思ってもらえたら。

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