20 モブ令嬢、お茶会に参加する
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テストも無事に終了、ウィルヘルム様との町中お菓子屋巡りもなんとか終わって、平穏が戻ってきた。
そんな矢先――。
「ごめん、アスクル嬢。来週の休み、予定を空けといてくれる?」
「久しぶりにゆっくりするつもりなんですけど、なにかあるんですか?」
ウィルヘルム様の言葉に、つい本音が出てしまいましたがそれについてはおそらくウィルヘルム様も分かっているでしょう。
「いつものメンバーと集まるんだけど、フィール様がアスクル嬢もってさ」
「あー、それは……行かなきゃですよね」
「ほら、前に時間を作るからってフィール様に伝えたと思うけど。それでいつになったらって痺れを切らしたみたいで」
フィール様が助けてくださったあの日か。
確かにウィルヘルム様がフィール様にそう言ったし、フィール様にまた誘ってもいいかって言われてもちろんですって答えたけども……。
なんていうか、社交辞令的なものだと思ってたんだけど。
だって、私みたいな記憶にすら残す必要もない下級貴族の娘なんて、ウィルヘルム様の婚約者でもわざわざ会おうなんて思わないと思うじゃん。
むしろ、庶民がって思われてると思うし。
「それで……」
「なんですか?」
言いかけてやめたウィルヘルム様は口元を押さえて小刻みに震え始める。
もしかして、いや、もしかしなくても笑ってるの?
「美味しいお菓子とお茶を用意して待っていますってフィール様から伝言。レイさんに絶対に伝えて下さいねってさ、何度も念を押された」
「わ、笑いすぎです‼︎」
堪えきれなくなったのか声を出して笑い始めたウィルヘルム様に対して、私は恥ずかしさに耐えながらも咄嗟に言葉を口にする。
これ以上笑われてたまるか。
「ごめん。あの時のこと思い出したらつい」
「食い意地がはってると思われてそうですが、初めて食べる美味しいものが新鮮でそうなってるだけです」
そう、そうなんだ。
同じものでも種類が違えば味も違って、そうなるとまた違う美味しさだし、ウィルヘルム様との婚約が解消されればもう食べることのない味だもん。
それに残すのはもったないとか思っちゃうし。
「そう?」
「そうです」
と、そんなやりとりがあってお茶会当日。
やっぱり緊張しますね。
けど、ウィルヘルム様も一緒ですし、あまり緊張しないバレット様もいるのでまぁ少しは楽なのかなと思いつつ参加です。
「レイさん、来てくれてありがとう。またお話しできるのを楽しみにしてたのよ」
会場に着いたらすぐさまフィール様に手を取られ歓迎されて嬉しいけど、フィール様が素敵すぎて目が焼けそうだよ。
あと、フィール様に名前で呼ばれてるし。もう何がなんだか。
「こ、こち、らこそ、お招きいただき、ありがとうごひゃいます」
緊張やらなにやらで盛大に噛んで、皆さんの反応をチラッと伺って見ると、ローレンス様は平然としていてセルジオ様は見定めてるような視線を、フィール様は私をかばってくださってます。
「笑うものではないわ、バレット。それに……」
バレット様は大きな声で大笑いしていて、ウィルヘルム様はといえば、目を合わせず小刻みに震えています。バレット様のように笑ってくれていいんですよ?
なんていうのかな、バレット様を除いて皆さん立ち振る舞いが綺麗でお上品だし、私は場違いだよね。
食器もきっと高いんだろうな〜とか思うとカップを持つ手が震えだした。
バレット様はすごいなー。
ガサツな動作でも周りを気にすることなく、こんなに堂々とされてて羨ましいし見習いたいなぁ。
小心者には難しいけどね。
「レイさんはどれがお好きかしら?」
「え、えぇと……」
「フィール様、アスクル嬢には見慣れないものが多いようなので、フィール様のおすすめがよろしいかと」
助け舟ありがとうございます、ウィルヘルム様。
でも、さっき笑っていたことは許せませんけどね。別の問題です、口には出さないけど。
そう言ってウィルヘルム様はフィール様が伝えるお菓子をお皿に数個置くと、フィール様と私の前にそれぞれ置きました。
「どうぞ、お嬢様方」
「ありがとう、ウィル」
「あ、ありがとうございます」
これって私が動くべきだった?
まぁ、勝手が分からないしウィルヘルム様に任せておきましょう。
とりあえず、美味しいお茶とお菓子を頂きます!
フィール様たちほど上品には出来ないし、バレット様ほど豪快でないはずと信じて自分の出来る限り丁寧に食べなきゃね。
そんな考えも一口ケーキを食べて吹き飛んでたんだけど。だって緊張も忘れるくらい美味しいんだもん。
それから、ローレンス様たちの雑談に耳を傾け、時に相槌をうちながら時間が過ぎていき、この集まりもお開きになる。
送ってくださるというウィルヘルム様の馬車の中で疲れ切っていた私は気がつけば眠っていたらしく、目を覚ましたのは家が近くになった時だった。
「今日は朝から疲れたでしょ。大した失敗もしなかったわけだしさ」
「あ、ありがとうございます」
ウィルヘルム様の前でとんだ失態をと焦って謝ろうとすれば、その前にウィルヘルム様に遮られてしまいました。
その上で、今日は大した失敗をしなかったことを評価されました。
余計とも思う評価ですけど、素直に受け取りましょう。事実ですし。
盛大に噛んだことさえ除けば大きな失敗はしてないはず……。
自宅前、馬車から降りた私にウィルヘルム様が小さな小包を渡してきます。
「今日の余り、包んでもらった。家族にも食べさせたいって言ってたから」
「あ、ありがとうございます……」
そんなこと言ったっけ?
まぁいつも美味しいものを食べたりするとそう思うけど、どこかで言ってたんだろうなぁ。
「今日、家族みんなで頂きます」
「……明日には持ち越さないんだ」
「はい。今日の方が美味しいはずですから」
私らしいとウィルヘルム様はクスクスと、笑って、また明日と手を振って馬車に乗り込みました。
このあと1人反省会をするも、家族(使用人も含む)と食べるお菓子でしばらく忘れるレイ。




