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REPORT:テラリウム・ワールド ―虫けら異世界道蟲―  作者: Hexapoda
憧れの君へ、七つ星に願う
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戻せるもの、戻せないもの


 うーん、良いの無いかしら。

 短剣は折れた、というか折られたし、新しいの買っておかないと。


 店に並べてあるものを手にとっては、眺めてから戻す。斧に剣に、その他いろいろ。

 色物もあるぜ? 例えばハサミ型の双剣とか。運用があまりにもアレなので、使ってる人は限られてるけど。


 買うつもりはないけど、こういったものを見るのも楽しい。なんというか、こういう時はファンタジーしてる気分になる。

 ただし、ファンタジーも十数年過ごせばただの現実だけどね。



「短剣も新しいの買っておきたいんだけど、なんかおすすめとかある?」

「……そこら辺にあるのを好きに買えば良いだろう?」



 投げやりだなぁ。大人に拗ねられてもかわいくないぞ。

 無言の抗議を感じ取ったのか、グリオは渋々と口を開いた。



 「……それとかどうだ? イレート・ソードブレイカー。とある鞘翅種の爪を母材とし、素材の形状を活かし鋭く研ぎなおしたものだ」

「うん、対人戦用じゃなくてもっと蠱獣相手に意味のある武器が欲しいかな」



 絶対に意味が無いとはとは言わないけど、使いどころが限られる気がする。てかパッとは思いつかない。



「なら、これはどうだ。クレセントアックス。とある鞘翅種の小顎肢の先端にある三日月状の刃を研ぎ、再利用したものだ」

「とりあえず僕に扱える重さと大きさのものをお願いします。てか短剣って言ったよね?」



 なぜそんな辺鄙なものばかり薦めてくるのだ。

 てか、おすすめというか自分が作ってみた面白い武器を薦めてない?



「……注文の多い客だな。切れ味が良いのであれば、その辺りだ。幼虫の皮は斬りやすいはずだ」

「拗ねないでよ。あ、あと鉤爪ロープもお願い」

「……うちは武器屋なんだがな」



 ぼやきながらなんだかんだ用意してくれるグリオ。


 ちなみに鉤爪ロープは、まんま鞘翅種の爪の部分にそのままロープを繋げたものだ。

 種類によっても引っかかり方とか色々違いがある。同じコガネムシ系でも引っかかりやすい形してるやつもあれば、左右不均一な形状してるものもあったり。

 まあ、どっちも一長一短あるから、どちらがより優れてるとかではないんだけどね。

 樹の上に登るにあたってはとても重宝している道具である。翅がある人にとっては意味の薄いものなんだろうけれど。



 短剣はここら辺か。色々あるな。むーん。

 適当にいくつか持ってみて、扱いやすそうなものを選ぶ。そこまでこだわる訳ではないので、フィーリングで決めよう。

 お、この辺りとかちょっと男の子の心をくすぐる形を……、た、高い!

 無駄に曲がりくねったこのフォルムとか、中々に厨二な感じがして良い気がしたんだけれど、いや冷静になって考えてみると実用的かコレ?


 若干後ろ髪を引かれる気分で、それらのかっこいい短剣を元の場所に戻し、結局、前回と似たような拵えの短剣を一本購入することにした。

 シンプルイズベスト。余計な装飾の無い硬派なカッコよさが真の美しさなんだよ……。





蟲  蟲  蟲





 受け取ったばかりの報酬金からジャラジャラと銀貨やら亜銀貨を取り出して嫌がらせのようにカウンターへとばらまいていく。

 けれど、寧ろ金にまみれて嬉しそうな様子のグリオ。金に触れて心もち調子を取り戻したようだ。


 そして支払いに収入の半分以上が飛んでいってしまった。ああ、世の中結局は金か……。

 逆に考えれば、ギンカコガネの素材が拾えてなかったら、もっと残らなかったわけだよなぁ。


 ケチればその分いざという時に心もとない装備で戦うことになる。

 かと言ってやたらと金をぎ込んでも、蠱獣と戦ってればすぐに壊れてしまうし、消耗が激しい。

 ならばと買い替えてばかりいると、今度はすぐに資金が底を尽きる。それ以前に生活すらも立ち行かなくなる危険すらある。

 死んでしまえば、貯め込んでいた金もパーになるが、死なないために有り金を全部使うのは実にナンセンス。


 その匙加減が、実に難しいのだ。



「たまには違うものなど使ったりしないのか? 例えば、ハルバートとかどうだ。長物は得意だろう?

 ひと月ほど前にステファンにも作ってやったが、いい感じのが出来た。今ならもっと良いのが出来ると思うが」



 会計をしながら、店主がそんなことを提案してきた。



「買ってもいいけど、まけてくれる?」

「さっきの武器を全部買うなら安くしてやろう」

「それ逆に支払う金額増えてるよね……」

「それは見解の相違と言うやつだな」

「いや、増えてるから」



 元々、そこまで本気で言ったわけでもないのだろう。

 軽口の応酬をしながら、グリオはお釣り分の銅貨をカウンターに並べた。

 それにしても久々に懐かしい名前を聞いたな。



「ステファンか。最近見てないな。いや、僕が最近蟲籠に行ってないだけなんだろうけど」

「こちらでも確かに見ては居ないな。まあどうせ、また色街にでも入り浸ってるのではないか。そのうち顔を見せるだろう、奴ならば」

「そうね。殺しても死にそうにないわな」



 ここにいない四本脚のベテラン彷徨者の姿を脳裏に思い浮かべてそんな会話をする。

 派手なことが好きで、稼いだ金をパーっと使っている奴なら、不思議はないな。

 そんな振る舞いとは逆に、彷徨者としての活動は堅実かつ注意深く、手堅い勝利を好むあたり、人は見かけによらないというか。まあ、どっかで見かけたら武器だけ見せてもらおうかな。覚えてたらだけど。



「大事に使えよ。この俺が丹精込めて作り上げた武器だからな」

「大事に使っても限度があるでしょうに」

「ふん、大事に使い潰せと言っているんだ」

「無茶言うなぁ」



 清算を済ませて、軽くなった財布と、反面増えた荷物を早速体に身に付けるイオに、グリオはそう言った。

 そして葉巻を取り出して口に咥えたあと、机に肘をつく。



「武器がダメになったら、また来い。それくらいならいくらでも直してやろう。金は貰うがな」

「じゃ、せいぜい直してもらえるように金を稼ぎますかね」



 武器は壊れても直せる。買い替えることもできる。けれど人は死んでしまったらそれまでだ。

 今まで、何人も何人も、そうして送り出して、帰らぬ彷徨者たちを何人見たのだろうか。



『また、生きて戻ってこい』



 扉の発音機構が音を軋ませる

 不器用な男の、そんな言葉に隠れた思いを感じながら、イオの姿は扉の外へと消え去った。




小ネタ

 コメツキムシ科のクシコメツキの仲間は脚部の爪が櫛歯状になっています。だから「クシ」コメツキなんだとか聞いたことがあります。こいつに限らず、櫛状の爪を持ってる虫はぼちぼちいますが。

 あれ、ちょっと加工すれば絶対ソードブレイカーとして使えると思うんですよね。ファンタジー世界なら。


 ちなみに三日月状のイメージはオオキバハネカクシ(確かそうだったはず)の小顎肢先端です。ググって出てくるかはわかりませんが。

 この世界の奴らだと多分ガチで武器みたいに鋭くなってるかもしれません。

 他にも斧型の小顎肢とか(確かキマワリとかテントウムシの小顎肢ね)。



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