キャロル
私の名前はキャロル。一応元男爵令嬢です。
6人兄弟の末っ子で、私を生んで1年を待たずに母は亡くなったそうです。
それからは乳母を雇えるお金も無いし、母の実家も平民で余裕が無いので頼れず、父の姉と妹もあんな女の子供なんて知らないわと言って手伝ってはくれなかったそうです。
仕方が無いので兄姉達が力を合わせて見よう見まねで育ててくれました。
今日は一番上の兄の話をしたいと思います。
長兄は他の兄弟とは距離があったようですが、私にはとても優しい兄でした。時々こっそり領民に貰ったオヤツなんかをくれたりしたし、少ないご飯を成長期のお前がたくさん食べろとくれたりしました。
うちの兄弟は魔力が強いんですが、長兄だけは魔力が無いと他の兄弟は思っています。ですが、私は知っています……長兄の魔力はおそらく呪いです!
父に酷く当たり散らされたある日、長兄の部屋の前で聞いてしまったんです……
「あのくそ親父、禿げろ!禿げてしまえ!」
と叫んでいたんです……翌日、魔力を使い果たしたのか長兄は起き上がれないほどぐったりしていましたが、同時に父の頭頂部も昨日まであった髪の毛が無くなっていたんです!
それからも何かある度に同じことが繰り返されて、父は40歳にしてすっかり……
他にも一番上の姉に、3人の妻が不審死をしたと言う隣国の貴族から結婚の打診が来た時は
『そんな所に嫁にやれるわけ無いだろう!あぁ、だがうちのような貧乏弱小男爵家じゃ断れん!くそっ!捕まれ!捕まってしまえ!』
と叫んでから3日間兄が寝込んでいる間に、証拠が出てきたとかでその貴族は捕まりました。
DV男には刺されろと、ロリコン親父には腐れ落ちてしまえ!と……全てが本当になりましたが、その度に兄が寝込む日数が長くなり、ただでさえ細い兄がガリガリになってしまいました。
姉のヘレンが強力な癒しを使えたので、何とか生きているんじゃないかと思えるくらいヤバい状況でした……
そんなある日、また別の家からヘレンへの打診が来ましたが、本妻ではなく愛人の、それも何番目かわからないくらいのハーレム男でした。
ですが、この事が長兄に知られてしまったら今度こそ死んでしまいます!
他の兄弟は長兄は体が弱いけど嫡男だし、自分達が助け合って生きているのに何もしてくれない冷たい男だと思っています。
それにはっきりした証拠も無いので、呪いの話を信じてくれるとも思えません……
そう悩んでいたら、タイミングよくイザベラ様から人員募集の手紙が届いたので、これ幸いとみんなで逃げることにしました。
でも私は知っていたんです……長兄が寝込んでいるときにお世話をしていたら、うわ言のように『あいつ等を誰かここから連れ出してくれ。どこか遠い土地で幸せに生きてくれ。』と何度も呟いていたことを……
今は兄弟はみんな幸せです。兄の力は呪いではなく言霊だったのかもしれません。
公爵家で働くようになって、1度だけ男爵家へ行ってみました。父は相変わらず健在のようですが、私達が居なくなったことで気を病み、長兄に男爵家を譲り引退したそうです。
男爵家は長兄になってからイザベラ様がお祝いに色々苗を送ってくれたことで実り豊かになり、ふっくら健康的な人が増えていました。
見るだけにしようかと思って柵の外から様子を見ると、健康的になった兄と兄の幼馴染みのパン屋の女性と子供達が一緒でした。
思いきって声をかけると、とても喜んで家へ招いてくれました。私達が居なくなったことで長兄は安心し、2人はめでたく結婚したのだとか。
実りも豊かになり、私達5人が居なくなったことで生活に余裕も少しは出来たようで、今では健康的な食事が出来ているようです。
子供達もふっくらして可愛かったです。
お兄ちゃんのおかげで、みんなそれぞれ幸せになったよと近況報告をすると、涙を流して喜んでくれました。
長兄に言霊のことを聞くと、ばつが悪そうに教えてくれました。最初に気付いたのは、散々母をいじめて母が死んでなお何も手伝おうとしないおば達に『お前達こそ不幸になれ!』と心底叫んだら、本当にそれぞれ家庭で色々おこって不幸になった時だそうです。
そう言えば伯母さんは階段から落ちて足が悪くなったし、叔母さんは旦那さんに愛人が発覚して、そちらが妊娠したとかで女の子しか生まなかったから追い出されそうだとかなんだかでごちゃごちゃしてたな~。結局どうなったんだろう?
え?それぞれ肩身が狭い思いをしながらも婚家でひっそり暮らしている?そうですか。まぁ家があるしいいんじゃないですか?
父はボケちゃったみたいで引きこもっているけど、一緒に住んでいるようです。とりあえず会ったけど、清潔な空間でぼーっと庭を眺めているだけで、何の反応も無いので声をかけずに何となくクリーンをかけて部屋を出ました。
奥さんが大変だと思うんで、とりあえず家中にクリーンをかけると喜んでくれました。
介護もあるし、隅々まで出来てなかったんでと言っていました。
それから一月後、父が亡くなったと連絡が来ました。私が帰ってから、何故か父は母が生きていた頃の穏やかな父に戻り、あの時渡した私達兄妹の写真をいつ嬉しそうに眺めていたそうです……
葬儀は手紙が届いた頃には終わっていたので間に合いませんでしたが、他の兄姉達と共にお墓参りに行きました。
長兄との再会に他の兄姉も喜んでいました。子供達にはお土産に積木と絵本を、兄には三輪車を、奥さんには冷凍箱をそれぞれ渡し、また時々お墓参りに帰ることを約束しました。
私達の幸せを願ってくれた長兄も幸せになり、また兄姉が1つになれてよかったです。
私には言霊の魔力はありませんが、これからも長兄が幸せであります様に……まぁ、あの奥さんと一緒なら心配しなくても大丈夫そうですけどね。ふふふ




