第55話 ……ネジを噛むの……?
―荒野―
「イリア。悪いけど、これ持ってもらえる?」
「はいはい」
取り外したパーツをイリアに渡すエリーネ。
「…そうだ。設計通りなら、ここに取り付けるんだが…」
「この場合は圧が溜まっちゃうから、取付位置を変えるって話よね」
「ああ。その場合、どこに付ければ良いと思う?」
「…」
考えるエリーネ。
「…ここかしら?」
「…どうしてだ?」
「ここなら、他の部品と干渉しないから」
「…上出来だ」
「これの設計図は何度も見たから当然よ」
「そこまで分かってるなら、あとはこのまま最後までやってみな」
「!!」
「任せて!」
意気揚々と作業を進めるエリーネ。
「待たせて悪いな。もうちょっとで終わるぜ」
「ありがとうございます。立ち往生してて困ってたんです」
「こんな何もねえところで不安だったろ」
「はい…あなた方が来てくれて本当に助かりました」
「まるで神様のような方々で…」
「金取るけどな」
「こんなところで立ち往生することに比べたら安いもんです」
「そう言ってくれると助かるぜ」
「あ」
「どうした?エリーネ」
「……」
「…ごめんなさい…」
「ネジ…斜めに噛ませたみたい…」
「…」
「…」
「貸してみろ」
「…ごめんなさい」
「なんだ、最後のフタか。これならいくらでもリカバリーできる」
何とかネジを締めることが出来た。
-ガラクタ丸 リビング-
ずーん
「…」
「エリーネ…元気出して…」
「せっかく任せてくれたのに…あんな初歩的な…」
「くくく…油断大敵ってやつだな」
ジュースを二人に渡すベルゼ。
「ありがとう」
「…ありがと」
「ネジを噛ませちまうのは意外と経験者でもあることだ」
「気落ちするな」
「…」
「ねぇ、ベルゼ」
「んぁ?どした?」
「”ネジを噛ませる”って何?」
「……まさか……ネジを噛むの……?」
イリアが勝手に引いてる。
「するか!!」
「しないわよ!!」
「……ネジを斜めに噛ませるってのは、斜めに入った状態でネジ山同士がうまくかみ合わねえ状態の事だ」
「そのまま回すとネジ山がけずれちまうんだよ」
「……ななめ??山を…削る??」
「まぁ、これは実物見せた方が早いな」
「ちょっと待ってろ」
ベルゼは工房から部品を持ってきた。
「ほれ」
ネジ、ドライバー、ネジ穴付きの不良部品。
「イリア。お前ならこれをどう入れる?」
「そんなの…こうでしょ?」
部品にネジを入れてドライバーを回す。
ネジがしっかり固定される。
「そのとおり。お前、穴に対して、まっすぐ入るように入れたよな?」
「??当たり前でしょ?そうしないと入らないもん」
「実は、入れる時斜めにしても入るんだよ」
「え!?」
ベルゼが実践する。
「ホントだ!!え!?これって大丈夫なの!?」
「全然ヤべえな」
「あ、ヤバいんだ」
「ああ。この状態で回して入れてみ?」
手渡されたドライバーで回す。
「…あれ?固い…けっこう力入れないとダメみたい…」
「だろ?じゃあ、今度は抜いてみ?」
「??」
ドライバーを反対方向へ回し、外す。
「!?ギザギザが削れてる!?」
「これがネジを斜めに噛ませたっていう状態だ」
「ほうほう!…あれ?」
「どした?」
「でも、エリーネ、気付かずに回しちゃったんでしょ?」
「アタシ、けっこう力入れて回したよ?」
「…言わないで欲しいわ…」
「ああ!ごめん!でも、気になっちゃって…」
「いや、エリーネが気付かねえのも無理はねえんだ」
「え?」
「今回、エリーネがやっちまったネジのサイズはこれだ」
カラン
テーブルに置いたのは小さなネジ。
「あれ?結構小さいんだね」
「小せえネジだと、締めてる時の手応えも小せえからな。意外とこれはベテランでもやっちまうミスなんだよ」
「そうなんだ」
「ああ。俺もたまに油断してるとやっちまう時がある」
「そん時はこいつと同じくらい凹むな」
エリーネを見るベルゼ。
「…あんたでもやる時があるの?」
エリーネがベルゼに問う。
「年に1回あるかどうかだけどな」
「…」
「ま、気にすんな。お前はまだ現場駆け出しだ」
「さっきの質問も答えは完璧だったし、あとは手先だけだ」
「…」
「それによ」
「??」
「俺に追いつくなんざ100年早いぜ」
「…」
「調子に乗ってんじゃないわよ!」
「あんた何てさっさと追い抜いてやるわ!」
「おーおー怖い怖い」
くくくと笑うベルゼ。
「ま、期待してるぜ」
「…ふん!!」
わずかにエリーネの口角が上がる。
「…本人が気付いてないのが、不幸中の幸いよね…」
(エリーネ……自分の気持ちに気づかないで……)
(相手は……あのベルゼだよ……!)
謎にハラハラするイリアだった。




