第49話 ここまで計算したっていうの?
-王立蒸気車製作所 蒸気機関製作所-
「そんな…なんで魔族が王国側に…!?」
イリアは驚いていた。
「魔法を使わなけりゃ、人間と見分けはつかねえ」
「王国側に付いている魔族なんて俺以外にもいるんだよ」
「その方が暮らしやすいんでな」
「…そんな…」
「…暮らしやすいねえ」
ベルゼが目を細める。
「なんだ?」
「魔族も技術屋のプライドも売って」
「そんなんでも満足か?」
呆れた様子のベルゼ。
「てめえ…もう許さねえぞ」
中年男が電気を纏い始める。
「イリア」
「お前はエリーネを守ることに集中しろ」
ベルゼが前に出て、構える。
「ベルゼ!」
「大丈夫だ」
「こいつがここにいる間は騎士は来ない」
「え…!?」
「こいつだって、魔族ってバレたら終わりだ」
「騎士に指示を出してるに違えねえ」
「…チッ」
中年男が舌打ちをする。
「ベルゼ!!」
「…気を付けて!」
ベルゼが親指を上に向ける。
「おらぁ!!」
中年男が電撃を放つ。
稲妻がベルゼに襲いかかる!
「おっと」
躱す。
さて、どうするか。
近づいても離れても電気あり。
「わりかし不利だな」
今回はワイヤーも不用意に使えねえ。
電気が流れちまう。
…電気…か…
ま、なんとかなるだろ。
ここ、なんせ工場だし。
「おら!!」
「!!?」
ベルゼは工場内の工具を投げた。
「これなら電気も関係ねえだろ!」
「小賢しい!!」
ドンドン投げる。
「ついでにこれもくれてやるよ」
ブシュウウウウウウウ!!!
激しく蒸気を吹き出すブレイクギアで作業台をつかむ。
五本の指が、金属製の天板へ深く食い込んでいく。
ブシュウウウウウウウ!!!
さらに激しい蒸気音が鳴り響く。
「おらあ!!!」
「!?」
金属製の作業台をぶん投げる。
「ちぃ!!」
躱す。
ガシャアアアアア!!
作業台は柱にぶつかり、鈍い音を立てる。
「あれを躱すか」
ベルゼが背後に回る。
「!?」
「これでお終いだ!!」
思いっきり殴ろうとした瞬間。
「がっ!!」
ベルゼに電気が流れる。
そのまま倒れてしまう。
「危ねえ危ねえ」
「あの投擲すら、囮だったとはな」
「ぐっ!」
ベルゼの体が小刻みに動くが、立ち上がれない。
「惜しかったな」
「ま、運が無かったと思って諦めるんだな」
ベルゼに強烈な電気を流そうとする。
バチバチ…!
「電気が弱え…!?ど、どういうことだ!?」
「!?」
自分の腰にワイヤーのフックが引っかかっていることに気付く。
そして、そのワイヤーの先にはさっき投げた作業台があった。
「まさか……!」
「俺の電気を、ワイヤーから作業台へ逃がしてやがるのか!?」
電気はワイヤーを伝い、作業台へ向かっていた。
「マジかよこいつ…これが目的かよ」
「だが、痺れて動けねえなら、意味ねえだろ」
中年男はフックに手を伸ばす。
「残念だったなぁ…」
その時、
ブシュウウウウウウウウウウ!!!
作業台にめり込んだブレイクギアが、激しく蒸気を噴き上げる。
ブォオオン!!!
「!!?」
ワイヤーが高速で巻き取られる。
鉄製の作業台に向かって、中年男が猛スピードで引き寄せられる。
ドゴンッ!
「がはっ!!!」
鉄製の作業台に衝突。
そのまま気絶する。
「おおお、痛てて…」
起き上がるベルゼ。
「ベルゼ!!」
イリアとエリーネが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「おう。何か肩こり取れた気がするわ」
「…そんなマッサージ屋行った後みたいな…」
イリアが呆れる。
「…あんた…」
「んぁ?」
エリーネに声を掛けられる。
「…ここまで計算したっていうの?」
「おう」
「後ろに回ってぶん殴って終了!が一番良かったんだけどな」
「保険かけといて良かったぜ」
「まぁ、フックを引っかける前に電気喰らった時は、流石に焦ったけどな」
「ぶっ倒れる直前で引っかけられてよかったよかった」
「…」
エリーネが唖然としている。
「…どうやってワイヤーを巻き戻したの?」
「ああ、あいつ(ブレイクギア)にはな」
「時間差で起動する仕組みがあるんだよ」
「じ、時間差で…?」
「ああ。経験上、そういうのがあると何かと便利でな」
「あいつにも付けたって訳だ」
「…」
「…?どした?」
「いや…」
「保険って言っても、もし殴って終わってたなら」
「あいつ、気絶したまま、作業台にぶつかってない?」
「ああ」
「ああ!?」
「まぁ、死にゃ死ねえだろ。多分」
「…」
「エリーネ」
「な、なに?」
イリアが呆れたようにベルゼを見る。
「こいつ、色々とバケモンだから」
「あんま気にしないほうが良いよ?」
「お前…最近辛辣じゃね?」
少し傷ついているベルゼ。
「気のせい気のせい!さっさと出よっ!」
「まぁ、いっか」
3人は、王立蒸気車製作所を後にした。
エリーネは一度だけ振り返り、
そして前を向いた。




