第1話 ここで働かないか?
バキイイイイイイイッ!!!
巨大な剣を砕く。
…いつも通り。
…壊せばいい。
「……」
熱と衝撃で、右袖が焼け焦げ、崩れ落ちた。
…初っ端出力をぶち上げ過ぎたか。
…まぁ、いい。
ブシュウウウウウウウウ!!
右腕の機械から蒸気が噴き出す。
――昨日、あいつを拾った。
――全部始まったのは、
――それからだ。
――昨日 荒野―
ブロロロロロ……ッ!!
シュウウウウウウ…!!
荒野を切り裂くように、蒸気機関の唸りが響く。
煙を吐きながら走るのは、移動式蒸気機関工房B-GT型。
運転席で頬杖をつき、ベルゼは前を睨んでいた。
「……誰もいないな」
本来なら、機械が壊れて立ち往生している奴の一人や二人はいる道だ。
だが今日は、影すら見えない。
「今日の食い扶持、どうすっかなぁ……」
頭をかきながらぼやく。
その時だった。
「……あ?」
荒野の先に、何かが倒れている。
速度を落とし、近づく。
――少女だった。
しゃがみ込み、様子を見る。
血は出ていない。呼吸もある。
だが――こんな場所で倒れている理由が分からない。
「おいおい……流石にこれは予想してねえって……」
しばらく見下ろしていたが、目を覚ます気配はない。
「……放ってはおけないか」
「死なれても目覚め悪いし」
小さく息をつき、少女を担ぎ上げる。
そのままB-GTの中へと運び込んだ。
――暴君ガラクタ丸。
こいつのことは、そう呼んでいる。
ベッドに寝かせると、少女の喉がかすかに鳴った。
「さて、どうすっかなぁー」
ガバッ!!
少女が勢いよく上体を起こした。
「あ、起きた」
間の抜けた声が出る。
「触るな!!騎士が!!」
ガラクタ丸のベッドで、少女が跳ね起きた。
次の瞬間、いきなり拳が飛んでくる。
「おっと」
身を引いてかわす。
「待て!!」
少女が時計を掴む。
光が走る。
――形が崩れた。
次の瞬間、刃へと変わる。
「マジか」
飛んできたそれを、レンチで弾く。
「これでどうだ!?」
少女が床に手を置く。
次の瞬間――
床がうねる。
槍のように突き上がる。
頬を、かすめた。
「……っ」
「あ!!俺のガラクタ丸が!!?」
歪んだ床が目に入る。
「てめえ!よくも俺のガラクタ丸を!!」
「さっきから余裕かましてんじゃないわよ!!」
あいつは箒を手に取る。
みるみるうちに槍に変わる。
「はぁ!!」
突いてきた。
「いい加減にしてくれっての」
レンチで攻撃を防ぐ。
キィン、と甲高い音。
「…そこか!」
ガキイン!!
槍を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた槍を見て、動きが止まる。
「やっと大人しくなったか……」
「くっ……!」
睨みつけたまま、動かない。
(物の形を変える……か)
「…な、なによ…!」
「殺すなら…さっさと殺しなさいよ!!」
「…」
顎に手を当てて考える。
「…便利だな」
小さく聞こえないようつぶやく。
「…?」
まだ睨んでるな…
「…うん。そうだな…」
…その方が、俺も楽だ。
「?」
何の顔だそれは。
「お前、名前は?」
「お、教えるわけないでしょ!!」
キレて答えるな、キレて。
「ええ…」
…まぁいっか。
肩をすくめる。
そして――
「なあ」
「な、なによ!?」
「ここで働かないか?」
「……はぁ!?」
-数十分後 ガラクタ丸 リビング-
あいつは腕を組んだまま、黙り込んでいる。
「……あのさ」
「んぁ?」
「……さっきは、その……」
「ああ、別に気にしてねえよ」
「いや、でも……」
「とりあえず、今日から働けるか?」
「え?」
「あー作業着はまだないからなぁ……次の街まで我慢してくれ」
「ちょっと待ってよ!」
「んぁ?」
「何でもう働くことになってんのよ!?」
「え?違うん?」
「違う!謝りたいだけ!!謝ったら出ていくから!!」
「でも、お前魔族だろ?」
「!?」
「いや、さっき魔法使ったじゃねえか」
少女の体が強張る。
「安心しろ」
「別に取って食いやしねえよ」
「……え?なんで……?」
「俺に何の得があるん?」
「……」
「それに行く当てとかあるん?」
「…それは…」
「というか……」
「??」
「せめて俺の時計と箒代分くらいは働いてくれ……」
「……」
「あと、床も直してくれ…」
俺のガラクタ丸…
少女の目が泳ぐ。
「……ごめんなさい」
「…じゃあ、働け」
「…はい」
とりあえず、働く事になった。
-さらに数時間後-
荒野を走っていると、立ち往生している蒸気車を見つけた。
故障らしい。
今は修理中だ。
「これじゃだめだな」
「え?」
「最悪、ボン!だ」
「ボン!!?」
「中が狭すぎる。これだと圧がここで溜まっちまう」
「ちょ!!こんな細かいところ、ちょっとくらい良いでしょ!」
「何言ってんだ。機械はそういう細かい所までやらないと動かなくなるんよ」
「とりあえずここ、もう少し広くしてくれ」
「お前さんたち、何をコソコソ話しとるんじゃ?」
じいさんが首を傾げた。
「ああ。新人が部品間違えて持ってきたみたいでな。ほら行った行った」
「なんでアタシが……」
ぶつくさ言いながら、少女は物陰に引っ込んだ。
少女は部品に魔力を込める。
部品がするりと形を変えていく。
「お前さんたち、どういう関係じゃ?」
「従業員と雇い主」
「なんじゃ、カップルじゃないのか…」
「違うわよ!!」
少女が物陰から出てきた。
「はい!これでどう!?」
「…上出来だ。これで良くなるぞ」
ベルゼは最後の部品を装填し、蒸気機関の始動を始めた。
ポッポッポオオオ!
勢いよく吹く。
古びた蒸気車が、軽快に煙を吐き出す。
「助かったぞい!いきなり止まっちまったもんじゃから、どうしたもんかと思っとったんじゃ」
「ここから街は遠いからな。ま、これからは俺みたいなハイエナに気を付けておくんだな」
「お前さんみたいなハイエナなら大歓迎じゃ!ほれ、代金じゃ!」
「まいど。気を付けてな」
爺さんは治った蒸気車に乗って颯爽と帰っていった。
「ふぅ・・・これで二人分の食いぶちは何とかなったぞ」
「…」
「いやぁ、やっぱ便利だな。その魔法」
「アタシを便利屋扱いするな!」
「でも、なんだかんだ働いてるじゃん」
「だって・・・お爺さん困ってそうだったから・・・」
「ははは。その調子で頑張りたまえ」
「調子に乗るな!」
「ま、ひとまず壊した分だけは働いてくれ」
「その間の食うもん寝るところは用意してやる」
「そのあとは好きにすりゃいい」
「…分かったわよ…」
(こいつ…実は素直だな)
「とりあえず、今日のうちに街には行かねえと」
「街に?何かあるの?」
「いや、もう食いもんがねえんだよ」
「・・・え」
ベルゼは運転席にドカッと座る。
「とりあえず、二人分の食いぶちはゲットできたから、今から全速力で街に向かうぞ」
「え…ちょっと!」
「行くぞ!!暴君ガラクタ丸!!」
一瞬、空気が固まる。
「…ダサっ!!」
ゴォオオオオオ!!
ガラクタ丸は荒野を全速力で駆け抜けていった。




