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友情

 一ヶ月後


 三枝が福寿の事務所へ、監査後の報告を伝えに訪れた。


 是正計画を提出し、車両停止処分は免れたこと。また、ドライバーの休息時間も少しずつ確保され始めているとの事だった。


「実は、経営者が変わったんです」


「え!?」


 三枝の報告に、福寿と正木が顔を見合わせて驚いた。


「以前の経営者は、それまでバス事業とは全く関係がありませんでした」


 新型感染症による行動制限解除後の、インバウンド増加を見込んで「希望観光バス」を買収したものの、運行関連の法令を全く理解していなかった。


 そして今回の監査後、逃げるように事業から撤退した。


「で、今はどうなったの?」


 福寿が三枝に尋ねる。


「地方の路線バス事業者が親会社になりました。路線バス運転士の減少もあるので、そちらを補完しながら運行することになったんです。これまでの様な無理なツアー事業は、極力手を引こうという方針です」


 三枝は、カラーリングを変えた「希望観光バス」の写真を見せた。これまでの刺々しいカラーリングから、白と水色の爽やかなツートンカラーに変わっていた。


「それから、修理費の件なんですが。こちらも会社負担で済みそうです…無事故記録は消えてしまいましたが…でもお陰様で、父も以前よりずっと健全に過ごせています」


「親会社が変わるだけで、そんなに変わるものなんですね」


 正木が腕を組み、感心した様子を見せた。


「そうね。法令遵守の知識があって、体制がしっかりした会社が入ったことは朗報よ」


 福寿は、三枝が持参した是正計画書のコピーに目を通した。


「運転士さん達の休息時間も、少しずつ意識されるようになったみたいね」 


「『改善基準告示』ですね、先生」


 正木が言うと、福寿は優しく微笑みながら続けた。


「路線バスの本数減少という課題はまだ残っているけれど、何より安全運行が第一よね」


 三枝が微笑んで頷く


「希望観光バスさんも、この機会に体制を整えていける様願っているわ。私もバスにお世話になっている一人として、きちんと法令を守る事業者さん達が、損をしない社会であってほしいの」


 正木が頷き、三枝も少し目を潤ませながら小さく微笑んだ。


 三枝が手土産に持参した茶菓子を置いて、事務所を後にした。


「それにしても正木君、三枝さんをしっかり応援していたわね」


「実は、僕が前の会社で体調を崩した時、上司に早退を進言してくれたのが、愛ちゃんだったんです」


「そうだったのね!」


「その後、先生が僕を病院へ搬送してくださいましたよね」


「もちろん、覚えてるわ」


「早退なんて、とても言える環境ではない会社だったのに…だから、今度は僕の番というか…」


 正木が少し照れたような表情を浮かべた。


「素晴らしい恩返しになったわね」


 福寿が微笑んだ。 


「でもね正木君、これはまだ本当に小さな一歩。まだまだ社会が目を向けなければいけないことが沢山あるのも事実なのよ」


「そうですね」


「三枝さんの勇気に応えようとした、正木君の意気、素晴らしかったわ。その気持ちを忘れないでいきましょうね」





この話は、厚生労働省ホームページより[自動車運転者]の[改善基準告示]の頁を参考にしています。


[参照]

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html

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