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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
87/87

File10 地球滅亡の日♯9

「ほい、御書家特製太陽プレート」

 御書でんきに帰ってきた俺達を待っていたのは、ビーフシチューのいい香りだった。真ん中にご飯をよそって、その周りにビーフシチューがかけられている。太陽プレートと称するだけあって、ご飯の上に乗っけられている薄焼き卵は太陽の色に着色され、惑星を型どったチーズが散りばめられている。だがこれだけでは無かった。副菜のサラダはファミレスでよく見るような、レタスに温泉卵と粉チーズを振りかけたものだし、ミネストローネは家庭料理の域を超えている。あ、人参も星型だ。

「デザートもあるからな」

 なんとおまけにデザートまで用意してくれているらしい。

「遠慮せずいっぱい食えよ。このくらいの年代は一日3食でも足りんからな」

 この場合、遠慮するべきなのか、逆にがっつくべきなのか。誰か同級生の家にご馳走になった時のマナーを教えて欲しい。

「こんな豪華なご馳走ありがとうございます!いただきます!」

 そういうと荒崎はビーフシチューを口に運んだ。

「うんまぁ!お父さん美味しいです!」

「いただきます」

 俺も荒崎に続いて卵とシチューをすくって一口いただく。

「…………うまっ!!」

 本当に美味しい。人の目が無かったら、ものの数秒で食い尽くしていたと思う。ミネストローネも凄い。正直セロリは嫌いなのだが、魔法でもかけてあるのかセロリも美味しい。

「ここって西洋料理店だっけ?」

「街の電気屋だよ。父さん昔、料理教室に通ってたんだ。そこら辺の下手な西洋料理屋より美味いぞ」

 最早下手な西洋料理店の店主が弟子入りしてくるのではないか。そのくらい高いクオリティだ。

「指を怪我してまで通ったかいがあったよ。それで、どうだった?」

「計画通りばっちりだぜ!」

「弐号も記録は?」

「一部始終記憶している。後でデータを送る」

「よろしくな」

「あの、思ったんですが、書記長」

 ビーフシチューに夢中になっていた荒崎が手を止める。

「なにかね」

 書記長と呼ばれたことでスイッチが入ったのか、御書父は博士モードに入る。

「何故WEUはこの研究を発表しないんですか?感情をエネルギーに変えるなんて物凄い発見です。それこそ人類の科学を100年進めるような。さっきのトムローイ作戦だって」

「俺だって説得しているんだぞ。でもボスは発表はしないと言って聞かんのだ」

「なにかあったんですか?」

「うちのボスは昔、エリア51の優秀な博士だったんだが、手柄を横取りされてな。ブチ切れたボスはエリア51の地上を去り、エリア51の地下10,000mに基地を建設した。これがWEUの始まりだ」

 人間関係のもつれの結果、分裂という流れは、世界万国共通なのだろうか。

「だから、友達は大事にしろよ。いくら妬んでいても、一線を超えてはいけない。結果、自分の家の地下で危険な実験をされる可能性があるからな」

「前なんかあのおっさん、軍の食事に薬混ぜて実験してたし。確か飲んだ薬によって自分の意に反して喜怒哀楽の感情が現れる薬だったかな」

 人には優しくしようと思う。荒崎は真剣に耳を傾けている。

「食事中にする話じゃなかったな。おかわりは?」

「「ください」」

 少し早い七夕を模したデザートのシャーベットももらって、時刻は午後8時。空はどっぷり暗くなっている。江利に内緒でこんな贅沢許されるのだろうか。

「送っていきたいところなんだが、今日中に太陽フレアの報告をボスにしなくてはならなくってな。悪いが、ダブル叶都が付いていくからそれで我慢してくれ」

「光栄に思えよ!」

 そう言っていた御書(オリジナル)は荒崎と科学談義に花を咲かせて反対方向に行ってしまった。必然と弐号に送られることになる。

 道中一言も発しない弐号に耐えられなくなって俺は口を開く。

「御書のやつ、来週から学校来るのか?」

「しばらく俺が通う。来る2025年に向けてまだ準備があると言っていた。たまに顔を出すようになるかもしれないが」

 会話が終わってしまった。俺は思い切って気になっていたことを聞いた。

「なぁ、なんで今回俺が選ばれたんだ?」

「他にも世界各地に適合者はいた。ただ日本支部を担当している我々しか手が空いていなかったため、手短な適合者である鬼塚翔瑠が指名された」

「手短だったら俺以外にもいたんだろ」

「そう。桃原恭子を初めとする、異常現象対策研究室の半分くらいは適合していた。ただ水沢江利との接触を避けたい我々は、口が固そうなお前を選んだ」

「どうして江利はダメだったんだ?俺や桃原より妖力はあるぞ」

 弐号は暫し沈黙した後、口をようやく開いた。

「部長の存在は長い生物の歴史でも想定外の存在。最悪太陽を破壊する恐れがある」

「は?」

「彼女は一度……、いや、今はまだ知る時ではない」

「そこまで言ったんなら言うべきだろ。気になるじゃないか」

「何れ分かる。MI6、もう一つの研究室、そして怪異共存推進協会。お前達には解決しなくてはならないものが多い。潰れそうな時は頼ってほしいと、創造主と叶都が言っていた」

「そうか。……ありがとう」

 一瞬こちらを案じるような気配がしたが、すぐに無表情に戻った。

「着いた」

 本当はもっと問い詰めてやろうと思ったのに。するとちょうど家の扉がガチャリと開いた。

「やっぱり帰ってきてた。おかえり!」

 江利が元気な声で出迎えた。

「随分遅かったね」

「色々あってな。にご……、御書に送ってもらったんだ。ほら、」

 振り返ったが、そこには誰もいなかった。

「あれ?御書は?」

「誰かいたの?」

「いや、その」

 すると江利はじーっと俺を見つめる。

「え、何?」

「翔瑠君何かに巻き込まれた?」

「……なんで?」

 動揺はちゃんと顔に出なかっただろうか。

「だって朝MP、えーと妖力ポイント的なのが249くらいだったのに、今13しか残ってないよ。1日でこんなに無くなることなんて滅多にないんだけどなぁ」

「そういうの分かるの?!」

「普通じゃない?翔瑠君もあたしの見えてるでしょ?」

 世界屈指の科学力を持ってしても分析できなかった負のエネルギーの構成物質の一部をこうも解明してしまうとは。やはり江利には誰も適わないようであった。

「いや、全然見えないんだけど」

「うっそだぁ」

 江利は半信半疑のような目付きをしている。

「その妖力ポイントは修行すれば999になったりするの?」

「どうなんだろうね。あの500年存在した三代目でさえも800そこらだったからそこまではいないんじゃないかな。翔瑠君も初めはMP153だったのに100ポイント近くアップしたし」

「レベルアップしたってこと?スキル画面みたいなのが見えてるの?」

「なんだろう、数字が頭に思い浮かぶ感じに近いかな。この人こんくらいかなって」

「じゃあ異能保持者かどうかがひと目でわかるんだ。」

「そういうわけでもないんだよね。高くても何の変哲もなさそうなのもいるし、低いのに妖術師やってたりするし。姐さんなんて59で雨は77とかだし。基準があるんだろうね」

 江利の好きな奇数や同じ数字ばかりなのを聞くと、直感に近いものなのだろう。弐号には教えてやらない、弐号も教えてくれなかったし。

「そんなことより、凄いものが撮れたんだよ!」

 江利は俺の腕をぐいぐい引っ張ってリビングに連れていく。リビングには人間の姿のままのミケが、何枚かの写真を机に置いてまじまじ見比べている。

「やっぱり宇宙人はあの一枚にしか写ってないわね。」

「宇宙人?」

「宇宙人が撮れたの!世紀の大発見だってタオのパパ上が言っていたわ!」

 そう言って江利は台所に飾ってある一枚の写真を指さす。既に写真立てに入れて飾っている。

 そこには、薄らと人影のようなものが映っていた。

「ね!下にロケットのエンジンみたいに炎が吹き上がっているでしょう。だからこの宇宙人の星は、宇宙船なんかなくても個人が自由に何億光年離れた星に移動できるスーパー文明なんじゃないかって。」

 俺はじーっと写真の中の宇宙人と思われる被写体を見つめる。宙に浮いている宇宙人。そして宇宙人の周りに点々とオレンジ色の光が輝いている。地球にはない科学力を用いて浮いているのだろうか。しかし、この強烈なデジャブはなんだろう。

「あっ!!」

 このシルエット、間違いなく弐号である。弐号が宇宙に飛び立つ瞬間、偶然にもカメラが捉えていたらしい。一瞬の出来事だったのに。

「どうしたの?何か分かった?!」

「あ、いや」

 しまった。俺は視線を彷徨わせ、言い訳を考える。何時ぞやの鎌鼬事件の時の江利もこんな感じだったな。

「う、宇宙人じゃなくて、スカイフィッシュじゃないかなぁ」

ー御書叶都2025ー

「セッティング完了!これでいつでも行動に移せる。弐号!そっちはどうだ?」

「チャージ完了まで、あと5、4、3、2、1。こちらも完了。」

「おし!モデル水沢初号機!戦闘態勢に入れ」

「とうに出来ている。あんた達が遅い」

「相変わらず仕事が早いな。いいかお前らよく聞け。今日は久しぶりの日本の一大事だ。作家さんには悪いがこのまま黙って災難に見舞われるわけにはいかない。俺達たった3人で日本を護るんだ。これは極秘任務であり、誰にも感謝されない、名誉もない。作者がちょびっと炎上するだけ。だが失敗は日本の崩壊を意味する。それでも、お前達は、この危機に立ち向かうか?」

「素材は違えど俺も日本在来種だ。故郷を護るのは当然のこと」

「隣に同じ」

「おし!チーム文芸部、作戦開始だ!!」


続く!

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