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一世紀後にさようなら ~女の子が多いハーレム状態のパーティーに入って、魔法と剣とモンスターの世界を生き抜く~  作者: 大福の森
第二十章・魔法学校『牙』二年目、晩夏・秋(『白黒の虹』編)
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第870話・【三人称視点】この街で生きている

 野木の子孫にあたる夫婦の店の2階は居住スペースとなっており、そこに野木も神栖(かみす)拳誠(たかのぶ)も部屋を借りていて、休日に店の手伝いを頼まれている時や『牙』の長期休暇中はその部屋で各々過ごしている。

 

 2階には二人の部屋以外に夫婦の部屋、書斎、LDK、トイレや風呂、在庫置き場にしている広い部屋、さらにもう一部屋8帖ほどの物置がある。

 野木が夫婦に頼み、その物置部屋を空けてもらい、しばらくそこを神栖の妹・美玖(みく)の部屋にしてもらえた(神栖も兄として最低限のお願いをした)。


 広い店舗の上にある居住スペースだから、「場所だけはあるんだ」と夫婦は快く了承してくれた。

 もちろん美玖も大げさなぐらいお礼を言い、手が空いている時はお店の手伝いをすると約束した。




 そして翌日、美玖は大きめのトランクを一つ持って、また店へ……これからしばらく寝泊まりする部屋へとやって来た。

 神栖がトランクを持ってあげ、2階の美玖の部屋まで運んであげた。


 一方、野木は、美玖たちのためにレモネードを運んできてくれた。ちゃっかり自分の分もあり、野木はそのまま床に腰を下ろす。


 美玖は、おばさんが用意してくれたふかふかの布団が置かれたベッドに腰を下ろし、壁に寄り掛かっていた神栖も野木に(うなが)されて少し(ほこり)の被ったスツールに腰を下ろす。


 それからレモネードを飲みつつ、ほとんど美玖と野木だけで、ここ数年の話をし合った。

 長男の神栖と長女の美玖、そして他の弟や妹がそれぞれの里親にもらわれて行ったのは10年ほど前だが、神栖と弟や妹たちはその後も時折顔を合わせていた(兄妹5人全員揃うことは珍しかったが)。

 

 そして、神栖と美玖に関しても、野木が『こっちの世界』に連れて来られ神栖の護衛を受ける様になってから二度ほど会っていた。そして同じように、3人は過去の話をした(神栖がしゃべることはやはり少なかったが)。


 最後に会ったのは1年前ぐらいで、だから今回はそこまで積もり積もった話があるというわけではなかった。ただ野木が、そして美玖も、誰かと話がしたかっただけなのだ。

 

 レモネードも飲み終わり、手持ち無沙汰になった感のある神栖は、二人の会話が途切れたところで、ようやく口を開いた。

「最近、他の三人には会ったのか?」


「ああ、うん。千紗ちゃんと征児(せいじ)君とは今年一回、(けん)ちゃんとは去年会ったよ。みんな元気そうだった」

 美玖は微笑みながら答えた。

 征児は18歳の神栖家次男、千紗は15歳の次女、剣ちゃんとは14歳になる末っ子の剣吾のことだ。


「そうか。よかった」と、神栖はうなずく。

「よかったですね。千紗さんも征児君も、『新しい家』でうまくやっているということですね」と、野木も口を挟む。

「そのようだな」


「ええ。とても優しくしてもらっているって」と、美玖も改めて言った。

 神栖は安堵した。

 末っ子の剣吾は最初の里親からずっと可愛がられているので心配はないのだが、征児と千紗は()()()()()ので、いつでも気がかりだった……。




 神栖五兄妹の人生が大きく変わっていったのは、10年以上前、魔法剣士として一家の生計を支えていた父親が魔獣によって殺されたことに始まる。兄弟で一番年上の拳誠でさえ10歳に満たず、末っ子の剣吾に至ってはまだ3歳だった。

 

 まだ小さい子供たちを養っていくには、父の遺した貯金や小さな工場で服を作る仕事を始めた母の給料だけでは足らず、母が体調を崩したこともあって、5兄妹はそれぞれ養子に出されることになった。

 

 まず末っ子の剣吾がもらわれていき(幼いが泣かなかった)、それから美玖、千紗の女の子たちの里親が見つかった。

 ただ、この頃から無愛想と言われていた神栖と、障(がい)がある征児……この上の二人には、なかなか里親が見つからなかった(もちろん世の中には問題にしないという夫婦もいるので、巡り合わせが悪かったということなのだが)。

 

 だから、二人はそのまましばらく母と暮らした。

 神栖自身は、自分が13歳ぐらいになれば働くこともでき、母や弟を少しは助けられると思っていたが、体調を崩した母はできるだけ早く二人の里親を見つけてあげなければと考えていた。

 



 そんなある日、神栖は征児を連れて、次女の千紗がもらわれて行った家の様子を見に行った。

 征児は放っておくと自分の世界に入り込んでしまって周りが見えなくなってしまうことがある。だから神栖や母は征児を外に連れて行く時、しっかり手を繋いだり注意を払ったりしていないといけなかった。


「ミクに会いに行くの? チサに会いに行くの?」と純粋な目で訊いてくる征児に、神栖は穏やかに答える。

「千紗だ。あの子は寂しがり屋だし泣き虫だから、母さんも一番心配している」


「うん、チサ、よく泣くよ。僕も心配だぁ。家から出されて可哀そう。どうして、行っちゃったんだろうなぁ~」

「新しい家族ができたからだよ。俺たちにも、もしかしたら新しい家族ができるかもしれない」


「新しい家族……。僕は兄ちゃんと母ちゃんがいればいい。できればチサたちも帰って来ないかなぁ」

「……新しい家族ができることは悪いことじゃないんだ、征児。でも、千紗は寂しがり屋だから、しばらくは様子を見に行ってあげないといけないんだ」

 そして神栖は征児と共に、千紗の里親の家に行った。

 

 家はアパートの1階にあり、日中はカーテンが開かれた窓から室内がよく見えた。

 そして、千紗と、千紗よりも少し年上の男の子と笑い合う夫婦の姿が見えた。


「チサだぁ。あれは新しいお父さんで、あれはお母さんかなぁ? あの男の子は誰?」

 征児が横に並んでしゃがんでいる神栖の腕を引っ張って訊ねる。

「千紗の家には、別の子ももらわれて行ったんだったな。母さんが言っていた。多分、その子だろう」と、神栖は窓の中の幸せそうな家族を見ながら答えた。

 

 千紗と共にこの家の夫婦にもらわれたその少年……和気(わけ)光泳(こうえい)が、後に『無声慟哭(むせいどうこく)』に所属し、カケルたちと戦うことになる運命であることは、もちろんこの時誰も知らない。

 

 そして、この後この家族に訪れる不幸も……。


「チサァ~、チサァ~、来たよ~」と窓に近づき手を振ろうとした征児の手を、神栖が押さえた。

「ダメだ、征児。千紗は大丈夫そうだ。こういう時は、声を掛けずに帰ろう」

「帰るの? せっかく来たのに?」


「笑っているし、楽しそうだ。こういう時に俺たちが顔を見せると、あの子はかえって寂しくなってしまうだろう。だから、こういう時は何もしないで帰るんだ」

 神栖は征児の手を引き、腰を落としたままアパートを離れて行く。


「また、来る?」

「ああ。しばらくのうちは、たまに見に来よう。寂しがっているようにしていたら、その時は声を掛けてやろう」


「チサと遊べる?」

「千紗がそう言うなら、いつでも遊びに来てあげよう。でも、新しい家族といてずっと楽しそうだったら、そっとしておこう」


「うん」と征児はうなずいたが、足を止めてアパートの方を振り返った。

「いじめられないかな? チサ……」


「うん? 何でだ? あんなに優しそうなお父さんお母さんだったし、あの男の子とも笑っていたじゃないか?」と、神栖は怪訝(けげん)な顔で言った。

「うん……でも、僕は、あのお父さん、少し怖いなぁ」

 

 征児のその呟きに、神栖は少し胸騒ぎがした。

 征児は、同年代の子と比べて勉強ができないし、何かに没頭すると時間を忘れてしまう。

 しかし、こういうポツリと言ったことが、あとあとその通りになることがよくあった。勘が鋭い子なのだ、と母は言っていた。


「いい人にしか見えないけどな……。でも、何か怖いことされているようだったら、すぐに千紗を助け出すさ」

 神栖は征児の頭をクシャクシャと撫でて言った。


「どうやって助け出す?」

「う~ん……この家に火をつけて、千紗を連れ出す」と、神栖は冗談を言って笑みを(こぼ)した。

「ハハハ~」と、征児も笑った。

 



 その後も、神栖は『あのお父さん、少し怖い』という征児の言葉がしばらく気になっていた。

 数日後、また征児を連れて千紗の家の様子を見に行ったが、その後、一人でも度々確認に行った。

 しかし千紗の新しい家族に問題はなさそうだった。窓から見える一家はどこにでもいる普通の温かい家族に見えた。父親も、二人の子供を可愛がっているようだった。


 一方で、変わっていってしまったのは神栖と征児の環境だった。

 母の体調が悪化し仕事はできず、貯金も尽き、いよいよ二人の子供を育てることができなくなった。

 神栖も、働くにはまだ幼い。働き口を探しはしたが、どこも門前払いされてしまった。

 結局母は、里親が見つかるまで、二人の面倒を伯父(おじ)夫婦に頼むことにした。


 伯父夫婦にも二人の子供(姉と弟)がいたし、決して裕福な家庭ではない。

 その上、母と伯父はあまり仲が良くなかった。母の容態を気の毒に思ってか結局は二人を引き取ったが、渋々なのは子供の神栖にもわかった。

 



 母との別れの日。

 神栖は征児がいない時に母からこっそり靴箱ぐらいの大きさの箱を渡された。そして同時に母から()()()()をされた。

 神栖は箱をバッグに隠し、それを持って伯父夫婦の家に向かった。

 

 伯父夫婦は優しい時もあったが大抵は厳しく、特に神栖は家事の手伝いや畑仕事の手伝いなどいろいろなことをさせられた。

 征児もできる手伝いはやらされた。

 しかし、働き口のない神栖や征児に、決して贅沢ではないが三食と生活必需品を用意してくれる夫婦に、文句を言えるわけがなかった。

 

 ただ、いとこたちにまで威張られると、感情の起伏が穏やかな神栖も、少し頭に血が上ることがある。

 特に弟の征児をからかわれると我慢ならず、何度か言い返した。

 そして最後は掴み合いの喧嘩になる。

 

 いとこは二人とも神栖よりも年上だし、特に弟の方は体も大きかった。しかし神栖はいつもそのいとこを投げ倒した。

 そしていつも決まって、弟を倒された姉が親に報告し、伯父夫婦から神栖が怒られて終わった。

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