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第862話・空に潰される   ≪キャラ挿絵≫

 相手の立ち位置をムチャクチャに移動させる『MAZE(メイズ)』という魔法を敵・射水(いみず)が発動。


 しかし俺は動じない。

 ライフル銃のように構えていた剣の先から、青白い気の『弾』が飛び出した。

 庭の方に向いていた気は軌道を変え、弧を描いて射水に突き刺さる。

「ぬごっ!」


SNIPER(スナイパー)』の発動だ。ターゲットが移動しても、射出された気が自らターゲットを追い、攻撃する魔法。

 今回はターゲットの位置ではなく、こっちの位置が変わってしまったわけだが、魔法の特性は充分に活かされた(剣先の向きとターゲットの位置が極端にずれている場合は失敗することもあるが)。

 

 射水は咄嗟に剣を構えたが、青白い気に突き飛ばされ、畳に立つ『エイト剣』を巻き込みながら倒れた。剥き出しの上半身に、傷が増える。


 その波に呑まれて、近くにいた美咲も膝を突いてしまったがすぐに立ち上がった。

「すまん、美咲……」

「うん、結構危なかったけど……。それより、まだ終わっていない。グリーン・ネットッ!」

【NET(=ネット、網)・琴浦美咲所持魔溜石、A、B、D、『E』、『N』、O、R、『T』、U】


「おお、そうだな。俺も! ハンターズ・ネット!」

【NET(=ネット、網)・カケル所持魔溜石、A、『E』、G、H、I、『N』、P、R、S、『T』】

 美咲に続いて俺も『NET』を発動。黄緑色の光が網状になって、倒れている射水に覆いかぶさって行く。

 

 それを、射水は手を振って破壊した。青白い光と黄緑の光の欠片が飛び散り、なくなっていく。


「かき消された……」と、美咲が一歩下がる。

「だが、手を使った。お気に入りの剣をどこかへ飛ばして、他の剣と混ざってしまったんだ。アホめ!」

 俺は挑発的に笑い、剣を振り下ろした。

「パーフェクト・ヒットッ!」


 風を切る『HIT(ヒット)』の弾丸。しかし、射水の斜め上に向けて弾かれた。射水はその場にあった剣を一つ手にし、防御したのだ。

 天井に穴が開き、木くずと共に雨粒が落ちてくる。


 さらに射水は中腰で剣を振り、青白い気を飛ばして俺たちを突き放した。

 直後、それを捨て、畳の上の別の『エイト剣』を2本手にした射水は、飛んで来る気を弾き返した。その気はレンジリー先生が撃ち込んだものだ。

 続けて右の剣を振り下ろし放った気で、レンジリー先生を突き飛ばす。

 

 射水が手にしている『エイト剣』はどちらも普段使っている物ではないようだ。だから、魔法名の付くような強力な気を放てず、初期レベルの気を飛ばしてくるのだ。だが、それでも俺たちを押し飛ばすほどの威力はあるから厄介だ。


「……だけど、それではさすがにこれは止められないだろう? アーレス・ストライクッ!」

【ARES(=ギリシャ神話軍神・アーレス)・カケル所持魔溜石、『A』、『E』、G、H、I、N、P、『R』、『S』、T】


 刀身を包んでいた赤い気が先端へ流れ、前方に飛び出す。火炎の尾を引きながら、紅蓮(ぐれん)の気は射水に向かう。

 

 射水は両手の剣と腕をクロスさせ、それを受けた。

 ボッと大きな炎が広がり、背後の壁が後ろへ崩れた。それまでの損傷もあり、そちら側の壁は一気に崩れた。

 同時に天井も一部傾き、庭には木片や瓦がなだれ落ちる。

 

 しかし、射水は崩れた壁際ギリギリのところで立っていた。クロスした腕や肩や腹は黒く焼けただれているが、その後の動きはさほど変わらない。

 

 射水は二本の剣を投げ捨て、前進した。そしてまた別の2本の『エイト剣』を掴む。

「次から次に畳の剣を……。『日本外史』の中の足利義輝(よしてる)の最期かよ……」と、俺は顔を引きつらせる。


挿絵(By みてみん)

 

 射水は右手の剣を俺や美咲に向け、左手の剣をレンジリー先生に向け、強く振り下ろした。

 同時に青白い気の球が放たれたが、あきらかにこちらに向かってきた気の方が大きかった。

 

 レンジリー先生は構えていた剣で防ぎきるが、俺と美咲は「ウォーム・ネスト!」、「アイロニー・ターバンッ!」と、それぞれ防御魔法を発動したにもかかわらず、相手の気の風圧に押され、二人とも床の間の柱に激しく背を打ちつけられた。


「ぐあっ……強……もしかして、あの剣は……」

 いつも射水が使っていた、強化充分の『エイト剣』……そうらしい。射水はわずかに口の端を吊り上げ血を舐め、左手の剣は投げ捨てた。

 

 そして右手の剣を、今度はレンジリー先生に向かって振り下ろす。

「バズーカ」

【BAZOOKA(=バズーカ砲)・射水所持魔溜石、『A』、『A』、『B』、D、E、『K』、M、N、『O』、『O』、S、S、U、『Z』】


「そう何度もやられないわ……インディゴ・マーキュリー!」

【MERCURY(=水星)・レンジリー所持魔溜石、B、『C』、『E』、H、I、L、『M』、N、『R』、『R』、S、T、『U』、W、『Y』】


 レンジリー先生が迎撃した。先生の剣から直径2メートル近い青い球状の気が出て、射水の赤い『砲弾』を呑み込んだ。

 火の粉、赤い光の(くず)と、水飛沫(しぶき)、青い光の屑が飛び散り、薄暗い屋内が激しく明滅した。

 

 双方の大きな気は、中間で数秒間しのぎを削っていたが、やがてレンジリー先生の『MERCURY(マーキュリー)』が(まさ)った。


『BAZOOKA』の気はすべて消滅し、やや小規模になった『MERCURY』の青い気が射水を突き飛ばした。

 壁に叩きつけられた射水はうめき、後ろへ倒れる。同時にそちら側の壁も崩れ、また家屋が揺れる。


『MERCURY』は水系の特大攻撃魔法ということで、射水や崩れた壁はびっしょり濡れたのだが、水系魔法はそれだけではなく斬撃も与える。仰向けに倒れた射水の上半身からは血が流れて、雨に(にじ)む。


「まだだ。魔獣人はこれでは死なないはず……」と、俺は射水に駆け寄った。

「パーフェクト・ヒットッ!」

 

 振り下ろした剣から撃ち込まれた青白い気の『弾丸』は、起き上がりかけた射水の右胸を突いた。そして、穿(うが)つ。射水の右胸に、丸いワッペンのような黒い穴が開き、濁った血がドロッと溢れ出た。


「貫通……」と、俺は自分で攻撃しておきながら少し戸惑った。

 しかし魔獣人相手にそんな気遣いは無用らしい。射水はやや荒い呼吸ながらも、すぐに立ち上がって迫って来る。

 

 俺は再び剣を振り上げた。

 しかし、また剣を振り下ろすのをためらってしまった。なぜなら、射水は「マスク」と呟き、レンジリー先生に顔を変えたからだ。

【MASK(=マスク、仮面)・射水所持魔溜石、『A』、A、B、D、E、『K』、『M』、N、O、O、『S』、S、U、Z】


 美人教師、レンジリー先生の端正な顔になられて、攻撃の手が止まった。それもあるが、射水は上半身裸、ズボンもかなり破れ、短パン状態。体中を染めていた血も雨でだいぶ流れ落ちていて、つまり白い裸体にレンジリー先生の顔……。

 それに目を奪われ、数秒間俺の思考回路が静止してしまった。


「がふっ!」

 気がつくと剣先から突き出された気を食らって吹っ飛ばされていた。

「何、油断しているの、瀬戸君?」と、レンジリー先生本人の声が回転して聞こえた。

「私、あんな体デカくないでしょう?」


「そうですね……本人見ると冷静になります。あいつ、傷だらけだし……どうかしていました」

 俺がそんなことを言いながら上体を起こしている間、レンジリー先生の顔をした射水は美咲との間合いを詰めている。


琴浦(ことうら)さん! 私の顔だけど躊躇(ちゅうちょ)しないで!」

 レンジリー先生が叫ぶと、美咲は「は、はい!」とうなずき、思いっきり『エイト剣』を振り下ろした。


 射水も気を射出する。

 青白い気がぶつかり合った。しかしすぐに拮抗(きっこう)は破れ、射水の方が後退してひざまずいた。


「たああっ!」と、すかさず美咲が攻めようとする。

 しかし、一瞬銀の光が広がった。美咲の剣が頭上で止まる。

「構わず振り抜け、美咲ぃ!」と俺は叫ぶが、美咲はまだ止まっている。

 銀の光が引き、射水の顔がよく見えた。

 射水の顔……いや、()()()と言うべきか……。


「俺の顔……いつの間にコピーした?」

「ある程度戦っているうちにコピーできるらしいわね! 私もそうだった。とにかく、琴浦さん! そいつは瀬戸君では……ああ!」

 レンジリー先生が顔を険しくした。躊躇していた美咲が反撃を食らい、床の間の横の壁に激突させられたのだ。


「敵ってわかっているんだから! 遠慮はいらないのよ? もう! ブルー・ブッチェリー!」

【BUTCHERY(=大虐殺)・レンジリー所持魔溜石、『B』、『C』、『E』、『H』、I、L、M、N、『R』、R、S、『T』、『U』、W、『Y』】


 青い大きな円弧(えんこ)の気が何発も出て、剣を構える射水を徐々に押していき、むき出しの肌に無数の傷もつけて行く。

「俺の顔に、容赦ないな……」と、俺は若干引く。

 

 そんな中、射水は気を溜めた左手で先生を殴ろうとしたようだが……『BUTCHERY(ブッチェリー)』の一撃がその腕を叩き切った。

 今まで以上に多くの黒い血が流れる。ただ、普通の人間ならそれで貧血や気絶をしそうなものだが、魔獣人は「うおおおお」とうめいたものの、それからはまた真顔で(銀髪男に戻っている)レンジリー先生の攻撃を防いでいる。

 

 そして隙を突き、足を伸ばしてレンジリー先生を転ばせた。

 さらに仰向けになった先生の腹に剣を立てる。もちろん気が包んでいるので、先生の防具は穴が開きそうなほどへこみ、防具の亀裂から血も噴き出た。

 先生の口からも血が吐き出され、彼女はのたうち回る。その周りの畳、床板は破れた。


「せ、先生!」

 俺と美咲はほぼ同時に、射水へ攻撃魔法を飛ばす。

 射水はそれを右手の剣ではなく、体だけで止めに行った。体にまた傷が増え、首もやや曲がったが、それでも倒れない。


 続いて、跳び、部屋の中央に下りた。同時に、気をまとった剣を片手で振り回す。

 刀身を包む気は大きく、その色も複雑だった。青と赤が混ざっているようだ。


「特大攻撃……構えて、カケル君! 先生も!」

 美咲が叫んだ。

 俺も相手の剣を包む気の違いに気づいていたため、早くから警戒できていた。


「ウォーリア・グラフッ! ハード・ティン!」

【GRAPH(=グラフ、図表)・カケル所持魔溜石、『A』、E、『G』、『H』、I、N、『P』、『R』、S、T】

【TIN(=ブリキ缶)・カケル所持魔溜石、A、E、G、H、『I』、『N』、P、R、S、『T』】


GRAPH(グラフ)』で『TIN(ティン)』の防御力を高める。引き換えに攻撃力や魔法発動距離を落とすことになるが、致し方ない。

 できれば美咲やレンジリー先生も防御してあげたいのだが、それぞれ距離があり過ぎる。各々の防御魔法がうまく機能するよう祈るしかない……。


「マッドネス」

【MADNESS(=狂気)・射水所持魔溜石、『A』、A、B、『D』、『E』、K、『M』、『N』、O、O、『S』、『S』、U、Z】


『マッドネス』……まさに『狂気』だ。

 射水が振り回した剣から、青白い気や赤い気が乱れ飛んできた。それも一つ一つがバスケットボールほどある。

 

 美咲や先生の悲鳴が聞こえたがそれもすぐに聞こえなくなる。爆撃を受けたように家屋が壊れていき、その音が耳を埋めたのだ。

 

 奪われたのは視界も同じだ。

 体を斬りつけてくる気、体を熱してくる気の、青と赤の光が明滅し、壊されて行く家屋の木片や土や砂埃で目を開けていられない。

 

 しかし、頭上からの大きな音には、さすがに顔を向けなくてはならなかった。

 屋根の一部(相手の爆撃で吹っ飛ばなかった屋根)が支えを失って落ちてきたのだ。

【挿絵】射水夜紗

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