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第861話・魔剣の山

 これまで戦っていた廃屋から、隣の建物の屋根に飛び移った敵の銀髪男。


「セット! ランッ……」

 レンジリー先生が『RUN』で加速し、一気に敵との間合いを詰めた。敵が射程距離に入ると、さらに『エイト剣』を振り下ろした。

「トランスパレント・マイアッ!」

【MIRE(=ぬかるみ)・レンジリー所持魔溜石、B、C、『E』、H、『I』、L、『M』、N、『R』、R、S、T、U、W、Y】


 黄緑の光が飛び、雨に濡れた地面に落ちてから、丸まったカーペットを一気に広げたように銀髪男の足元にまで広がっていった。

 そして男の逃げる速度が落ちる。足元の黄緑色の気が粘っこくまとわりつき、動きづらくしているのだ。


「セット! トリップ……」

 俺も『TRIP=旅行』を使って、一気に相手へ迫る。


 レンジリー先生に並び立ったところで、「ストリップ!」と叫んで剣を振った。

【STRIP(=ストリップ)・カケル所持魔溜石、A、E、G、H、『I』、N、『P』、『R』、『S』、『T』】

 ここなら、レンジリー先生の防具をまた壊してしまうなんてことはないだろう。

 ただ、先生は「また、それ?」と警戒して胸元を隠したが。

 

 男は防御魔法の魔溜石(まりゅうせき)が使われていると思われる防具をしている。だいぶ壊れてはいるが、まだ充分機能しているようだ。

 相手が魔獣人であろうがなかろうが、その防具は防御力を高めているはずだ。まずはそれを外させなくては……。

 

 射出されたブーメラン型の青白い気は、銀髪男の背中を撫でてから曇天(どんてん)に向けて流れて行った。

 直後男は強引に気の『ぬかるみ』から脱した。普通は魔法なしにそんなことは不可能なはずだが、魔獣人ならそういうこともできるのだろう。

 

 ただ、銀髪男の防具はベルトが切れてズレていた。『STRIP』がうまく当たったのだ。

 男はそれに気づくと、自ら防具を外し投げ飛ばした。


「ヘル……ファイアー!」

【HELLFIRE(=地獄の業火)・香取所持魔溜石、A、A、B、D、『E』、『E』、『F』、G、『H』、『I』、『L』、『L』、Q、『R』、S、U】

 香取先生が顔をしかめながらも『エイト剣』を振り下ろした。


 宙に直径1メートル強の球状の赤い気が発現し、銀髪男に向かって落ちた。

 男は両手を(かざ)し、それを受け止めようとした。空中で『HELLFIRE(ヘルファイアー)』が、火の粉となって散っていく。

 

 だが、最後は『HELLFIRE』が勝った。

 バスケットボールを一回り大きくしたほどに減少した火焔の気は、男を押し潰した。


「ぬごおお……がはっ!」

 男は体を燃やしながらひざまずき、気が叩きつけられたことによって生まれた穴に、コンクリート片と共に落ちて行った。

 

 俺たちは建物の屋根にできたその穴を覗き込む。

 そこは小さな倉庫跡地のようで、2階部の床はなく、1階の床に燃え上がる炎、瓦礫(がれき)とその下敷きとなっている男の脚が見える。


「香取先生はかなり辛そうですね。まず、私が行きます」

 レンジリー先生はそう言って剣を構え、下へ飛び降りた。俺も後を追う。

 

 ……と、真下で青白い光芒が放たれた。

「待った……強……だああっ!」

「うぐわぁっ!」

 レンジリー先生、そして俺も、真下からのその衝撃波に突き返され、建物の天井にぶつけられた。同時に飛ばされた瓦礫が、さらに俺たちの体を打った。


「カケル君っ!」

 落下途中で何とか気のクッションを作った俺だが、結局スッ転んだ。そこへ美咲が心配そうに声を掛け、下りてくる。


 彼女と同時に下りてきた香取先生が焦った声で言った。

「琴浦さん! 君は彼らの治癒を! 僕は奴を追う!」

「は、はい」

 

 瓦礫の下から手を伸ばして気を放ったらしい相手の男は、すでに立ち上がって奥の扉に向かっていた。

 途中で破れかけの服を自ら剥ぎ取り、上半身裸になる。青白い肌の所々に傷や流血が見られる。こうして見ると血の色はやけに黒っぽく、魔獣人のそれのように見えた。

 

 その男を、香取先生が足を引きずりながら追いかける。

「香取先生……。美咲! 俺はいい、レンジリー先生を!」

 レンジリー先生は俺よりも近くで男の気を食らい、その分着地も中途半端となり、横になってうめいていたのだ。


「あ、うん。でも、カケル君……え? ちょっと!」

 美咲を残し、すでに俺は香取先生たちを追っていた。

 俺たちが参戦する前から相手と戦いを繰り広げていた香取先生は、レンジリー先生以上に心配な状態だった。


 


 男は近くの廃屋に逃げ込んだ。

 そこはこれまでの場所とは違い、大きめの民家だった。全体的に和風の造りだ。


 ただ、窓は割れているし、床板は大きく(きし)み、土壁には穴も開き、障子は派手に破れている。

 家具は少なく、その中でも残されたタンスや文机(ふづくえ)は見るからに傷んでいる。

 室内にはほこりが舞い、クモの巣が張り、かび臭い臭いが広がっていて、やはり放置されている廃屋とすぐにわかる。


 その廃屋の廊下を進む男の背が、奥の部屋に消えた。

「待て!」と、俺と香取先生もその引き戸の先に飛び込んだ。

「あ……」

 そこは少し傷んだ何十畳もの畳が敷かれた部屋だった。小さな道場として使われていた場所なのかもしれない。

 

 いや、驚くべきはその広さなどではない。

 魔獣人の銀髪男がこちらに背を向け立っている、その床の間の前……。

 その畳に、何十もの『エイト剣』が刺さっているではないか!


「な、何だよ、あれは? ぜ、全部『エイト剣』?」と、俺は口をあんぐりさせた。

「おそらく、これまでに奪ってきた剣なのだろう。つまりここが彼の住処(すみか)というわけだ。多分、勝手に住んでいるだけだろうけど」と、香取先生はやや険しい顔つきで言った。


「ここまで、戻ってくることになるとは……」

 銀髪男は振り返りながら呟いた。


「魔獣人! もう好き勝手にはさせない!」

 香取先生が叫び、剣から気を放った。

 

 銀髪男も剣の一つを抜き、それを防ぎに行くが、魔法発動が間に合わなかったか、あるいはその『エイト剣』で魔法発動を訓練していなかったのか、とにかく被弾し、床の間の壁にぶつかった。

 壁はもろく、バラバラと崩れ骨組みが見えた。周りに刺さっていた剣も幾つか倒れる。


「先生……」と、いきなりの攻撃に俺も少し驚いて言った。

「魔獣人には自分を治癒する能力はないはずだが、『エイト剣』からの魔法を使えば回復ができてしまうかもしれない」

 香取先生のその説明に、ひどく納得した。


「確かに、それはマズい。この男は、普通の魔獣人と考えちゃいけないんだな……と言うか、普通の魔獣人というのも変だけど……。パーフェクト……」

 言いながら俺も剣を振り、青白い気の『弾丸』を発射。


 だが、立ち上がった男が一気に前進してきて、剣を振り下ろし「メイズ」と呟く。

【MAZE(=迷路)・射水所持魔溜石、『A』、A、B、D、『E』、K、『M』、N、O、O、S、S、U、『Z』】


「また、それ……あぁっ!」

「ぐほっ!」

 俺はいつの間にか入り口から右手に立ち、横に向けて立っていた。

 時同じくして放たれた『HIT』の気は……こちらへ背を向けている香取先生の背中に当たってしまった。

 

 先生は青白い光と共に右手の障子に激突。

 気は障子を壊し、窓を割り、雨戸を飛ばし、庭の木を削り、塀を突き破った。同時に先生の体も崩れた庭の塀辺りまで転がって行ってしまった。


「せ、先生! さ、さすがにこれは……すんません! 『MAZE』ってやつでして!」

 俺は庭に向かって叫ぶ。

 雨に濡れながら、先生はうつ伏せに倒れたまま小さく言った。

「わかって……いる。それより……敵を……」

 それ以上声は途切れた。雨音だけが静かに聞こえてくる。


「クソッ! これが理由で留年になったらどうすんだよ!」と、俺は青白い気をまとった剣を振り下ろす。

 男はそれを同じく青白く発光した剣で止める。

「『(きば)』のことか? 安心しろ、生徒も教師も死ぬから」と、男は薄く笑って押し返してきた。

 

 しばし、鍔迫(つばぜ)り合い。

 その時、男の目がわずかに見開かれた。

「その鍔の刻印……射水(いみず)……!」


「刻印? それがどうした?」と、俺は歯を食いしばって返す。

「それは、俺の剣だ!」

「何?」

 

 男は俺の剣の先を掴み、引っ張ってくる。

 普通なら、気をまとった刀身を手で掴むなんてことはなかなかできないことだが、魔獣人の男にとっては可能なのだ。


「……お前、まさか……射水? お前が射水なのか?」と、俺。

「そうだ。剣を狩り始めたのは、この剣を見つけるためだった。俺の剣……返せっ!」

 銀髪男……射水は、これまでにない怒気を含んだ声を発した。

 

 そして、俺の腹に蹴りを入れてきた。

「どぅあがはっ……」

 ただの蹴りではない。気をまとった足での蹴りだ。近距離で魔法を食らったように痛い。

 ただ、『エイト剣』を離すわけにはいかない。これを奪われたら終わりだ……。

 

 もう一発蹴りが飛んで来る。

「ぐあっ!」と口から血の混じった唾が出て、さらにすっぱいものがこみ上げてくる。

 全身が(しび)れ、手が(つか)から離れそうになった。

 

 だがその前に、射水の方が後ろに吹っ飛んだ。畳に刺さった幾つかの『エイト剣』と共に、倒れ込む。

 背後に気配があって、振り返った。青白い気をまとった剣を振り下ろした格好で美咲が立っていた。

「カケル君……大丈夫?」


「瀬戸君! ええ? ここは……」と、遅ればせながらレンジリー先生がこの部屋の異様さに目を見張った。


「邪魔をするな……。俺の剣を、お前ごときが使うな!」

 上体を起こした射水は、自信の『エイト剣』を突き出した。


 飛んで来た青白い気の球を、俺は『エイト剣』で叩き、押し返す。

「この通り、なかなかいい剣だよ、ありがとう」と、俺は言った。

 流れて行った気は床の間に当たって、そちら側の壁はまた大きく崩れた。湿った風が入り込んでくる。


「下がって、瀬戸君! ブルー・ブッチェリー……」

【BUTCHERY(=大虐殺)・レンジリー所持魔溜石、『B』、『C』、『E』、『H』、I、L、M、N、『R』、R、S、『T』、『U』、W、『Y』】


「いや、ダメだ、先生……」

 俺が止める前に、思った通り射水は「メイズ」と魔法発動。


 俺から見える景色がぐるりと変わる。

 しかし、これならどうだ? 俺は立ち位置が変わっている間にも剣を構えた……()()()()()のように。

 

 動いていた視界が、止まった。

 まず、右に向いたレンジリー先生の前に青い大きな円弧(えんこ)の気……『BUTCHERY』の気が何発も出て、そちら側の壁を破壊した。

「ああ! また、これぇ!」と、レンジリー先生が叫ぶ。

 

 そして、俺は床の間の前に移動させられていた。やや庭の方に向いているが、部屋を見渡せる場所だ。

 そして美咲も俺の左横、畳に刺さる『エイト剣』の山の中に混乱した様子でいる。

 もちろん射水は、先ほどいた位置と大して変わらず、俺たち三者の中央にいる。

 

 これなら、うまく行く……!

SNIPER(スナイパー)』だ!

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