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第855話・【三人称視点】暗夜行路

 銀髪の男を追いかけ、林に入った王寺(おうじ)たち中央本部兵。

 彼らの頭上から、銀髪の男が跳び降りてきた。


「いつの間に……」と声を発するが早いか、王寺は激しい打撃を受けて倒された。

 地面に降り立った銀髪の男……射水(いみず)夜紗(やしゃ)が両手で握っている『エイト剣』に、青白い気がまとわりついている。


「王寺さんっ!」

「おいっ! お前、やはり殺し屋か? 止まれぇっ!」

 中央本部兵3名が矢継ぎ早に叫びながら、各々剣を構えるが……。

 

 射水はいち早く動き出した。その両手に『エイト剣』……もう一本の『エイト剣』を腰の鞘から抜いたのだ。どちらの刀身もすでに赤い気に包まれている。


「サンビーム」

【SUNBEAM(=太陽光線)・射水所持魔溜石、『A』、A、『B』、D、『E』、K、『M』、『N』、O、O、『S』、S、『U』、Z】


 射水が両方の剣を振り下ろすと、赤い幾つもの光線が中央本部兵たちに向かって落ちて行く。

「ぬおあっ!」

「クソッ……威力半端ないな!」

 3名の中央本部兵はすぐさま頭上に防御魔法を張るが、降り注ぐ射水の『SUNBEAM(サンビーム)』がそれを削っていく。


「がああっ!」

 3名のうち1名の防御魔法が破られ、赤い気を受けて屈した。

 地面に穴ができ、中心で倒れる男からは火の粉が飛び、煙も上がる。


 何とか『SUNBEAM』を防ぎ切った一人の中央本部兵が、雄叫びを上げて自身の剣を振った。

 放たれた青白い大きな気の球が、射水に向かって行く。

 

 しかし射水は走りながら二つの剣をクロスさせてそれを押さえ、前に押し出す。

 押し出された気は放った本人の下半身を吹き飛ばす。


「くおっ!」

 前のめりに転倒する中央本部兵。そこにさらに、射水が放った青白い気が飛んで行った。

 中央本部兵は倒れながらも素早く防御魔法を発動したが、射水の気の威力に負けた。

 その中央本部兵はうめきながら、削られた土、折れた木と共に後ろへ吹っ飛んだ。


「てめぇ……そう何度もやられてたまるかよっ!」

 立ち上がった王寺が、射水の背後から攻撃魔法を発動する。


「モーセ」

【MOSES(=モーセ、神より十戒を授かった人物)・射水所持魔溜石、A、A、B、D、『E』、K、『M』、N、『O』、O、『S』、『S』、U、Z】


 射水は振り向きざまに剣を振り上げた。刀身が黄緑に光る。

 そこへまっすぐ向かって行った王寺の攻撃魔法の赤い気が、射水の剣先の前で左右に分かれてしまう。


「ああ?」と、王寺は顔をしかめる。

 左右二つに分かれた赤い気はそれぞれ射水の横を通過して行き、後ろの木にぶつかった。一部の草木を燃やすが、あとは光の屑となって消滅した。

 

 これが射水の発動した防御魔法・『MOSES』だ。まるでモーセが杖を振り上げると海が割れたという伝説のように、相手の攻撃が割れ、発動した本人は被害を免れるという防御魔法だ。

 

 しかし王寺の攻撃もまったく無駄というわけではなかった。もう一人の中央本部兵が攻撃を放つ隙を、射水に作らせた。

 射水はもう片方の剣でそれを防ぎに行くが、わずかに後ろへ押された。相手も中央本部兵。並みの魔法剣士の攻撃力ではないのだ。

 

 だが、耐え切れないと判断した射水は、冷静に跳んだ。

 それも普通のジャンプではない。あっという間に高さ5メートル程跳び上がったのだ。

「は? 今、魔法を発動したのか?」と王寺も、射水の目の前にいる中央本部兵も、目を見開いた。


「メドゥーサ……バズーカ」

【MEDUSA(=ギリシャ神話・メドゥーサ)・射水所持魔溜石、『A』、A、B、『D』、『E』、K、『M』、N、O、O、『S』、S、『U』、Z】

【BAZOOKA(=バズーカ砲)・射水所持魔溜石、『A』、『A』、『B』、D、E、『K』、M、N、『O』、『O』、S、S、U、『Z』】


 空中の射水は、左右の『エイト剣』を順に振った。

 まず、先に振り下ろされた左手の剣先から黄緑色の光線が地上の中央本部兵に降って来る。

 対する中央本部兵は防御魔法の黄緑色の気を張って、幾つか光線を防ぐ。


 しかし、やがて防御の気は破壊され、降ってきた光線を受けてしまった。

 それ自体では、中央本部兵の体はあまり打撃を受けなかった。強い風圧に体勢を崩しそうになっただけだ。

 だが、次の瞬間、中央本部兵の体が動かなくなった。


「ああ? 何だ、こ……う……」

 唇まで動かなくなり、声も出せない。まるで石化してしまったようだ。

 そう、これが射水の使った特殊攻撃魔法・『MEDUSA(メドゥーサ)』だった。射水の高い能力でも30秒ほどであるが、大抵の者がまったく動けなくなってしまう。

 

 そこへ、右手の剣から放たれた赤い気の『砲弾』が飛んで行った。

 それは地面に当たると、激しく土を(えぐ)った。波紋のように広がっていく衝撃は、周囲の草木を燃やし、幾つかの木をなぎ倒した。

 後から放たれたこの『BAZOOKA』は、特大攻撃魔法に分類されている。

 

 それを受けた中央本部兵は、地面にできた穴の中心辺りでうつ伏せに倒れ、手足だけわずかにヒクヒク動かしている状態だった。

 中央本部兵の防具は尾行時のそれでも、かなり上質な魔溜石(まりゅうせき)が使われており防御力は高いのだが(通常用の物よりは多少劣るが)、それでも彼のバイザー付きのヘルメット、防具の肩や背中部分は破損していた。


「お、おい! 三人とも、あっさり過ぎるだろう? 中央本部兵の意地見せろよ! ……クソッ! (ちょう)まで引っ込んでろよ、クソ野郎!」

 王寺も特大攻撃魔法を飛ばす。

 それも、幾つかに分散される攻撃だ。それなら先ほどのように『MOSES』では防ぎきれない。

 

 だが、射水は即、防御魔法を切り替えた。

「ドーム」

【DOME(=丸屋根、ドーム)・射水所持魔溜石、A、A、B、『D』、『E』、K、『M』、N、『O』、O、S、S、U、Z】


 独自の魔法名ではない、単語だけの魔法名を呟き、射水が前進してくる。すでに彼の体を包むようにドーム型の黄緑の気が生み出されていた。


 王寺の放った幾つもの気は、射水の『DOME』にぶつかった。

 黄緑の気の欠片が飛び散り、『DOME』も徐々に小さくはなったが、そこまでだった。『DOME』を突き破って射水本人へ打撃を与えた気はなかった。


「メドゥーサ」

 涼しい顔で迫る射水は、王寺に向かって幾つもの黄緑色の光線を飛ばす。これを受けると、短い時間ながら体が石のように動かなくなってしまう。

 王寺は必死に剣を振りまくり、光線を壊していった。

 

 そうしながら、王寺の方も間を詰めていく。

「全人類と、お前によって死んでいった者たちの魂が! お前の死を望んでいる!」

 王寺は両手で握った剣を強く振り下ろした。

 

 青白い大きな斬撃が、射水の右半身を叩いた。

 射水は王寺から見て右に吹っ飛ぶ。しかし……。

 空中で体をひねった射水は、幹を蹴った。反動でまた王寺に迫る。

 

 王寺も剣を振り下ろした。気に包まれたお互いの剣がぶつかり合い、光の欠片(かけら)が火花のように飛び散った。


 力は拮抗していた……が、空中に留まっていた射水が剣を構えたまま、足を引いた。

 そして王寺のがら空きとなっている腹に向け、蹴りをした。

 普通の蹴りであれば、距離的に届かない。しかし射水の脚は青白い気に包まれていて、そこから流れ出た衝撃波が王寺の腹を突いた。


「ぐふっ……! な、何で足から……」と、後転しながら王寺は呟く。

 しかしそれを考えるよりも、まず立ち上がらなければならない。着地した射水がまた迫って来ていた。


「スヌーズ」

【SNOOZE(=うたた寝、居眠り)・射水所持魔溜石、A、A、B、D、『E』、K、M、『N』、『O』、『O』、『S』、S、U、『Z』】


 射水がそう言って突き出した剣の先に紫の光を見た直後、王寺の視界は白くなった。

 次に(まぶた)を上げた時には、駆けて来ていたはずの射水の姿がなかった。

 

 直後、背後に気配を感じ、王寺は倒れている体を回転させ仰向けになった。脚の方に、射水の姿があった。

「てめ、いつの間に……」


「俺はたっぷり時間を掛けてこっちに来た。()()()()()()()()()()だけ」と、射水は抑揚なく言って、剣を振り上げる。

「眠って……? ま、待てっ!」


「人生とは、睡魔に襲われることだ。じっくり眠るといい」

 言って射水は剣を振り下ろした。『BAZOOKA(バズーカ)』の大きな弾丸が、倒れている王寺を呑み込んだ……。




 その数分後。

 中央本部の英田(あいだ)グループは、自分たちが追っていた銀色の髪の長身の男を『中央ブロック』のあるバーに置いてきて、『西ブロック』に向かった。【英田→第549、550話・参照】

 

 バーで酒を飲みながら、だらしない顔で半裸の女性たちのダンスを堪能しているその銀髪の男が本当に世羅を殺した犯人なのか疑問になっていた矢先、王寺から連絡があったのだ。

 王寺は息も絶え絶えに助けを求めてきた。本物の犯人と戦って、仲間たちもやられたらしい。

 

 英田たちは、王寺たちがいる『西ブロック』の端の林に急いだ。

「……ん? あれは……王寺?」

 先頭の英田が止まる。通りの南の方に、木々の中から出て来た王寺の姿が見えた。

 

 英田たちは叫んで呼び止め、駆け寄って行く。

「敵はどうなった?」


「……逃げたから追いかけてきた。そっちへ逃げたようだ。捜してくれ」と、王寺は東への小道を指差す。

「こっちへ? まっすぐ南の門から『神々』を出ると思っていたが……」と英田は首を傾げ、他の中央本部兵も同調する。


「目的はわからないな。ただそっちへ消えたのは確かだ。捜してくれ」と、王寺はまた言った。


「わかった。銀色の髪の男だよな?」

 英田は王寺に確認を取ってから、他の者たちに犯人を追わせた。

「お前たちは急いで捜してくれ。一人だけ先に南門へ行って、見張っていろ。何かあったらすぐに連絡しろ。俺は王寺たちを治癒してから、南門に行く」


「わかりました」と、英田と王寺を残し、中央本部兵たちは東へ、そのうち一人は南へと走り出した。


「俺は自分で何とかする。他の奴を治癒してくれ」

 英田が治癒のために『エイト剣』を抜くと、王寺は(あご)で林の中を指して言った。

「ああ、そうか? わかった。どこにいる? 案内してくれ」


「……こっちだ」

 先導する王寺。

「?」

 その腰に吊るされている『エイト剣』が左右に2本ずつ……いや、右には3本、計5本もあることに、英田はその時気づいた。


「お前、それ……」と、思わず声を発したのが間違いだった。まず背後から、黙って王寺を捕らえるべきだったのだ……。

 

 英田が声を発した直後、王寺は……王寺の顔をした射水は、振り返りざま剣を抜いて、攻撃魔法を放った。

 魔法能力が高い英田も、さすがに被弾してしまった。

「があっ!」

 

 背後の木に激突し、膝を突く英田。その木は後ろへ(かし)ぎ、傍にあった別の木々にも深い傷が入り、葉がざわざわと揺れた。


「お前……世羅を殺した殺し屋、だな?」

「訊くなよ。自分の目を信じろ」と王寺に扮する射水は言い、もう一本の『エイト剣』も鞘から抜いた。

 同時に、二つの気が英田に放たれた。

 

 英田は取り出した剣を振って地面を叩き、反動で真上へ逃げる。そして空中で体勢を整え、巨大な青白い気を斜め下に落とした。

 しかしその気が途中で二つに割れた。

「なっ……?」

 

 割れた二つの気の中央から、王寺の顔が現れ、迫って来る。

「ぬおおっ!」

 英田は空中ですぐさま胸の前に剣を構え、王寺に扮する射水の斬撃を押さえ込んだ。

 そして、半ば強引に『エイト剣』を振り下ろす。青白い気をまとった刀身が、射水の肩を叩いた。

 

 射水は斜め下へ勢いよく落下。そのまま大樹に激突するかと思われたが……。

 青白く光る両足で幹を蹴りつけた。そして、落ちて行く英田に向かって飛んできた。


「足に光……お前……」

「ドゥーム」

【DOOM(=悪い運命、破滅)・射水所持魔溜石、A、A、B、『D』、E、K、『M』、N、『O』、『O』、S、S、U、Z】


 射水はポツリ呟き、空中で『エイト剣』を振った。

 一度しか振っていないが、太刀筋の残光は『米』印のように見え、実際複数の斬撃が英田を襲った……。

 

 


 それから、数分。

 英田も『神々の黄昏』を管轄している中央本部兵としての意地を見せ、激しい戦いを繰り広げたのだが、何発目かの特大攻撃魔法を食らい、ついに倒された。

 

 一方、射水は英田の『エイト剣』は奪わず、林の外へ向かって行った。

 奴は奴で疲労が出ているに違いなかったが、英田も追いかけることはできない。

 ただ、英田は痛む腕を動かし、通信機で他の中央本部兵、そして『牙』の教師である香取に現状を伝えたのだった。

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