22(泰河)
自宅マンションの駐車場に 車を停める。
「泰河、酒を持て。一本で良い。
残りは里に持ち帰る故」
助手席を降りた榊は、ご機嫌な顔で
後部座席から土産を取り出す。
あの落武者を祓い終わった後に、蔵から家へ戻ると、依頼主のおばさんは目を覚ましており
何度も礼を言われ、分厚い謝礼と共に
高そうな酒やつまみ、箱入りの菓子などまでくれた。
「しかし、あれって... 」
「ふむ。恐らく、多くの者を斬ったのであろう。
斬られた者の怨み辛みが凝り固まっ て蛇などの形を為し、旅立てぬよう取り憑いておったのじゃ」
霊にも なんか憑いたりするんだな。
鱗の感触を思い出すと 腕に鳥肌が立ったが
封筒は厚かった。
しっかり名刺渡して来たし、いい顧客が出来たぜ。
部屋に戻ると、榊に酒のグラスを渡し
オレは 冷蔵庫の缶ビールを飲む。
「なんじゃ、それは?」
言うと思った。
「ビールだ」
新しいやつを 一本取り出して渡すと
「ふむ」と 開けて飲む。
「おお!これは また苦いが旨い!
しかし、先程もらった和菓子には合わぬのう」
「わかったわかった。
もうすぐ朋樹来るから、なんか買って来てもらうよ」
スマホで朋樹にメールを入れていると、榊が
「泰河よ。先のことでは、我らの種が誠に世話になった」と改まる。
「あ? 気にすんなよ。
オレも今日、手伝ってもらったしさ」
榊の向かいのソファーに座りながら言うと
榊は ビールの缶を口に運びながら
「聞いたのじゃ」と、ぼそりと言った。
「儂の首が落とされてからのことじゃ」
ああ、あれか...
何も考えられなかったんだよな。
頭の中は真っ白だった。
「こうして朋樹がおらず、一人で仕事をする時は、儂を呼ぶと良い」
榊は 切れ長の眼を気遣いの色を浮かべてオレを見る。心配してるのか。
「いや、あんなこと滅多にねぇし
大丈夫だからさ」
「儂が 日頃暇なだけよ。
報酬はアジの 一夜干しと酒が良い。
娘が張り切って服を作っておるのじゃ。
人里に降りたいしのう」
「別に、普通に遊びに来ればいいだろ...
あ、そうだ。そのニット似合ってるぜ」
「本当か?!」
榊は ふふ、と自分のニットに視線を落とした。
インターフォンが鳴るが、玄関にいく前に
勝手に朋樹が上がって来る。
片手に惣菜が入った袋を持ち、片腕に露を抱いて。
「おお、露さん」
露は 小振りな三毛猫だ。
朋樹の腕から床に降りると、二つ尾を上げて
榊の隣に「にゃー」と飛び乗った。
「よう、榊。かわいい格好してるな。
意外と大人しい色も似合うんだな」
さらっと榊を褒めながら、朋樹は 冷蔵庫にビールを取りに行き、露に皿を持って来て酒を注いでやっている。
男前なヤツって、自然に気を回せるヤツが多い気がする。
榊は笑顔で 朋樹が買って来た唐揚げや稲荷寿司などを、テーブルに広げている。
「まーた 心霊スポットとか行ったヤツらでさ。
集団で連れて来てやがったぜ」
どさっと座ってビール開ける朋樹に
「十字架か?」と聞くと
「いや、廃病院跡だってよ」と、ため息をつく。
十字架や吊るし穴など、キリシタン弾圧にまつわるようなものは、ぱたりと出なくなった。
この辺りの河原でも 十字架が出たらしいと噂は聞いたが、他の祓い屋が解決したようだ。
「いきなり出なくなったよな」
「ああ、そうだな。なんだったんだろな」
気にはなるが、出なけりゃどうしようもないしな...
「おまえの方は?」
「爬虫類まみれの落武者だった」
「なんだよそれ」と、朋樹はサラダのカップを開ける。
オレもサンドイッチのパックを開きながら、榊と落武者の話をする。
「それ、落武者って言ってるけど
たぶん落ちてはないだろ。
甲冑とか残ってたんなら武勲は立ててるんだろうし、戦場から帰ってから切腹か何かしたんだろ」
「あっ、そうだな」
「しかし、オレがいれば
オレに回って来てたんだな、それ。
話だけでも気持ち悪いし、助かったわ」
けっ。報酬良かったからいいけどよ。
朋樹が サラダ食いながら
「最近、なんか泰河向けの仕事少ないよな」と、何気なく言う。
「キャンプ場は入ったけど、十字架とか吊るし穴もオレ向きのヤツだし」
そうなんだよな。
元々、朋樹向けの仕事の方が多い。
人霊関係ってやつだ。
ついてきたとか、憑かれたとかさ。
まあ、それでも
何か物が動いたとか、物理的な要素が絡めばオレも出ることになる。
その場合は、霊が他の何かになってしまっていたり、人霊以外の怪異になるからだ。
でも最近、目に見えて仕事が減った気がする。
夏くらいから。
「まあ、そういう時もあるよな。
今日みたいに榊がいれば、人霊でもなんとかなるだろ? 仕事分けてやるし
食ったら久々にトランプでもしようぜ」
他人事の朋樹はのんきだ。
仕事分けてやるって····なんか腹立つぜちょっと。
ムッとしたままサンドイッチやら唐揚げやら食って
「足りぬ」という榊に 冷凍餃子を焼いてやると
オレと朋樹は床に降りて ポーカーを始めた。
「おっ、泰河。なんか怒ってるのか?」
こいつ... イラつかせる気だな。
「いや、全然。なんなら賭けるか?」
オレの言葉に 朋樹がニヤっとする。
「おまえが そうしたいなら、仕方ないよな」
オレも朋樹も財布を出し
またムッとしながら カードを持つと
榊がソファーの上からビールを片手に観戦を始めた。
一回目。スリーカードでオレの勝ち。
二回目。どっちもワンペア。数字でオレの勝ち。
よし、気分いい。
「何をしておる。何が楽しいのじゃ?」
榊が不思議そうに言う。
「ん? これはトランプっていうカードを使ったゲームで... 」
朋樹が説明を始めるが、榊は山になったカードを見ながら
「黒の三つ葉、四」と言った。
開いてみると、クローバーの4だった。
「赤の菱、八」
また開くと ダイヤの8
「赤の菱... これのことを 一と言うておったな。
次は黒。一葉の五」
ダイヤのA、スペードの5。当たっている。
「裏から見えるのか?」
「何を。透けておるではないか」
「えっ、すごいな榊!
... でも一緒に トランプは出来ねぇな」
朋樹は言うが
「いや、榊。明日からオレと仕事だ」
オレは ニヤっとした。




