表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万象  作者: 桐崎浪漫
第三章 「パライソへ」
72/620

15(ルカ)


「さて... 」


ついに探検だし。午前中も日差しが強い。

じりじり汗が出るけど、穴の中は涼しそうだ。


近くの木に引っ掻けたワイヤーの梯子を穴の中へ下ろす。


「おっ?」


横穴から なんか出てきた。


「琉地! 何やってんだよ おまえ!」


出てきたのは 琉地だった。

穴の中から オレらを見上げ、シッポを振る。


「この中にいたのか?」


ジェイドが聞くと、ふん と鼻を鳴らした。


「オレら、今から行くんだぜ」


琉地は “ついてこい” とばかりに横穴に鼻先を入れて、またシッポを振る。


手袋をつけ、ワイヤー梯子を降りると

琉地の後について横穴に入る。

当然だけど中は暗いので、ヘルメットのライトを点けた。


身長182センチのオレには、1メートルくらいの高さの穴はキツい。

中腰で進んでいると、すぐ腰をやられそうだ。

似たような背のジェイドもヘルメットのライトを やや下に向けながらついて来る。


「横穴に入る前にコンパスを確認したけど

道は、目標であろう山の方向に向いていた」


おっ、オレ方向とか あんまり気にしてなかったぜ。また やばかった。


けど これさぁ、どれだけの年月をかけて掘ったんだろ?


山でトンネルの中を通る時、誰が最初に

“そうだ。山に穴掘って突っ切れば近道になるじゃん” って考えたのか... と思うと

感心するやら、通り越して ちょっと呆れるやらなんだけど、こういう道には執念を感じる。


30分くらい進んだと思う。

すでに腰が張ってきた感じ。


「琉地、ちょっと待て」


しゃがんで休憩することにした。


ヘルメットのライトが無ければ 何も見えない。

地下道は 地表と気温が全然違う。涼しいというか、動いていなければ肌寒いくらいかもな。

地下水が滲み出しているようで、防水の登山靴でもあやしい感じだ。


「ハティが指したのは、教会の道路から登る山の隣の山だった。

でも、教会は 山と山の境にあるようなものだ。

教会の背後には、隣の山も見えるだろう?

隣の山に登るための道が、教会の近くにないだけだ」


「そうだな。地下道だし、隣の山の方に まっすぐ掘ってるんだろうから

もうすぐ山の近くには入るかもしれない」


休憩中は、水を 一口だけ飲む。


「行くか... 」


まだまだ これからだよなぁ。

また琉地について中腰で歩く... が


「おっ」


ちょっと天井が高くなってきた。


「ふう。この辺りはラクだな。

もう少し進んだら、また休憩を取ろう」


背伸びは出来ないものの、やっと腰を伸ばせた。


琉地がいて心強いってのもあるけど、道が 一本で 本当によかった。

この暗闇の中、もし何方向にも分かれていたら と思うと ゾッとする。



「ルカ。蛇だ。アルピノのようだ」


「おっ! すげぇ!」


ヘルメットのライトで、蛇の眼が赤く光る。

思わず手を合わせた。


「何してるんだ?」


「日本では、白蛇は神様なんだぜ。

または 神様の御使い」


「そうか... 八百万やおよろずの神がいるというしね」


ジェイドも手を合わせる。


「あれ? おまえさ、父と子と聖霊以外は

悪魔なんじゃねーの?」


「信仰上はね。揺らいでは困るだろう?

悪魔、または “存在しない” かだ。

僕個人としては、害があるかないか だな。

困ったことに、僕も “みえる人” だし

全部に祈っては いられないからね」


そうか。そうだよな。

ジェイドも そういう感はある。霊感みたいなやつ。


「じゃあさぁ、ちょくちょく おまえを見てる視線の主は どうなんだよ?」


「害がないとは言えない感じだ。

琉地や今の白蛇とは、明らかに違う」


なるほどなぁ。

結局それはまだ わからず仕舞いなんだよな。


「少し休憩するか」


「おう、そうだな。琉地」


立ち止まって 琉地を呼び止めたが

琉地は まだ進み続け、オレらを振り向く。


「シッポ振ってるぜ」


「来い ってことか?」


オレらがついて行くと、途中で走り出した。


「あ! おい、琉地!」


「いや、ルカ... 」


先には 闇が広がっているように見えたけど

それは空間だった。


「わっ、すげぇ!」


「地下洞窟のようだな」


ヘルメットのライトだけでなく、手持ちのライトも点けて辺りを見回すと

天井に固まっていた蝙蝠こうもりがバサバサと飛び交う。


なだらかなドーム型をした空間だ。

直径は 15メートルくらい。

高さは、中心が 3.5メートルくらいか...


「人工的なものだな」


壁には石が積んである。

所々に散らばっている岩は、人が腰かけるためのものだろうか?


「ルカ」


ジェイドが 壁にライトを向けている。

また十字架だ。


「ここも教会の代わりだった、ってこと?」


「今までを考えると、そうだと思う」


ジェイドが ライトを置き、十字架に祈る。


なんかさ、奴隷貿易とか 護国とか

対策は そりゃ もちろん大切だけど

ただ こうして祈りたい人たちだっていたんだよな。


信じると、ひとのこころは強い。

死の前でも折れやしない。


それは、信念とか、ひたむき とか

または 執念とか狂信とか

人によって捉え方が違うんだろうけど

尊ばれるべきものなんじゃないか と思う。

オレには 出来そうにない。


ジェイドが 祈り終えると

小石に小石が当たるような 微かな音がした。


手持ちのライトで足元を照らす。

音、近かったよな?


「メダイだ」


ジェイドが しゃがんで、それを拾う。


「持ってきたのか?」


「いや。あのメダイじゃない」


手のひらにのせたメダイをオレに見せようと差し出した。


本当だ。目立った傷とかはないけど

色が くすんでいて 古いものに見える。


「今の音、これか?

元々 落ちてたんじゃなくて?」


「十字に膝をつく前に、ライトで照らした時は何もなかった」


この地下洞窟が教会代わりだったことを考えれば、メダイが落ちていても不思議じゃない。


でも、メダイが作られたのって

1800年代だったよな? フランスで。

それからすぐに フランス周辺にはメダイが広がったとしてもさ、日本にまで広がったのは

もっとずっと後なんじゃないか?


気になったので、そこらへんの岩に座って

ジェイドに聞いてみる。


「何故 僕が 日本の歴史を、おまえに教えないといけないんだ?」


「だって、ちゃんと覚えてねーし。

おまえ、こないだキリシタン弾圧の本読んでたじゃん。どうせ覚えてるんだろ」


ジェイドは オレの言葉にため息をついたが

近くの岩に座って年表を言い出した。


日本で 豊臣秀吉が宣教師の追放令出したのが

1587年。

徳川幕府がそれを強化して 禁教令を出したのが1614年。


鎖国により、外海から宣教師も来なくなり、最後の宣教師が絶えたのは 1644年。

ここから、日本の信徒たちは

導いてくれる宣教師もいない状態で

隠れて教えを守り抜く。


フランスで このメダイが作られたのは、1830年に聖母マリアが顕現してからのこと。


1873年。再び開港していた日本はキリスト教の禁教令を解いた、と。


「この、禁教令が解かれる少し前。

開港した日本に訪れた フランス人神父に

潜伏していた信徒が近づき、同じ信仰を持っていることを打ち明けた。

このことは “信徒発見” と言われている」


200年以上も潜伏して信仰を守ったのか...

ここもきっと、その頃の教会なんだろうな。


それからは、宣教師たちも 日本に訪れ

最初は私財をなげうったりして、教会を建てたりもしたらしい。


「ジェイドの教会も それなんかな?」


「可能性は高いね。

ただ、その頃くらいまでは ここが潜伏していた信徒たちの教会だったとしても

フランス教会のメダイは持っていなかったと考えるのが自然だろうね。日本は鎖国していたんだし」


「なら、禁教令が解かれてから

誰かが ここに入ってメダイを落としたってことになるよな?」


メダイの思念を読んでみたけど、これもまた何か

ぼんやりしている。

待っている って 感触を受けたけど

持ち主の念じゃない。


「そうだね。さっき落ちたのでなければだけど。

さあ、水分補給して

そろそろ先に進むとしよう」


メダイを ジェイドに渡して

ザックから水を出して 二口くらい飲むと

岩から立ち上がる。


「琉地。行こうぜ」


琉地は オレの声にシッポ振って

入ってきた方とは違う穴へ歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ