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万象  作者: 桐崎浪漫
第三章 「パライソへ」
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14(ルカ)


憑依され、気絶して倒れてしまっていた人たちを起こした後、バイクを押しながらカフェへ戻る。


「ルカさん! ごちそうさまです」


仁成くんが言うと、ふざけてオレのヘルメットを被っていた子が そっとヘルメットを脱いだ。


「それ、汗臭いと思うぜ」


オレとジェイドが すぐ隣のテーブルに着くと

中学生たちは ちょっと緊張した顔になった。


「あの、ルカさんの お友だちの方ですか?」


「ジェイド? 従兄弟だよ。神父なんだ」


ジェイドが「はじめまして」と、柔らかく笑うと

「あっ、はじめまして!」

「日本語だ」「神父さんだって、かっけぇ... 」と

ちょっとザワザワする。


その間に アイスコーヒー2つと

ピザとサラダ取っといた。

なんか まだかわいいよなぁ、中学生って。


「今日は 部活とかなかったの?」


「あっ、今日はサボったっていうか... 」


へへっ と、みんなで顔を見合わせて笑っている。


「それで、まだ暑かったから

河で水にちょっと足浸けたりしようと思って」


アイスコーヒーが運ばれてきたので、飲みながら話を聞く。


「そしたら、十字架があるのが見えたんです。

来た時はなかったのに」


「おれは見えませんでした」

「おれも全然」

「おれは ぼんやりとだけど... 」


一人の子が

「あんなこと、絶対ないって思ってた」と

ぼそっと言うと、ちょっと しんとした。


サラダと取り皿が運ばれてきた。

ジェイドが取り分けながら

「デザートも取ってもらうといい」と言うので、仁成くんたちにメニューを渡す。

うん。食っといてもらったとはいえ

なんか オレらだけ食うのは食いづらくもあるし。


「いいんですか?!」と、言いながら

嬉しそうに みんなでメニューを見ている。


「いいけど、帰ったら

お母さんの ご飯もちゃんと食べるんだよ」


まあ、このくらいの頃は

いくらでも食えるから心配ないか。



「それで、十字架のところから

侍みたいな人たちが出てきて

近くにいた人たちに近寄っていったから... 」


「十字架が 先に出たんだよね?」


十字架と霊は、同時出現ではないんだよな。


「そうです。侍たちが出て来るまでは、少し時間がありました。

僕たちは ルカさんに言われた通りに、すぐに

このお店に入ったから大丈夫だったけど

外では取り憑かれてしまった人たちもいて... 」


「もし、女の人が河まで引き摺られたら

警察に電話しよう って話してました」


「そうだね、正しい判断だ。

君たちが見ていてくれて助かったよ」

ジェイドが ほめると、へへっと照れている。


しかし、十字架が先に出たっていうのは何だろう?

前神父のノートにあった “歴史の記憶” ってやつなんだろうか? 30年前にもあったっていう...


「お祓いしたのは、ルカさんと神父さんですよね?」


「ああ、うん。仕事だからね」


また、すげぇ! 初めて見た! と

テーブルが騒がしくなるが

ちょうど ピザとデザートが運ばれてきた。


「海水浴場の方もなんですか?」


ん? 海水浴場?


「えっ、何それ?」


皿からピザ取りながら聞き返すと、ネットで話題になっているという。


「海に十字架が立って、ちょんまげに袴の霊が出た って、噂があって」

「そんなに遠くないところだから... 」

「男の人二人が、お祓いしたって」

「今は もう出ないみたいで」


ふうん...


「いや、オレたちじゃないよ。

他の祓い屋さんだろうね」


他の場所でも同じことがあったのか。

やっぱり棄教を迫ったんだろうか?


でも、なんか霊自体は念が弱いんだよな。

十字架につられてきた感じする。

本人たちも よくわかってなかったし。


「こういうことって、よくあるんですか?」


さっき、ぼそっと言った子が

また ぼそっと聞く。


「答えるのが むずかしいね。

ないこともないから、オレは仕事にしてるけど

だからって 日々気にして過ごしてる訳じゃないし、あんまり考えない方がいいよ。

女の子のこと考えてた方が楽しいと思うぜ」


そう答えると、今度は 一様に照れ出した。

へへっ て感じとは違うみたいだな。


「もし、何か こういう怖いことが起こったら

どうしたらいいですか?」


「すぐ連絡してくれたらいいよ。

普段は お守りを持っておくのもいい。

むやみに怖がることはないけど、絶対に

自分から そういう場所に近寄らないこと」


ピザ食い終わって、ジェイドと椅子を立つ。


「じゃ、オレら帰るけど

あんまり遅くならないように帰りなよ」


ヘルメットを持ったままだった子からヘルメットを受け取り、会計用紙を持ってカウンターへ向かうと

「ごちそうさまでした」

「ありがとうございました」と、口々に言う声が聞こえる。


手を振って店を出て、バイクに跨がると

また店のガラス越しに手を振っている。

軽く手を振り返して、バイクを出した。




********




翌日。


ジェイドの家で、パンやパスタを食べている。


「探検の前には、炭水化物がいいらしい」


そして 少し胃を休めると、オレらは いよいよ

探検衣装に着替えた。


スポーツ用のインナー上下を身に付け

その上につなぎを着る。どちらもヒッコリー。

オレは白に青いラインのベーシックなやつ。

ジェイドは黒に近いグレーに白っぽいグレーのライン。


厚手の靴下を履き、ベルトをつける。

ベルトには手持ち用のライト。


チョコレートバーと 透明の防水ポーチにスマホを入れたものを、ザックに詰める。


「待て。水もいる」


「あっ、そうじゃん! 危ね。

ザックに まだ余裕あってよかったよな」


ペットボトルの水、500mlのを二本ずつ詰めると

それぞれザックと手袋、穴を降りるためのワイヤー梯子を持って、登山靴を履いた。


見た目は なかなかな感じ。

ヘルメットのライトも しっかり点くことを確認する。


「じゃ、行くか」


「そうだな。教会で祈っていこう」


教会には、助祭の本山くんがいた。


「あっ、ヴィタリーニ司祭、氷咲くんも。

おはようございます」


「本山神父。おはようございます」

「おはよー」


本山くんは、オレらと歳は変わらんくらい。

神学校を出て、この教会に隣の区から助祭として通うことになった。


「なんだか、すごい出で立ちですね」


「本山神父。僕は今日、教会を留守にします」


しょっちゅう留守にしてるけどな。


「ああ、何か不可思議なことが起こっているという噂は聞きました。そのことでしょうか?」


噂になってるのか... 本山くんが言うなら

協会や神父たちの間でも ってことだ。


「それに類することだと思います。

まだ推測ですが...

もし僕らが 明日の夕方まで戻って来なかったら、捜索願いをお願いします」


「えっ!」


いや、マジで やばい時はハティ呼ぶし。


「ああ、それと... 」


ジェイドは 朗読台の下の薄い引き出しから

何かの鍵を取り出して、本山くんに渡した。


「これは、告解室の裏の鍵です。

四畳ほどの広さですが、物置を改装しました。

エアコンと冷蔵庫とテレビを置いてます。

テーブルとソファーベッドもありますので

休憩なさる時に使ってくださいね。

教会のインターフォンを鳴らされたら、その部屋にいても わかるようにしてあります」


ちょっと前に、なんか業者さん来てると思ったら

そんなの用意してたのか...

気が回るっていうか、ぬかりないよな。

教会の修繕の経費で落とすんだろうな、これ。


「わぁ... ありがとうございます。

ヴィタリーニ司祭、氷咲くん

無事を祈っております。

教会は安心して おまかせください」


ジェイドは、本山くんの肩に ぽんと手を置いて

教会を出た。

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