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万象  作者: 桐崎浪漫
第二章 「花の名前」(ルカ)
56/620

21



さて、やるか...

家に着くと、意を決して 庭に回った。


この藪を片付ける。ついに。


買うだけ買っておいた軍手をつけ、とりあえず背の高い草を 手当たり次第に引っこ抜く。

一時間ほどで草の山が出来た。腰、痛てーし...


でも、除草剤は禁じ手だ。

なぜならオレは種を買ったから。


背の高い草がなくなると

なんとなく藪ではなくなった。


あとは、成長しつつある残った草を やっちまわなければならない。

しゃがんで ちまちま抜いていると、背中にも顔にも汗がにじんだ。


やめようかな...


いや、やる。

今日のオレは やれるはず。

根拠はないけど。


それから 一時間半ほどで、庭はその全貌を露にした。

けっこう広いんじゃん。

いや、そんなこともねーか。


仕上げに、小さな花壇にミントとクローバーの種をばらまき、ホースで じゃばじゃば水を撒くと

汗だくのシャツを脱いでシャワーを浴びた。

身体もスッキリすると、達成感で気持ちも軽くなった。


スマホに着信が入る。

ヒポナだ。


『············』


「ごめん、ヒポナ。

なんかバタバタしてたし」


『琉地から聞いていた』


なら いーじゃねーかよ、と

言おうとして やめといた。


『おまえは、心配だけかけておいて

報告もせず... 』


「いや、ごめん!

本当に悪かったって」


散々謝ると、詳しい話をした。


「... 神父は、助からなかったんだ。

呪いは解いたのに」


話している内に、達成感とかは消えて

重い何かが 胸にのし掛かった。


『星が ひとつ生まれた』


ヒポナは言う。


『そう考えろ。神父は、寿命を迎えただけだ。

おまえが関わろうが関わるまいが、運命は変わらない。そのような軽いものではないからだ。

神父の死因は何だ?』


医者は、老衰だと診断した。


『そのとおりだ。

俺には おまえ以上に、星の動きが見え

精霊の声が聞こえる』


オレが黙っていると、ヒポナは続けた。


『神父は、人生に悔いはない。

おまえの妹が救われたことを心から喜んでいる。おまえや、おまえの従兄弟が尽力したことも。

神父は清い』


... ジェイドが 従兄弟だとは言ってない。

イタリアから来たエクソシストが祓った、と

ヒポナには説明した。


『俺には、死者の声が聞こえるのだ』


ヒポナは 皺が刻まれた顔をしかめた。


『これを伝えたかったが

おまえが 一向に連絡しなかったため... 』


「うん、ごめん。マジで」


『まあ、いい』と

ヒポナは ため息をついた。


『もうひとつある。何かが迫っているぞ。

それは、おまえに危害は... 』


そこで スマホの電源が落ちた。


あれ? 充電あったよな?

電源ボタンを押しても、反応がない。


仕方なく、パソコンを起動しようとしたが

こっちも電源が入らない。


おかしいな...


いつの間にか琉地がいて

空中に向かって唸る。


「琉地、なんかいんの?」


その時、オレは全身の毛が逆立つのを感じた。


なんだ、これ...

オレは恐れているのか?


琉地が唸っている空中に、何かが形を成した。


「一時的に、それらは

使用不可にさせてもらった」


艶のある声が言う。


漆黒の牡牛の頭に、カーブした長い角

角の先が 金に光っている。

頭と同じに 漆黒の引き締まった人の身体を持ち、背には漆黒の両翼がある。


悪魔だ。


グラムなんかとは、比べ物にならない

気配でわかる。


「我が名は、ハーゲンティ」


そいつが言うと、オレの頭には

魔法円が浮かんだ。


H A A G E N T I...


魔法円の 二重円の中に

時計の文字盤のように書いてあった文字。

時計回りに読むと、ハーゲンティだ。


「呼び出す気はなかった」


悪魔は それには答えず

「妹君に憑いたのは、我が配下の者だ」と

言った。


あ? ... なんだと?


何しに来やがったんだ、こいつ

よくもまあ、のこのこと...


「非礼を詫びに来た。

大変、申し訳ないことをした」


は?


一瞬、思考が停止した。

今、なんて言った?


「グラムは このところ、姿を失せていた。

地界を離れ、こんな極東の島国にいたとは...

しかし、我の管理不足だ」


悪魔は オレに頭を下げた。


「グラムは厳重に処罰を与えている。

ついては、契約外のこととして

何か望みを叶えよう」


「消えろ」


オレは言った。


「それが望み」


悪魔は オレの眼を見つめる。


「明日、もう 一度ここに来るがいい」


そう言って消えた。




********




実家に帰ると、ちょうど

ジェイドとリンも帰宅してきた。


「私もワンピース買っちゃったぁ」


紙袋の数を見ると、ワンピースだけではなく見える。ジェイドもでかい紙袋をいくつも...


「ルカ」と、財布を返してきたけど

「足りない分はカードで支払ったよ。ありがとう」と、普通に言う。財布は空らしい。


「どう いたしまして... 」

父さんとこで 営業のバイトするかな...


「夏休みのイタリアに行きは、このワンピースにしようかなぁ」


ん?


「リン、おまえ

イタリア行くことにしたのか?」


リンは オレに、きょとんとした顔を見せた。


「ニイ、何言ってんの?

お盆前に行くって言ったじゃん。

ねぇ お母さん、見て このスカート!」


ジェイドが オレに目配せしたので

二人で2階へ上がった。


「どういうことだ?」


ジェイドは「わからない... 」と言いながら

話し始めた。


「買い物の帰りに、カフェに寄ったんだ」


それまでは買い物中も、リンは 外にいるのが不安そうな顔をしていたらしい。


「僕は、トイレに立った。

トイレから戻ると、明るい顔をしていた」


ジェイドが その変わりように引っ掛かり

それとなく話してみると

リンは、学校を休んでいるのは病気で入院していたせいで、ジェイドは見舞いがてらに

日本に遊びに来た ということになっている。


「憑かれたことが すっかり記憶から抜けているんだよ。良いことかもしれないけど、不自然だ」


ハーゲンティ か?


さっき、家であったことを

ジェイドに話した。


「なんだと?」


ジェイドは 顔を険しくした。

「よくも のこのこと... 魔神であろうが送り返してやる。明日は僕も行く」


「魔神? ただの悪魔とは違うのか?」


「ハーゲンティは、33の軍を持つ総裁だ。

ソロモンの序列48番。練金術が使える。

いうなれば賢者であり、地界を束ねている。

本当にハーゲンティなら ね。

どちらにしろ、忌々しいけど」


ジェイドはそう言うが、何も悪いことはされていない気はする...

オレは さっきの、楽しそうなリンの顔を思い浮かべていた。


「... けど、リンは

一生もののトラウマから免れたぜ」


「いいや、裏があるに決まっている。

見極めなくては」


仕方ないよな、こうなるのも。

ジェイドはエクソシストだ。


翌日、昼飯食って

ジェイドと実家を出た。

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