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万象  作者: 桐崎浪漫
第一章 「狐」(泰河)
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「白蘭... 」


浅黄が 女に言う。


白髪の長い髪に白銀の着物、銀の帯の女は

大きな黒い眼の幼い顔つきをしている。


女は、榊に「それを持って参れ」と

白い手のひらを差し出した。


「これは... 」


榊は 宝珠を手に握りしめた。


「誰の宝珠か、申してみよ」


榊が立ち上がり、白蘭に問うが

白蘭は榊を見つめたまま黙っている。


「言えぬか?」


榊が白蘭の方へ踏み出した時

白蘭は差し出していた手を、握り締めて上げた。


一瞬だった。


榊が腰に差した刀が、独りでに

鞘を離れて宙に浮く。


白蘭が手を振り下ろすと

白金の刃は月明かりに濡れて閃き

榊の首が落ちた。



********



耳鳴りが、虫の音を止めた。


目の前で起こったことが

理解できない。


狐に戻った榊の、クリーム色の毛並みが

月明かりに照らされて...


オレは、榊の刀を 地面から取った。

白金の刃は緋に濡れている。


「泰河、下がれ... 」


オレの前に出ようとした浅黄に

とっさに その刃を向ける。


瞬間、浅黄が怯むと

一気に走った。


「何じゃ? 人風情が... 」


耳鳴りの向こうで、鈴の音のような耳障りな声が

クスクスと笑う。


白蘭の前に辿りつくと

肌に電流のような ひどい痛みが走ったが

構わず、血に濡れた刃で胸を突く。


耳鳴りが止まった。


鈴の音のような声は

耳をつんざくような叫びに変わる。



あぁ うるせぇなぁ


まったく


「お前、われの結界を... 」


知るか


白髪の女は胸を押さえて身を捩る。


どうせ死なねぇんだろ?

このくらいじゃ


時間かけて やってやる


身を捩る女を蹴り倒し、馬乗りになると

首を左手で押さえつける。


右手で胸から刃を抜くと、血が搦々と溢れ出てきた。


そのまま刃を女の左眼に突き立てる。


また けたたましく叫び出したが

まだだ


お前も 首と胴体に分けてやる。


オレは、下にしたその女と

眼を合わせた。


「見たか?」


まだひとつ 眼ぇ残ってるだろ?


「おまえをやるのはオレだ」


首を押さえていた左手を離し、左眼に突き立てた刀を引き抜くと

右手に柄を持ったまま刃を女の首に宛てる。

左手は刀身の背に置いた。


このまま、ゆっくり

押し斬ってやる...


ゆっくりだ


左眼と胸から血を溢れさせ

がちがちと歯を鳴らす女の首の刃に力を入れた時、静かな風が吹いた。


誰かが、刀の柄を握るオレの手を包む。


柚葉ちゃん だ


柚葉ちゃんが 首を横に振る。


知らぬ間に オレの両腕は黒く染みていた。


柄を握るオレの手の力が緩むと

そこから黒い靄が立ち昇り、夜気に溶けていく。


柚葉ちゃんは オレに微笑み、薄れて消えた。


「泰河!」


気を抜いた途端に、また

肌に電流のようなものが走ったかと思うと

眼に見えない何かに弾き飛ばされて転がった。


朋樹が駆け寄って来る。


「大丈夫か?

おまえ、こんな... 」


オレが起き上がろうとするのを助ける朋樹の手は震えていた。


血にまみれた刀を握ったままのオレの手も震えていたが、急に笑い出したい衝動に駆られる。


「こんなことをしても、榊は... 」


言うな


わかってる

わかってるから...



「いいや。よい」


背後の声に振り向くと、玄翁がいた。


「よいのだ、泰河」


突然 何かが胸に込み上げてくる。


身体中の力が抜け

握ったままだった刀が指から落ちた。


花火と あの笑顔。


... 榊


どうしようもない気分だ



「さて、説明してもらおうかのう」


玄翁の手には 真珠色の宝珠があった。

榊が、握っていたものだ。


白蘭は 胸の刺し傷に手を当てながら

ゆっくりと起き上がり、玄翁を睨む。


玄翁は、まだ立ち上がれないでいたオレの前に立った。


「言えぬか? 藤よ」

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