表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万象  作者: 桐崎浪漫
第四章 「伴天連」(泰河)
103/620

22


「良いか? 勝てると思うな」


石畳の向こうの教会の灯りを見ながら

ハーゲンティの言葉に頷く。


アリエルが また一歩踏み出すと

黒く渦巻く雲の向こうで雷鳴が響き

一瞬、空を明るくした。


アリエルの足が教会の門を越え、石畳を踏む。


... よし、溶けてない。


またアリエルが 一歩 足を出すと

地を揺らすような雷鳴と共に、カッと眼の前が明るくなった。


教会の中から、次々と何かが割れるような

鋭く固い音がすると

扉の中もステンドグラスも、外と同じ闇の色になる。


教会内の照明が すべて割られたようだ。


アリエルが 立ち止まった。

教会が灯りを失ったせいか...


ハーゲンティが 指を弾くような動作をすると

アリエルが右手を開き、あの3センチ四方程のガラスが石畳に落ちる。


「ルカ、拾って持って来い」


ハーゲンティに言われ、ルカが ガラスを拾いに行くと、ハーゲンティは 元の姿... 先が金になった 二本の角を持つ牡牛の顔に、黒い両翼を持った 魔神の姿に戻る。


「それを しっかり持て。離すな」


指示されたルカが 右手にガラスを握る。


「まだ教会の中には入るな。扉の前に立て」


ルカが頷き、教会へ向かおうとオレらに背を向けると、ハーゲンティが その背を掴み

「いいか、死ぬなよ」と、ルカを投げた。


「ルカ!」


駆け込もうとしたが、ボティスに腕を掴まれる。


「雷光に射たれぬためだ」


ルカは教会の入り口近くまで投げ飛ばされ

地面に激突し、ゴロゴロと何度か回転して

やっと止まった。


落ちる時に両腕で頭を庇っていたので、気を失ってはいないようだが

両手で上半身をなんとか起こし、立ち上がるのに苦労している。


「ハティ... 覚えてろよ」


ルカは 片足を引きずりながら

教会の扉に辿りつくと、開いた扉の前に立つ。

憎まれ口が叩けることに 少し安心した。


立ち止まっていたアリエルが、教会へ

また 一歩、足を踏み出す


「ルカに持たせた物が灯りの代わりになるが、

さて... 」


アリエルは 闇の中にいる。

目指す教会の灯りがなければ、進む方向もわからない。


また雷鳴が鳴り響き、ルカの目の前に

白い光が落ちた。


割れた石畳から、うっすらと煙が上がっている。


続けざまに ひどい音を立て

石畳の中程と アリエルのすぐ手前に光が落ちた。


アリエルが 歩みを躊躇する。


雷光の強さに、小さなステンドグラスの灯りが霞むようだ。


「泰河、行け。

アリエルの手を取り、先導しろ」


手が取れるのか... ?

アリエルはもう、霊性だけのはずだ。


「アリエルは お前に、別の灯りを見いだした。

あのガラスも お前から作り出した物だ。

いいか? 立ち止まるなよ」


ところかまわず立て続けに雷光が走り

石畳を割り、芝生を焼く。


オレは門に踏み入り、少し前に佇むアリエルの手を取った。


水 みたいだ...


手の中で、指や手のひらの形をした何かが

流動している。

温度も感じないが、確かにある。


目の前が真っ白に発光し、足のすぐ近くに衝撃を感じて思わず身が縮むが、足を踏み出す。


黒く渦巻く空の下。

恐ろしい音を立てて 所構わず落ちる光は

時々、眼前に教会の影を浮き上がらせたが

それは まだ遠く、いつまで石畳が続くのかと

一歩 踏み出すごとに 焦燥が増す。


前に立ち尽くすルカも 肩で息をしている。

まるで ここが地獄のようだ。


すぐ後ろ、今いた場所にも光が落ち

音が鼓膜や視界を揺らす。


指先が冷たくなるのを感じる。

機械的に踏み出す足は、本当にオレの足なのだろうか...


「待て。そこに留まれ」


ハーゲンティの声だ。


雷鳴の合間に、背後から聞こえた。


立ち止まろうとして

ふと、扉の前に立つ ルカを見る。


ルカは、オレと アリエルしか見ていない。


深呼吸をし、足を前に出す。


「おい、混血! 変更だ、戻れ!」


ボティスが呼ぶ声。


身体中 響かす雷鳴と落ち続ける白光はやまないが

今度は、ルカの顔が影になって見えない。


「おい、聞こえてるのか?

我等は入れんのだぞ! 戻れ!」


ボティスの声。


本当に 変更するのか?


... いや、でも 空の黒雲は引いていない。

ハーゲンティは 立ち止まるな と言った。


「泰河、ルカも連れて戻れ」


ハーゲンティだ。


どっちだ?


真横に白光が光り、躊躇して足が止まる。

焦りで呼吸が速くなっていく。


呼吸のせいか、外界の音が止んだ。

指が痺れ、頭の芯が冷たくなる。



手の中に温度を感じた


「... speranza」


アリエルの声だ。


「あなたは、わたしを見つけた」


麻痺しそうになっていた何かが、胸の中に微かに湧き起こる。


隣にいるアリエルは、青い眼でオレを見上げ

微笑んでいた。

胸で溶けた時のように。


天に戻す。必ず。


冷えた指先に血が流れ込むのを感じる。

雷鳴と共に外界の音が戻った。


「泰河! 早く来い!」


ルカが叫んだ。


オレは、アリエルの手を握り直すと

前に歩を進める。


足の裏にしっかりと、石畳を踏む感覚を感じながら。


さっきのあの声...  サリエルなのか

ハーゲンティなのか、ボティスなのか


それとも、オレなのか


だがもう、惑わされない。

白い光に射たれることもない。絶対に。


信じろ。あと少しだ。


暗闇の中でも、ルカの表情が見えた。


「よし、入れ」


開かれた扉の前にいるルカと並んだ時、後ろから首を掴まれた。


「ハティ!」


ルカが言った時、アリエルと手が離れた。


後ろに首を引かれながら、アリエルの背中を強く押す。


... 入った


艶やかな黒髪が、プラチナブロンドに輝いていく。


「留まれと言ったはずだ」


耳のすぐ傍で 声がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ