65.別の店を紹介してくれ
「おすすめは美味いから安心してくれ」
「ああ、助かる。たまにしか来ないって割りには常連のようじゃないか」
「ここの依頼よく受けるんだよ。採取系のな」
「魔物を狩って卸してるのか」
「いやいや、薬草採取だよ」
「薬草? 薬膳料理の店なのか?」
「薬膳料理ってのは良く分からんが。あー、薬草ってのとは違うか。なんか葉っぱを採ってきて欲しいって依頼なんだ」
クーディの話を聞いたユーリは、なるほどハーブか香味野菜の採取かと思っていた。わざわざ依頼するくらいだ。そのぶん値段に響くのだろう。
クーディ達のような中堅レベルの冒険者がやるような仕事では無いと思ったが、それを平然と確実にこなしているから信用が有るのだろう。
改めて見回すと、客はそれなりに裕福そうな連中だった。一見して冒険者と分かるような者は彼等七人しか居ない。
「この店はある意味穴場なのさ。見栄っ張りな冒険者は金が入ると、表通りの店に行くんだけどな。あの手の店も不味くはないが、料金に見合うかと言うとな」
「ああ。ショバ代、いや取得時の対価や地税が高いから、その分が値に反映されてるのか」
「詳しいな。いや、冒険者なんてそんな事も分からない奴が多いんだが」
冒険者と言うのは、やはり無学な者が多いのだろう。脳筋と言うべきか。
十歳やそこらから始める者もいるのだ。やはり教育を受ける余裕が無い者が多いのだろう。
たぶん識字率もそんなに高くない。現代地球でも識字率が五割を下回る国があるのだ。
ギルドの受付係が多いのは口頭での説明のためだ。
掲示板に貼られる依頼は、それを読めるような冒険者だけが対象になるのだ。
それに現代でも原価に拘る者がいる。材料費だけを考えるのだ。
その材料を使って物を作る職人や販売員の費用。それを売る場所に掛かる地代や税金。維持するための光熱費や補修費。宣伝費やその他も全部無視するのだ。
アルバイトの一つでもしていれば、高校生ですら分かりそうな事だ。
そんな考えを持つのは、小中学生か働いた事の無い引き篭もりくらいだろう。
少しして食事が運ばれて来た。
スープとステーキ、そして黒パンである。一汁一菜が基本のようだ。
クーディ達は美味しそうにそれらを食していた。
ユーリ達も続いて食べ始めた。そしてその味に驚いた。
黒パン、ライ麦パンは固くて当たり前だと思っていた。スープでふやかしながらでないと噛めるような物ではないと。
しかし、出されたパンは柔らかかった。もちろん小麦を用いた白くてふわふわで粘り気もあるパンとは比べられない。
それでも、そのままで食べれるのだ。たぶん焼きたてなのだ。毎朝パン屋から購入しているのだろう。
スープもしっかり出汁を取り、依頼で入手した香草をふんだんに使っているのだろう。複雑でしっかりした味が出ている。
ステーキも香辛料こそ使われてないが塩が効いている。付け合せの香草と順に食べる事で、ただ焼いただけの肉では出ない味になっていた。
ユーリ達の舌でも十分満足出来る味だ。確かにこれなら通常より高い値でも食したいだろう。
昨夜の薄塩串焼きはなんだったのかと言いたくなる。
食事を終えた彼等は満足そうに一息ついた。
クーディに尋ねると普段使う店では、いつ作られたか分からない硬い黒パンと、塩の味しかしないスープ、屑肉を焼いた物だそうだ。もしくはパンの代わりに大麦を煮込んだ雑炊のような物か。それでも栄養だけは十分に取れる。
食事と言うより餌と言った方が良いと自嘲気味に言っていた。
ユーリ達が朝はこれから毎日ここだと言うと、クーディ達は焦っていた。さすがに毎朝四エノツはキツイと思ったのだ。普段ワンコインで食えるファストフードに通う者が、ちょっとした専門料理屋に毎日行くのに近いのだろう。
ユーリが差額分三エノツを出すと言ったが、逆にそれはと渋っていた。依頼料の上乗せという形でユーリ達が持つ事を無理に納得させた。
ユーリ達はこの世界で食事に金をケチる気は無い。現代ではファミレスだの回る寿司だのと言っていたが、食文化が劣るこの世界でそれをする気は無いようだ。
「奢るよ。俺が美味い飯を食いたいんだからさ。付き合ってくれよ」と、まるでクレバーな王子のような物言いだ。
「それで、これからどうするんだ」
クーディがユーリに問いかけた。
案内と護衛と言う名目の監視任務を引き受けたのだ。今後の行動が気になるのだろう。
「情報収集だな。俺達のように魔法で跳ばされた者がいるのか、それがどんな魔法だったのか。その辺りからだな」
「どうやってそんな情報を手に入れるんだ」
「公的機関を当たっても良いし、ギルドに依頼を出す手もあるさ。だから換金屋を教えて欲しいんだが」
「いや……それは」
クーディはギルド長がそれを止めていた事を思い出して言葉を濁す。
換金屋に幾つか心当たりはあるが教えていいものかと。下手な物を出されると目を付けられるのではと。
香辛料を四イルも出されると五千エノツを越える。だがその量でも取り合いになるだろう。さらに持っているなら。
「ああ、香辛料を換える気は無い。砂金や宝石の原石なら問題ないと思うが」
そう言ってユーリは、五十グラムほどの砂金と小さな石を見せる。もちろん周囲には見えないように。
それらを見てクーディも納得したようだ。それらならせいぜい二百五十エノツだろう。合わせても五百エノツで、自分達の今回の護衛依頼の報酬の総額より少ないくらいだ。街に混乱を引き起こすような物でもない。
なるほど高位冒険者だけの事はある。普通に換金できる物も持ち歩いている。
もちろん見せたのは事前に荷物の一部だけを抜き取った物だ。換金できそうな物の全価値を知られでもしたら、盗賊団規模の者達がひっきりなしに押しかけて来るだろう。
彼等は女将にしばらく毎朝通うことを伝えて、席を用意するように頼んだ。
それから店を出て、クーディ達の案内で最も近い換金屋に向かう事とした。
どうやらこの少し先にあるらしい。そのまま裏通りを進んで行く。
裏通りとは言えども、表通りのような石畳で無いだけだ。下水道は完備されているし、乾季のためか地面も乾いている。
これで中世ヨーロッパのようだと、とんでもない事になっていただろう。
クーディの案内で換金屋に入った。
裏通りにひっそり佇む小さな店である。一見人の良さそうな店主が出迎えてくれたが、クーディ達に気安く話し掛けたりはしない。
ユーリが店主に砂金の入った袋と石を見せる。
砂金の方は中身を見て軽く袋を手に取って重さを量っていただけだが、石を見ると少し様子が変わったようだ。だがそれを抑えるようにユーリに告げる。
「そうですね。合わせて五百エノツで如何でしょう」
「……クーディ、別の店を紹介してくれ」
ユーリは即座にクーディに向かう。
クーディは急に何をと言うようにユーリを見る。自分もその程度の値だと思っていたからだろう。
「何か問題があったのか」
「この人はろくな目利きが出来ないようだ。ルビー、紅玉で分かるか? 原石とは言え、その値で売る馬鹿はいないぞ」




