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55.チュートリアルかもねえ

 前の世界での出来事は夢ではなく、実際にあった事なのだ。

 僅か四日間の思い出、エルイやネカハとのやり取りや約束。なかったことにしてはいけない。

 ライ麦パンケーキの件も伝わっている筈だ。エルイがトロナ石が採れる場所を発見できるか、砂糖の代わりを見つけられるかは分からないが。

 フィルヴィの盗賊団のアジトからせしめた財物は、エルイに預けたままだった。バワの商会で換金してもらう為に馬車に積んだままだったのだ。

 まあ、無くても問題ではないだろう。

 彼等は砂上に散らばった武具を装備していった。


「ならば、次はスキルが使えるかの確認だな」


 言うやいなやエイティは立ち上がり三人に背を向けて、指鉄砲を離れた砂浜に向けた。

 指先から熱線が走り、ジュンと言う音が響く。離れた砂浜の一部に穴が開いていた。その穴の縁は高熱により真っ赤になっている。


 それを確認すると左腰の短剣を引き抜いた。即座に逆手に持ち替えて、自分の左手の甲に突き刺す。短剣の刃は指を横に伸ばした手に垂直に突き立っっていた。

 手の甲の骨、中手骨も確実に傷付いている。折れていてもおかしくない。

 左手が弾かれもしないのは何らかの武術系スキルを使用しているのだろう。

 そのまま左手の指を動かし、手の甲から剣を引き抜いてユーリに声を掛けた。


「すまないが頼む」


 その瞬間三人が立ち上がった。

 三人は口々に自分の思いをエイティにぶつけた。


「おい!」

「無茶しないで欲しいねえ」

「馬鹿な真似しないでよ……」


 ドーリは怒声、ゴローは呆れが混じった声、ユーリは悲しげな声だった。

 だがユーリは回復魔術を行使したのだろう。エイティの手は治っていった。

 ドーリはエイティに近付くとその胸倉を掴み上げて怒鳴った。


「言ったよな! お前一人で背負い込むんじゃねえって!」


 エイティはドーリに胸倉を掴み上げられて少し爪先立ちのような姿勢だ。

 しかしドーリの目をしっかりと見据えて答えた。


「分かっている。だが、これが俺の性分だ。何かを試すなら俺が最初にやる。これだけは譲れない」


 しばらくの間ドーリは胸倉を掴んだままエイティを睨み続けた。

 しかし諦めたように手を離す。そして小声で呟いた。


「ったく。お前がそういう奴なのは分かっていたけどよ」

「すまないな」


 エイティが心からであろう思いのこもった謝罪を述べる。

 ドーリの背後で立ち上がったいた二人もそっと呟いた。


「あの性根は変わらないようだねえ」

「エイティ……北野らしいとは思うけどね」

「お前たちにも心配かけたな。すまない」


 エルイはゴローとユーリにも素直に謝った。それから改めてスキルの使用感を話し出した。


「見ての通りスキルは使える。魔術系も武術系もな。ユーリの回復も問題ない。骨折も治癒できるのは間違いない。ただ骨折での痛みは無いが、やはり動かすのに少し影響は出るようだ」


 とにかくスキルが使用できる事は確認できたようだ。エイティ以外の三人に呆れられながらも。

 魔術系も武術系も、さらに回復系も使うのに問題ない。

 ただ魔術系スキルが使用可能なのが気になっていた。

 前と同じ世界なのかは不明だ。だがこの世界も魔法がある世界かもしれない、と考えられるからだ。

 エイティの説明が終わると、少し考えてユーリが三人に声を掛けた。


「続きである事もスキルが使える事も確認できたよね。じゃあ次はここがあの世界か別の異世界かの確認になると思うんだけど」

「なら、さっさと森に向かおうぜ」

「矢の影の長さからもまだ午前中っぽいし、時間の余裕もありそうだねえ」

「どうせここはスタート地点だろうしな。ここに居ても無駄だろう」


 三人ともこの砂浜で過ごすつもりは無いようだった。

 季節が異なっているなら、野営したところで星空での確認が出来るとも思えない。月が出るかも分からなければ、星の位置関係もろくに分かっていない。

 まだ目の前の森が、あの魔の森かを調べるほうが手っ取り早いだろう。前回は数時間も森を彷徨ったのだ。植生もある程度は把握している。


 四人は砂浜を森の方に進み始めた。

 森に届いた所でゴローが声を上げた。


「落葉樹の腐葉土だなあ。やっぱりあの魔の森なのかねえ」

「僕もそんな気がするよ。生えてる樹も同じ種類のようだしね」


 ユーリも森を眺めながら肯く。

 それを聞いた残りの二人は安心したようだった。

 少なくとも樹の種類が全く異なる世界ではないらしい。

 そして隊列を整えて森の中に進入していった。

 だが今回はゴローだけを前に離してはいない。二メートルほど前に立って進み続ける。

 どうせここに彼等を送り込んだ者が気を利かせてくれているだろう。安全に森を抜けられるように。もっともゴローは警戒を疎かにしてはいないが。

 森の中を進みながら彼等は話し始めた。


「それで今回のこの状態どう思ってる?」

「んー、前回のって練習だったのかなあ。チュートリアルかもねえ」

「ミドルで盗賊との対人戦、ラストは魔獣の群れ。さして苦労する相手でも無かったしな」

「世界の基本を教えるってか」


 ゲームにおけるチュートリアルとは基本操作などを教えるプログラムを指す。動き方や武具の使い方、魔法の発動方法などを練習するために行うものだ。

 相手も弱く、余程の事がない限り倒れる事も無い。

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