54.状況は何も分からないな
「なっ、ぺっ、砂か」
うつ伏せに横たわっていたエイティが砂を吐き出しながら呟いた。
そしてゆっくり体を起こし立ち上がる。
最初に目に入ったのは砂の上に仰向けで横たわる三人の姿であった。
一人は金属鎧を、他の二人は似たような革鎧を着ている。
金属鎧の男は肩から伸びている白いマントの上に大の字になっている。横には大盾とハンマー、背嚢や布袋が転がっている。
片方の革鎧の男の傍らには円盾と短槍が転がっている。
もう一方の革鎧の男の側には短弓と矢筒が転がっている。
共に金属鎧の男と同じように近くに背嚢やずだ袋が転がっていた。
立ち上がったエイティはしばらく彼等を眺めた後、自分を見つめた。
フードのついた黒に近い濃い灰色のローブを着ている。ローブの下は生成りのシャツとズボンだ。見下ろした砂の上には短剣と背嚢や布袋が転がっている。
自分の姿を確認した後に辺りを見回す。
空は蒼く澄み渡り雲ひとつ無い。穏やかな陽気で風も吹いていない。
横たわった三人の方向五十メートルくらい先から森が始まっている。
背後を振り返ると五十メートルくらい先に水面が目に映る。うっすら潮の香りもする。
百メートルの幅がある砂浜の真ん中に倒れていたらしい。
再び倒れている三人を眺め、彼等を起こそうかと考え始める。
その時倒れていた男たちが気付いたようだった。
「あ?」
「なにこれ?」
「砂?」
彼等は身を起こし座った状態で辺りに散らばっている武具に目を移す。そして自分の身体を見つめ始める。
その後お互いを眺め始めた。そしてようやく気付いたのか先に起きて立っていたエイティに目を向ける。
「俺もお前達の少し前に気付いたところだ。状況は何も分からないな」
それを聞いた他の三人は特にがっかりした様子も無かった。予想はしていたのだろう。
ドーリが兜を脱ぎながら声を上げた。
「あー、やり直しかよ」
「僕達何か失敗しちゃったのかな」
「メギョアを全滅させなくちゃ駄目だったのかもねえ」
ユーリが呟き、ゴローが砂浜に矢を突き立てながらそれに返す。
唯一立ったままだったエイティも腰を下ろした。
そして三人を見回しながら口を開く。
「その様子だと全員覚えているようだな。エルイもネカハもメギョアの事も」
三人が肯き返す。それを見たエイティも肯いた。
そして四人揃って大きな溜息をついた。
彼等が最初に考えたのが「ループ」だった。
彼等をここに送り込んだ誰かが、彼等の行動に満足出来ずにやり直しをさせようとしているのではないかと。
ゲームの途中で失敗に気付き、リセットしてやり直すような感じだろうか。
記憶を消してしまっては同じ事を繰り返すだろう。だから記憶を残したままにして違う行動をさせようとしているのではないかと。
だが、しばらくしてゴローが声を上げる。
「んー、やり直しじゃないかもねえ」
「うん。僕も違うような気がするよ」
周りを見回したユーリも同意していた。
そんな二人にエイティが問いかける。
「その根拠は?」
「突き立てた矢の影の動きが違うしさあ。森はたぶん南西方向だねえ」
「その森も春先って様子じゃ無いしね。晩夏って感じだと思うんだけど」
その言葉を聞いたエイティとドーリは、ふうと息を吐いた。
やり直しではなかったようだ。
彼等は同じ事を繰り返すのは真っ平だった。
初期状態が同じなら、今度はエルイに会わずに盗賊を殲滅しておく。村に潜入してネカハにも会わずに果樹林で待機する。そして襲い来るメギョア四十体は村から離れた所で退治して魔の森に向かう。
結局のところ繰り返しであっても、彼等はエルイやネカハを見捨てる気は無いのだ。しかし今度は誰にも知られずに事を成すつもりだった。
エルイに会わずとも、あの村に転移転生者が立ち寄った事が分かっている。その筋から探っていけば良い。
現地同行者が居なくとも、彼等は関所破りも城壁破りも平気でするだろう。
だが、どうやらその必要は無いらしい。いや、その手は使えない。
喜んで良いのかは判断できなかった。
「しっかし季節が違うってのはどういう事だ?」
「別の時間に送られただけかも知れないけどねえ」
「エルイやネカハが居たのとは別の異世界の可能性も考えられるな」
「でも、僕達の姿って変わってないよね。なら結局は中世ファンタジーな世界だと思うんだけど」
「とりあえずスキルのチェックはしておいた方が良いねえ。魔術が使えない世界かもしれないしさあ」
「それもあるが、まず持ち物の検査だな。あの世界を経験した続きなのか、それとも初期状態なのか。エルイから入手した穀物が有れば続きと見て良いだろう」
世界が一つとは限らない。
少なくとも彼等の元居た世界、魔法など存在せず分不相応な大きさの衛星を一つしか持たない世界。
そして魔法が有り複数の月を持つエルイやネカハの居た世界。
この二つの世界の存在は確実だ。ならば他にも世界がある可能性は高い。
彼等は別の異世界に送り込まれた可能性も考慮していた。
そして彼等は荷物のチェックを開始する。
すぐにドーリが、続いてゴローも声を上げる。
「麦も豆も残っているぜ」
「前に記したステータスや荷物の書き出しメモも有るねえ」
「どうやら継続で間違いないようだな」
「盗賊団のお宝は惜しかったかな。分けておけば良かったと思うよ」
エイティとユーリは話を続けた。
ただドーリの小声は皆にも聞こえていたようだ。「ならばネカハは無事なんだな」と安心したかのように呟いた声が。




