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51.相変わらず黒いねえ

 ドーリが最後に「ゼロ」を叫ぶが、相手が出てくる様子は無かった。

 ドーリは数歩進んで隠れている樹を射程に治めるとハンマーを振るった。

 樹は真っ二つに裂けて左右に倒れていく。樹を背にしていたためだろう。背中から血を噴出した男が転びながら大声を上げる。


「分かった。降伏する。助けてくれ」


 その男は立ち上がり両手を頭の上に組んで全身をこちらに向けた。

 ドーリの後ろからユーリも数歩進んで短槍を二度繰り出す。

 降伏を叫んだ男の両肩に小さな穴が穿たれる。十メートルも離れているのにだ。頭の上に組んでいた腕が解けて垂れ下がる。


「な!? なぜ……」

「言ったろ。十数える間に出てこなきゃ殺すと」

「ま、待て。全部話す。この計画の事も全て」

「俺等にとっては、そんな事はどうでも良いんだよ」


 ドーリが答えた直後に、ユーリが再び短槍を二回突き出した。

 その男の両膝にも穴が穿たれた。身体を支えることが出来なくなり跪くような姿勢になる。男の絶叫が響き渡る。

 なぜか辺りにいるメギョア達はもう襲ってくる気配が無い。さすがに彼等に敵わない事が分かったのか、もしくはテイマーの支配が解けて混乱しているのか。

 彼等は四人揃って男の側に近付いていった。

 ドーリが喚き続ける男に問いかける。


「お前がメギョアを操ってたのか」

「ち、違う」

「ポジティブ」

「ポジティブ」


 エイティとゴローが揃って呟く。

 フィルヴィの盗賊団の時と同じく嘘発見器の役割をこなしているのだろう。

 二人の答えを聞いたドーリが男に問い続ける。


「操っていたのは一人か」

「そ、そうだ」

「ポジティブ」

「ポジティブ」

「他にも同じ能力を持つ奴がいるのか」

「いない、いない筈だ。俺は知らない」

「ポジティブ」

「ポジティブ」


 答えている間は生きていられると思ったのか、男は素直に答えている。

 既に両肩と両膝が使えない。抵抗などしても意味が無いのだ。


「で、お前はこの国の者か」

「そ、そう……いや、違う」

「ポジティブ」

「ポジティブ」


 男は肯定しようとしたが、観念したように否定の言葉を発した。

 この男は気が付いたのだ。彼が答えるたびに何かを呟く二人の男が、嘘か真かを判別していることが。


 ここまで確認してドーリは仲間の三人に尋ねたことを話した。三人も他に訊きたい事はないようだ。

 実際彼等が知りたい事などほとんど無い。テイマーが居たのか、居たのなら何人か、それくらいだ。どこの国の者かは本来どうでもいいのだ。

 それでも尋ねたのは、この後この国で活動する際に影響が出るかも知れなかったからだ。国内犯ならこの先も絡む可能性があったが、他国の者ならどうでも良い。国家間の問題なら彼等が関わる事は無いだろう。

 国内犯であっても彼等は無視して、この国を立ち去っていたに違いないが。


「コイツはどうする」

「面倒だし、やっちゃって良いんじゃないかねえ」

「他国の者だと分かったんだし、エルイに任せても良いと思うんだけど」

「なら連れ帰るか。この国の拷問……尋問官なら吐かせる事も出来るだろうし」

「相変わらず黒いねえ」


 肩と膝を潰された男は聞きなれない言葉を話す四人を見つめている。

 痛みに呻きながら大柄の男が数えている間に出て行くべきだったと後悔していた。もう逃げるのは不可能だ。この場で殺されるのだろう。


 男は隣国の軍人だった。上層部がどこかから連れてきた魔物使いの見張りを命じられたのだ。

 相手が軍人なら自分の身分を明かせばそれなりの扱いを受けれたかもしれない。最終的には全部の情報を吐かされるにしても、無為に殺されはしないだろう。

 だが目の前の四人は冒険者のようだ。しかも異国の言葉を喋る者達だ。男の立場など考慮しないだろう。


 男は人並み以上の剣の技術と頭脳があった。だが平民であった。

 平民でも上官がまともなら認められて出世することもあるだろう。だが彼の上官は腐った貴族の典型とも言える者であった。自分より上位に立ちそうな者は潰すような者だった。

 なんとか別の上位の士官に訴えることで部署換えが認められたが、貴族連中に目を付けられ閑職に追いやられた。そこは腕も頭も不要な所だ。

 そして復帰条件として、この任務を押し付けられたのだ。


 陽動作戦といえば聞こえが良いが、魔物を操り隣国の無辜の民を襲い軍を誘い出す任務だ。成功したとしても誇れる任務ではない。

 既に祖国に対する忠誠も枯れ果てている。こんなことなら退役して冒険者にでもなれば良かったと思っていた。


「お前に選択肢を与える。ここで死ぬか、大人しく着いて来るか選べ」

「つ、着いて行く」


 向き直ったドーリが告げた言葉に、痛みに呻いていた男は慌てて肯く。

 ここで殺されてメギョアの餌になるのは嫌だ。行き先はたぶん村だ。どうせ殺されるなら人として死んで埋葬されたい。

 いや、全てを話して協力も惜しまなければ生き永らえる可能性もある。


 ドーリの訳した言葉を聞いたユーリが、男に近付いて脚の辺りを指差す。

 男の両膝に開いた穴が塞がっていく。男は脚の痛みが無くなっていくのを感じて驚いた顔でユーリを見上げた。

 そしてユーリは男の胸に向けて差した指を上げていく。両肩の痛みも背中の裂傷の痛みも無くなっていった。


「とりあえず歩けるようにはしてやる。腕は駄目だ。信用出来ねえしな。変な真似をすれば即座に殺す」


 男は再び肯き続ける。

 メギョアの群れの中心部だけを壊滅させた矢の雨、メギョアの群れを近づけさせずに屠り、離れた場所の木陰に隠れていた自分を樹木ごと切り裂く。そして三百ローは離れていた男の両肩と両膝に穴を穿つ。さらにその傷を癒した。

 この連中は途轍もない魔法の技量の持ち主だ。最早抵抗する気など起きない。

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