49.別に倒してしまっても構わんのだろう?
その後も彼等四人は森の奥に進み続ける。
そして数百メートル進んだところでゴローが停止の合図を送った。
「この先百メートル程にまとまった数が居るみたいだなあ。本隊かもねえ」
「なら熱源探知を行ってみるか」
「ある程度方向も分かってるんだし全方位じゃなくていいよね」
「人間のサモナーだかテイマーだかも居るかも知れねえんだろ。ついでに金属探知もやった方が良いんじゃねえか」
「そうだな」
そう言ってエイティはゴローの指す方向に向き直った。
だいぶ経ってから探知結果を報告する。
「半径三百メートルの円状に纏まっているようだ。中心直径三十メートルのみ百くらいの金属反応があったが、他の所はなさそうだ。全体個数は一万弱ってところか。魔獣がメギョアしかいないのは確実だ。推測になるがメギョアに比べて体温が低い点から、中心部に人間も居るようだ。そして数は三人しかいない」
「師団級だねえ。一万体も居るならサモナーによる召喚じゃなさそうだねえ」
「そうだよね。その三人が全員テイマーなのかな」
「三人なら他国のテイマー部隊って線はねえかもな。ってか、おかしくねえか。いくらなんでも三人は少なすぎるぜ」
探知結果を聞いた三人は推測を考え直していた。
人為的になされた行為なのは確実のようだ。中心部に人間が襲われもせずに居るのだから。
サモナーの可能性も消えたようだ。三人全員がサモナーであっても各々が三千体以上の召喚を出来る筈がない。
そして人数が少なすぎる。他国に潜入するのに大人数が厳しいのは分かるが、分隊規模、十人にも満たないというのも変である。
全員がテイマーというのもありえないだろう。貴重であろうテイマーを護衛も付けずに送り出すとは思えない。いくらメギョアが護衛代わりになるとしても、人間の護衛を一人も付けないとは考えられない。
「もしかしたら他国ではなくて、この国の反乱軍かもしれない。それが貴族によるものか人民が起こしたのかは不明だがな」
「言われてみたらそうだよねえ。クーデターの可能性もあったねえ」
「それでも人数少なすぎると思うよ」
「しかしそうなるとメギョアが金属武器を持ってるってこったな。奴等に金属精錬なんて出来る筈ねえし、どっかの人間から支給された物と見て良いな」
「倒した冒険者なんかから奪った剣や槍って可能性もあると思うけど」
「さすがにそれだけで百は無いよねえ」
バック、黒幕が居るのも確実のようだ。
百を越える金属製の武具を用意できるのだ。「バールのようなもの」ですら現代地球でも四、五千円はするだろう。この世界の冶金技術なら十倍以上の価格でもおかしくない。村人は木製の鍬を使っていた。個人で揃えるのは不可能だろう。
他国による陽動では無い可能性もありそうだ。
だがこの国の反乱軍としても少ない人数だ。いや、逆に少なすぎるのだ。それこそ切り札ともいえるテイマーに単独行を許す貴族や指導者が居るとも思えない。国内犯なら、それこそ小隊規模であってもおかしくないのだ。
「他国か国内犯か、どちらにせよ中心部に守るべき者が居るということだな」
「結局そいつを潰せば良いってこったな」
「原因というか、他国ならどこの国か、国内ならどの貴族か指導者か、究明しなくて良いのかな」
「構わないんじゃないかなあ。そこまで面倒見切れないよねえ。犯人が分かったところで僕等が手を出せないしねえ」
「俺達はメギョアの暴走を止める事が出来れば良いだけだろう。そうすればたぶん他国の侵略やクーデターは起こらない。それでも起きたなら、この件とは無関係と言うことだ。そこまで責任は持てないし、持つつもりも無い」
常々言っているように彼等はこの世界に責任を持つ気は無いようである。
異世界物の主人公なら根本的な解決を目指すはずだ。
相手はメギョアのような魔物を操って陽動で村を一つ滅ぼすような連中だ。クーデターであっても民のために立ち上がった者達ではないだろう。他国の軍隊ならなおさらだ。
「となると中心に魔法でも叩き込めば良いんじゃねえか」
「アローシャワーだっけ。あれを撃ち込むとかでも良いと思うけど」
「んー、あれは無理だねえ。遠射と範囲って組み難いからさあ。遠射ってスナイプ、狙撃が目的のスキルだからねえ」
「外縁まで百、さらに中心まで三百の計四百メートルあるからな。俺の魔術も範囲だと届かないな」
「そっか。遠射無しだとどれくらいまで近付かないと駄目なの?」
「森の中だから貫通も混ぜる必要あるしねえ。三百がギリギリかなあ」
「なら確実に接敵すんじゃねえか。エイティの魔術はどうなんだ?」
「離れた一点を中心に指定した範囲系だと二百五十メートルというところか。ファイアボールのような撃ち込み系だと、森の中で三百メートルも先では相当減衰しそうだしな」
「どちらにしても接敵して、更に押し込まないと駄目なんだね」
彼等は中心部まで乗り込んで相対する気は無いようだった。
中心に居る人間さえ消えればメギョアの集団も瓦解するだろう。
現時点の集結待機の指令が更新されないなら飢え死にするだろう。自分の意思を取り戻したら森に散らばるかもしれない。どちらでも構わない。
彼等は勇者でもなんでもないのだ。敵と言葉を交わそうなどとは考えない。遠距離から吹き飛ばせるなら当然そうする。
隣国の者であれ反乱軍の者であれ、彼等がこの国の情勢を知らない以上は話し合ったところで意味は無い。
隣国が急襲を目的に辺境で陽動を企んだのかもしれないが、逆にこの国が隣国を侵略をしていて報復に事を起こそうとしたのかもしれない。
権力欲に溺れた貴族が反乱を企んだのかもしれないし、愚王を倒すために民衆が立ち上がったのかもしれない。
だがそれを聞いたところでどうするというのか。
異世界物だと相手と話した後に事態収拾にも付き合うだろう。
隣国の急襲軍を倒しに行く。もしくは隣国の手助けをしてこの国を糺す。
反乱貴族を倒すか、民衆に寄り添い王を誅する。
根本原因を探し出し、お仕置きと言う名の殺戮を行うのだ。
物語の主人公としては正しい行いに違いない。そしてその結果名前が売れて、人々や王族に感謝される事になるのも。
彼等四人はそんな事を望んでいない。目標は地球への帰還だ。
有名になるなど面倒なだけだ。しがらみが増えることすら煩わしい。
村長の家での話し合いの際にドーリが考えていたように、平気で村を村人達を見捨てられるのだ。
ただエルイ達とネカハが無為に死ぬのはあまり気分が良くない。だからこんな行動を取っているにすぎない。
これが使命だと言うのも「想像」でしかない。本当は的外れなのかもしれない事すら理解しているのだ。
彼等はこの後の手順を相談し続けた。
「このまま斥候を避けて進む。百メートル先で接敵したところでゴローが矢の雨を降らす。五秒置いて二発目も撃つ」
「直径三十に金属武器持ちだったよねえ。余裕を取って五十の範囲にした方が良いかなあ。命中、範囲、剛力、貫通、その他諸々……二発撃ったらSP七割以上吹っ飛ぶねえ」
「突入もその後の撤退もゴローは戦力と考えない方が良いと思うよ」
「ああ。その後メギョアを蹴散らしながら五十メートル進む。そこで俺の魔術だ。中心直径五十メートルの範囲で瞬時にマイナス百度の冷却を行いしばらく保つ」
「森の中だからな。高熱系が使えないのは仕方ねえか」
「まあ、この季節この時間帯に厚着してるとも思えないもんね」
「そうだ。そして一分経った後で同じ範囲で旋風を起こす。風速三十メートルくらいだと普通でも立ってられないだろう。凍死でなくとも凍りついた身体で樹々にぶつかるかメギョアに巻き込まれるか、まともな状態ではなくなるだろうな」
「僕達の見せ場は五十メートル進むところと、一分間エイティとゴローを守りきるところになるのかな」
「別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「ドーリ……ここで変なフラグを立てないで欲しいんだけどねえ」
「範囲魔術二発と探知系魔術で俺のSPも八十パーセントは無くなる。援護は出来ないからな、頼むぞ」
ゴローによる矢の雨の二連射で範囲内の者は行動不能になるだろう。場合によっては死ぬ個体も居るだろう。
その後に氷点下百度まで下げられて一分もすると凍死するか、少なくとも低体温症で昏倒状態になる。その状態で竜巻の洗濯機に放り込まれたら、範囲内に生命あるものは残るまい。
おおよその計画を立てて彼等は進み始めた。




