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46.俺等は最適解を選んだってことかよ

 ふと考える。エイティ達と別れてこの村に残ることを。

 ネカハと夫婦になり、この村で農作業をして暮らす。

 ユーリやゴローほどでないにしろ、彼等から聞いた農作業の知識もある。

 現代知識チートを使って生産性を上げることも可能だ。村民が木の鍬を使っていたことからも、金属製スコップ等を作れば開墾も楽になる。それに彼のスキルがあれば野盗や魔獣も数体程度なら問題ない。

 エルイという伝手もある。幾つかの地球の知識や技術を披露すれば、現金収入も得ることができるだろう。

 いっそネカハを連れ出してバワの街で暮らしても良いかもしれない。


 そこまで考えて頭を振り、フッと笑みを浮かべる。

 男というのは幾つになってもバカだ。勘違いして先走りしてしまう。

 俗に吊り橋効果と言われる物に違いない。

 魔獣から守ってくれた見目もそんなに悪くない異国情緒の溢れる冒険者。

 ネカハの好意はたぶん恋愛感情ではない。興味や憧れの類だろう。


 仮に心から惚れられていたとしても。

 彼の身体は普通ではない。子供を作ることが出来ないかもしれない。

 知識チートの危険性も理解している。使えばどうなるかも予想がつく。ネカハという弱点を持てばなおさら危険だ。

 それに彼は異邦人、厳密に言うと異世界人だ。この世界での生活に簡単に慣れる事など無いだろう。

 なにより他の三人を残して、この世界に残る気など無い。


 ドーリは楽しそうに喋るネカハの言葉に相槌を打つ。そしてエイティ達に翻訳していく。

 四半刻ほどで村長とエルイがやって来た。馬車に残る護衛は交代したのだろう。先と異なる盾持ちの男と二刀の男を連れて来ている。

 エルイが近付いて来てドーリに話しかける。


「休憩は終えられましたか。明日の予定を話したいのですがよろしいですか」

「ええ、明日街の方に向かうのでしょうか」

「早朝に出発して少し強行軍を行うつもりです。本来なら三日目の晩に着く予定ですが、なんとか二日目か三日目の朝には辿り着きたいと考えています。そして騎馬の先遣隊を出して貰えるよう頼むつもりです。四十ものメギョアの討伐部位が有るのです。領主様も危機感を持ってくれるでしょう。本隊はその後ゆっくりでも良いのですから。急ぎになりますが、お付き合い願えますか」

「ええ、構いません」

「それで今夜の見張りですが……」

「それは私達が受け持ちますよ。休憩は十分取りましたしね」

「さすがにそれでは翌日がきついでしょう。夜中に私の護衛と交代して頂きますよ。申し訳ないですが、夜中までの見張りをお願いできますか」

「わかりました。それでは夜中まで我々が見張りをしています。エルイ殿と護衛達、村長殿やネカハさんも村に戻ってお休みになって下さい」


 そのドーリの言葉に村長が口を挟んできた。メギョアを埋めるために連れてきた男達を指しながら。


「この者達を残しましょう。なにかの役には立つかもしれませんしな」

「いえ、連れ帰ってゆっくり休ませてください。明日我々が去ってからが大変になります。今夜は英気を養っておく方が良いでしょう」


 エルイも同意するように首を縦に振る。

 ドーリの言うことはもっともである。それに村の男達が残ると、もし襲撃を受けた場合かえって邪魔になる。彼等を守りながらなど戦力低下を招くだけだ。

 護衛達やドーリ達、プロフェッショナルが居る間は任せる方が良いのだ。


「そうじゃな。すまんが頼みます」


 村長も納得したようで、胸に手を当てる礼をしながらドーリに話しかけた。村の男達も同様に礼をしている。そして村に戻り始めた。

 エルイも同じ礼を取った後、護衛達を連れて村に戻っていく。

 ネカハだけは何かを言いたそうにしていたが、ここに残ると足手まといになることは分かっているのだろう。礼をすると黙って去って行った。


 彼等が去ってしばらくして、ドーリはエイティ達三人に先の会話内容を話し始めた。エイティ達も会話自体は聞き取れないが、おおよその内容は分かっていたのだろう。


「日が暮れるまで三、四時間ってところか。明るいうちに森に辿り着けるな」

「交代に来る護衛達に逃げたって思われないかな」

「別に構わないんじゃないかなあ。なんなら一筆残しとくかねえ」

「……やっぱりお前等もその結論かよ」

「ドーリが先番の見張りを引き受けたのも、それが目的だろう」

「見ず知らずの村を助けるために、魔の森に潜入して魔物退治かあ。漢だねえ」

「何言ってるの。そんな気全く無いでしょ」

「まあねえ」


 彼等は自分達だけで森に向かいメギョアの退治を行うつもりであった。ただ間引くだけになるかもしれないが。

 だが村人のためという訳ではないようだ。


「俺等がここに居るのは……この為だったって事かよ」

「最初に砂浜で一泊してなかったら変わっていたと思う?」

「大して違いは無いだろう。昼前に泉に辿り着いても、あの道を進めば盗賊との戦闘だ。この村への到着が一日早くなるが、数日内に行商人が来る事を聞いたら待っただろう。逆側に進めば結局エルイと出会って今と同じだろうしな」

「なら砂浜で数泊してたらどうだったのかな」

「そん時は出口が魔獣の群れの中だったんじゃねえか」

「救いが無いねえ。どちらにせよグレム……メギョアと対峙になるんだよねえ」

「神様とやらの目的はこれなのだろうな」

「都合良過ぎるもんねえ。盗賊はともかく、僕等が村に来たタイミングで本来有り得ない四十体ものメギョアの襲来なんてねえ」


 ドーリが気になっていた事はこれであった。

 メギョアの暴走の解決。それが彼等四人に課せられた使命だと。

 他の三人も同じ考えだったようだ。


 彼等はこの事態を偶然だと考えるほど愚かではない。

 自分達は何らかの意図でこの世界に存在する。それも特殊な能力を持ってだ。そして不可解な状況に遭遇した。

 余程の能天気でもない限り意味が有ると考えるだろう。その場合に取るべき行動の予想もつく。

 もちろん実際に誰かに指示された訳では無い。無視して逃げても構わないのだろう。ただ、その場合は元の世界に戻れる可能性は無くなるのかもしれない。


「でも砂浜で数泊していたら、エルイ達は盗賊に、村はメギョアに滅ぼされてたと思うんだけど」

「そのこと自体はどうでもいいのだろうな。何百の犠牲が出ようが事態の収拾さえ出来れば」

「俺等は最適解を選んだってことかよ」

「僕等の思考が読まれてるんだろうねえ」


 彼等の行動は幾つもの選択肢があったのだ。

 砂浜で一泊以上していればエルイに会うことは無かっただろう。

 ゴローが真っ直ぐ進む事を考えずに適当に歩いていたら、数十度角度がずれていたかもしれない。その時は泉に辿り着かなかった可能性が高い。

 エルイに出会ったときに襲い掛かって馬や馬車を強奪する事もできただろう。

 盗賊団に味方したり、フィルヴィのみを殺して盗賊団の乗っ取りすらできていたかもしれない。

 村で乱暴狼藉を働いたり、メギョアの襲来時には逃げることもできたのだ。

 だが彼等四人をここに招いた誰かは、それをしないことを分かっていたのだ。


「ホントに今から逃げても良いんじゃねえのか」

「ネカハさんを見捨ててか? お前にそれが出来るとは思えないがな」

「エルイや護衛達を見捨てるのも後味悪いと思うよ」

「僕等って冷酷非道になったんじゃなかったのかねえ」


 どうやら彼等が非情になれるのは障害、敵とみなした者達だけのようだ。

 たった二日間だが旅の同行と盗賊退治を一緒に行ったエルイと護衛達。僅か半日だけ村を案内してくれただけの、だがドーリに好意を抱いている様子のネカハ。

 そんな相手を見捨てられない彼等は、根の部分は変わっていないのだろう。

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