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32.そんな無駄な時間を過ごす気は無い

 しばらくしてゴローとエイティがテントから出てきた。二人がかりで宝箱のようなものを抱えている。

 中身が詰まっているのだろう。相当な重さのようだった。

 ドーリ達の近くまで運んできてからゆっくり下ろした。


「本物の宝箱って重いんだねえ」

「幅百、奥行き七十、高さ五十、厚さ一センチの鉄箱という感じだな。蓋は丸みを帯びているし全ての接合面は縁取りされている。マンガやゲームの宝箱のイメージそのままだ。たぶん中身より箱自体のほうが重いのだろうな」

「マンガやゲームなら木箱ってイメージじゃねえのか」

「木箱は実際には有り得ないと思うよ。木製なら鍵なんか無視して壊せるんだし。鉄製なのは現代の金庫と同じ理由だと思うよ」

「言われてみりゃそうか。罠や鍵はどうなってんだ。ゴローなら分かんだろ」

「間違いなく罠があるなあ。罠の解析と解除、それから解錠となると最低でも一時間は欲しいねえ。護衛のスカウトさんが知っていれば少しは短縮できるかも知れないけどねえ」

「そんな無駄な時間を過ごす気は無い。そこの女に尋ねる方が早いだろう」


 エイティ達が宝箱について話し合っている最中に、エルイが近付いてくる。

 両手足が砕かれた男の襟首を掴んで引き摺って来ていた。

 ドーリはエルイに罠が掛かっていそうな事と、首領の情婦だった女に尋ねることを告げた。

 それを聞いたエルイは沈痛な面持ちで女を見る。引き摺ってきた男の証言から彼女の結末が目に見えていたのだ。

 ドーリは女の前に立って声をかける。


「鍵はどこだ」

「わ、私は最近攫われたの。何も知らないの」

「ネガティブ」

「ネガティブ」


 ドーリは無言で女の右太腿に刺さった槍を引き抜いた。

 エイティとゴローの言葉が分からない女は、騙されてくれたと思い心の中で息をついた。

 しかし次の瞬間左の太腿に激痛が走る。今度は左脚に槍が突き立っていた。

 女は先と変わらない音量の悲鳴を上げた。


「鍵はどこだ」

「し、知らない。フィ、フィルヴィ、そうフィルヴィが持ってるの」

「ネガティブ」

「ネガティブ」


 ドーリは引き抜いた槍を今度は左のふくらはぎに突き立てる。

 そして辺りに響く女の悲鳴を無視して機械的に問い続ける


「鍵はどこだ」


 女は痛みに悶えながら考えている。

 どうすれば言いくるめられるのだろうか。

 どう言えばフィルヴィが戻るまでの時間稼ぎができるのかと。


 この場に引き摺ってこられた両手足を砕かれた男も考えている。

 この女には付き合いきれねえ。フィルヴィは死んでいる。助けなんか来ねえ。死ぬのは確定事項だ。今すぐ死ぬか、苦しみ続けて死んでいくかのどちらかだ。

 フィルヴィが死んでやがるなら、あの女狐に媚びる必要もねえ。俺は早く楽になりてえ。あの商人らしい奴なら今からでも素直に話せば殺してくれそうだ。

 男は大声で叫んだ。


「女が持っている! その女の腹ん中だ!」

「な、あ、あんた何言ってるの。フィルヴィが戻ったら酷い目に合わせるわよ」

「馬鹿か、売女が! こいつらがここに居る意味が分かんねえのか! フィルヴィ? とっくに死んでるに決まってんだろ!」

「フィルヴィが死ぬ訳ないわ!」


 盗賊の男と女が痛みを忘れたように罵り合う中、ドーリが首を捻って呟いた。


「腹の中? 飲み込んでるのか?」

「違えよ! 女にゃ男にねえ隠し場所があんだろ! そん中だ!」


 男の叫びにドーリとエルイは一瞬考え込んだが、しばらくして理解した。

 ドーリはマンガでその検査をする場面を見たことがある。だが本当にそんなとこに隠す女がいるのか、という呆れた表情をしている。

 まともな神経をしている者に出来る筈がない。盗賊団の首領の情婦なんかをやっている女ならではの隠し場所なのだろう。

 エイティとゴローは男の方に気を向けてなかったために、嘘か否かの判定は出来ずにいたようだ。

 だがエルイが肯くのを見て、この男は本当のことを言っていると思った。


「エイティとゴローは嘘発見器の役目があると思うし。ドーリは押さえつけててくれる? 嫌だけど……僕がやるよ」


 ドーリの翻訳を聞いたユーリがゴローからナイフを借りながら言った。

 ドーリは女の胸に右脚を乗せて力を込める。ユーリは女の脚を開いて、その間にしゃがみこむ。

 自分の腹部に何かの切っ先が触れたことを感じた女は、焦ったように叫ぶ。


「ま、待って、嫌、嫌よ、自分で、自分で取り出すから、や、やめて!」


 女は慌ててドレスを捲り上げた。血塗れの両脚にヒッと息を呑む。

 そして痛みに耐えながら、おずおずと右手を下着の中に入れていく。

 さすがに羞恥心はあるのか顔を赤らめている。それでいながら自分の痴態が及ぼす影響を図るかのように男達を見回した。


 商人風の男は目を逸らしている。

 腕と脚を潰された男はニヤニヤと嘲笑っているかのようだ。

 そして気付く。ハンマー使いとその仲間の男達の顔に。

 まるで無機物を見ているかのような目。女性が自分の局部に手を伸ばしているのに、まるで虫けらが脚を動かしているのを眺めているかのような表情。

 その時初めて彼女は理解したのだ。自分はここで終わるのだと。

 それまでは慰み者とされて、それでも生かされるかも、命だけは助かるかも、と考えていたのだ。

 彼等は自分を女性だと思っていない。同じ人間とすら考えていない。

 脅しではない。叫ばなければ本当に生きたまま腹を裂かれていたのだろう。

 女は諦めたように自分の「中」から宝箱の鍵を取り出した。


「なあ、俺アレに触れたくねえんだが」

「僕も触りたくないねえ」

「僕もやだな」

「俺だって嫌なのだが……」


 女が手から落とした物を見た四人が呟いた。

 直径二センチ長さ五センチほどの両端が丸まった筒のような物が転がっている。なぜか表面が滑っているようだった。

 彼等四人の会話自体は分からないが、言ってることに見当が付いたのだろう。エルイがドーリに盗賊の衣服だったであろう布を手渡した。

 エルイもその筒に触りたくはない。だから布を押し付けたのだ。

 諦めたようにドーリは布越しに筒を拾い上げて弄くっている。すると中央から二つに分かれて、中から鍵が表われた。

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